あの日






「ハァァァァ!!!」


カキィィィィン!!!


ワァァァァァァァ!!


鋼鉄の壊れる音がする


時を遡り、俺が騎士団の編入試験を受けた日


俺の、勝利の日


深い絶望はあったけどよ、

俺はその逆境を乗り越えて

今、新兵決定戦を戦い抜いた……




新兵控室


ここは、トーナメントで戦い抜いた

戦士達が、新兵を認められる前に来る

ちょっとした休憩所


鈍色のロッカーが幾つかあり、

鏡があったりと、まるで芸能人の楽屋みたいだ



ダッダッダッ


「いよっしゃぁぁぁぁぁ!!!」


俺はそこに、英雄になった気分で踏み込む


「あ!!アーフィン!!」


「カレンさん!?まさか……?」


「えぇ!!ワタシも勝ち抜いてみせたわよ!!」


「おぉ、スッゲェ!!やるじゃねぇか!!」


「ふふん。皆すごいって言うけど、

騎士団に入った人は、皆この順序を踏む。

ここから始まるんだよ……!!」


「うげっ、やっぱ第七騎士群に居たやつら

みんな面構えがちげぇと思ったけど、

そういうことだったのかぁ……」


「ま、スッゲェ!!って言葉は頂くわ!!」


「おう!!素直に受け取るのが

何でも一番だよな!!」




「それにしても……

ここに居るやつら、皆個性あるなぁ……」


まだ15歳ぐらいのやつも居れば

中年の顎髭を伸ばしたやつも居る


歳の差がかなり開いていたけど、

皆目指したいものは一緒なんだな……!!



スタ スタ スタ スタ スタ……


!!!


「何だぁ……?

周りの空気が変わったな……?」


「シッ、アーフィン……

この感じ、聞いたことあるわ……」


「それって?」


「アイリスさんから聞いたんだけど……

一世代の中で、最も優秀な成績を残した人は

先に騎士団長と会うんだって……


それが理由で、一番遅くに来る人が

……"世代最強"って言われてるわ。」


「おぉ……!?

何かスペシャルな感じだなぁ!?」


「アイリスさんが前回の世代最強だったから

たまたま聞けたけど……

今回は、一体どんな人だろう……?」


スタスタ スタスタ


足音が近づいて来た


ガチャ


木の扉を開ける音

ドアノブを開ける音


おかしいな


あんな所に木の扉なんてあったか……?


それに、遅れてやってくるなんてずるいぞ

そっちの方が、主人公みてぇで嫌だなぁ


物語に出てくる主人公は、皆魅力的だろ?

そういう、皆に好かれるようなやつは

俺は嫌いだ


読者全員に好かれるようなやつじゃなくて、

少し尖った魅力があるようなやつが

俺は好きだなぁ


え?これも普通だって?

言ってろ




キィィィ……


「……」


扉が開ききった


25歳ぐらいの男は無言で立っている


なんでだろう


ただ立っているだけなのに

無性にイライラする


何カッコつけてんだと言ってやりてぇ


くそみてぇにカッコいい紺色の髪と

暗みがかった赤い目しやがって


おまけに赤に黒の線があるマフラーと

青色の制服着てやがる


……


「ねぇ!!何でそこでずっと無言で立ってるの?」


「カレンさん……!?」


カレンさんが勢いよく言った


俺は戸惑った


「……覚悟を決めていた所だった。」


「……なんだぁ?」


「皆、単刀直入に言おう。

今すぐ、騎士団を辞めろ。」




!!??


その場所に居る全員が困惑した


何を言っているのか

全く理解が出来ていない


俺も何言ってるのか

全くわからなかった


文字通りと言われればそうかもしれねぇ


だけどよ、世代最強と言われるやつが

そんなこと言うなんて、どうかしてやがる……



「それって、どういう意味……?」


カレンさんがよくわからなさそうに言った


「言った通りだ。

ヒヒュドラード騎士軍、ジェネシス

そしてここ、ドーヴェル騎士団


ぼくは流れ者、色んな場所を転々としてきたぼくが言う

早くここを抜けた方が良い。」


「はぁ……?何言ってんだてめぇ?」


俺は訳がわからなさすぎて

つい口を溢してしまった


「アルカナ大陸……いや、

"この世界全て"が、滅亡の危機に侵されている……!

ぼくは、それを阻止する為に

全世界を旅して、同志を集めている……!!」


!?


「……それって、あのビーストに関係が?」


俺が世界の滅亡の危機と聞いて

最初に浮かんだのがビーストだったから

とりあえず聞いてみた


「それも……世界の滅亡する要因の一つ。

人間は……今考えるべき、一番大事なことを

混沌の世の中が邪魔をして

考えられなくなってしまっている……」


よくわからない


それが第一に浮かんだ


だけど、その人物の顔は

まるで高校受験をする一浪の中学生のように……

必死で真剣な顔だった


俺は、世界の危機よりも先に

ビーストをぶっ倒してぇ……けど、

こいつは、今の世界のことを詳しく知っている気がする


話だけでも聞いておくか……




「とりあえずだけどよ、

おめぇの言ってる「世界の危機」とやらは

一体何なんだ?」


「……あんた達は、"魔法"を知ってるか?」


「……!?あ、あぁ……

ここに居るやつらは知らないかもしれねぇけど、

魔法っていう兵器みてぇなのがあるんだ。」


「そう。その魔法は……

"本来この世界には存在しないもの"なんだ。」


「……? どういうことだ?」


「この世界に……魔法という概念は存在しない。


この魔法は、800年以上も前に作られた

と言われている……が、この魔法を発動する時、

この宇宙に存在しない元素が働いているんだ。


こんなこと、絶対に起こるはずがないんだ。」


「えぇと……つまり、魔法というのは

この世界には本来はなく、

魔法を使う時、起こりもしない超常現象が起きる

……っていうこと?」


「おぉ、カレンさん!!

バカな俺でもわかりやっすい!!」


「その通りだ、カレンという者。

魔法は絶対に起こり得ないものだ。


では、それが世界の危機にどのように関係するか……

だが、この魔法という概念が広まることにより、

"世界の輪廻の輪が狂い始めた"……

と言っても、わからないと思うが。」


「世界の輪廻の輪……!?」


俺は語感だけですごそうだと思い、

そのまま繰り返した


「この世界には、

宇宙やその中にある星々の存在を維持する

"輪廻の輪"がある。


この輪廻の輪とは、

大きな歯車の周りに、小さな歯車が複数あり

小さい方が回って、大きな歯車が回るイメージだ。


しかしこの歯車に一つ、

回るのがとてつもなく速い歯車が出来てしまった。

その歯車が回ることにより、

全ての歯車が狂っていっている……」




ザワザワザワ


「あいつやばくね……?

てか、俺ら出番久々じゃね……?」


「あいつ、一人称がひらがな……

伸びるぞ。あいつ。」


「何がだよ。しょうもない話をするより

あいつ何者だよ……?

中二病かなんかかよ……?」




「そういえば、ぼくの自己紹介がまだだったな。

ぼくの名前は"ラース・ドーヴェル"。

輪廻の輪が壊れると推定される時代に

過去からやってきた。

皮肉にも、未来に行くのにも魔法を使わされたが…ね」


……………………


えええええええええ!!!

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