英雄





「……この戦い、俺達が勝ったら

"英雄"なんだよな……

それってつまり、常人には出来ないような

常識を覆す程の何かが必要……」


俺は無い頭で必死に考える


あの老兵達が、笑って生きる未来という

実現が難しい未来を、考える




俺に考える脳はない


俺に一流の剣技はない


魔法を使えるわけでもない



俺はごく一般的な兵士だ


騎士のような真面目な忠誠心も

そういえばなかったな



なら、俺の存在する意味って何だろう


テンションの盛り上げ役か?

俺はそんなのごめんだね


ならどうするか


何もないなら何もないなりに、

泥臭く考えるしかない……!!




「……隊長。」


「何だ。言ってみろ。」


「俺は……誰か一人が死んで

大勢が助かる……ていうやつは、

息が苦しくなるほど嫌いなんだ。


俺は全員が幸せになってほしいし、

救われてほしいんだ。


だから俺は、欲張ってやる。

欲張って、欲張って、欲張り続ける……

それはもう、小さい駄々っ子のようにな。


でも、俺はただの凡人

何にも特徴がない……ただの凡人


俺に考える脳はない……

全員が助かるようなトゥルーエンドルートは

思い浮かばなかった……!!

ほんと、自分が憎ったらしいよ……」


「……」


先生は、黙って聞いている


「だけどよ……こんな俺でも

一つだけ疑問に思っていたんだ。


「俺たちは、魔法の本がなけりゃ戦えない、

みみっちいやつなのか」……て。」


「……続けなさい。」


「古代の人とか、原初の時代とか

わけわかんねぇ時代の人間が作ったものなんざ

借りる必要もねぇ!!


俺たちは俺たちで、考える脳があるんだ!!

魔法なんかに頼らなくたって、

俺たちは戦えることを

ショウメイさせる時が来たんだ!!


凡人は凡人なりに、魔法が使えなきゃ剣で、

剣が使えなきゃ拳で、拳が使えなきゃ足で!!

泥臭く戦うんだ……!!


"英雄"って言うのは、

そうやって成るもんじゃねぇのかよ!!」


オォォ……


「俺は戦う!!

思えば俺たちは、魔法に頼りすぎていたんだ!!


魔獣に戦う為に魔法、

ある組織に戦う為に魔法、

患者を治す為にも魔法……


魔法頼りで、魔法を取れば何もねぇ


そんなやつに、俺はなりたくねぇ!!


だったら拳で殴り合って勝つ!!

何もないなら何もないなりに、

悪あがきすりゃあ良いじゃねぇか!!


昔の男の喧嘩じゃねぇけどよ、

そうやって、泥臭く欲張るのも

また良いんじゃねぇか?


……俺は、そう思う。」




……


一人の凡人は、その言葉で

全員を、今一度考えさせられる


魔法に頼るばかりで、

自分達は何をやっていたのだろうか……




「……隊長!!おねげぇします!!

俺を……俺たちを、戦場に狩立たせてください!!」


「ふっ、顔つきが変わったな。

……そうだ、な。私たちは"凡人"だ。

それならば、凡人なりに泥臭く生きる……

私は、そんなことも忘れていたよ……」


「……!! それって!!」


「あぁ……!!

これからは、私たちは最前線へと向かう!!

私たちで、この戦況を覆してやろう!!」


オオオオオオオ!!!




「ヴァーズさん!!」


私は、話を奥で聞いていたヴァーズさんの元へ

駆け寄っていった


「フハハハハ、聞いていたよ。

彼……確か、アーフィンだったか。

良い根性をしているな。」


「なら……!」


「ふむ、前線で倒れている兵士も居るだろうし、

君達には前線で戦ってもらうとしよう!!」




………………


「……と言うことで、オーナー!!」


「はいよ!!武器なら既に買ってある!!

最高級の剣を選び放題だ!!」


ドサッ


袋に詰まった、見るからに高そうな

切れ味抜群の剣が大量にあった


「……うーむ。」


「なんだ、これじゃ不満だったか?」


「いえ…そうじゃなく……

グリーンをどうにかして、戦いに生かせないかと……」


「うーん……それはアタシも考えてなかったなぁ……」


「……」


治療魔法、グリーン


それは傷や病を治し、

あらゆる異常から体を癒す

不思議な魔法……


「……!!」


そうだ……!!


今思えば、

この魔法を普通の人に使ったことはなかった……!!


逆に考えてみよう


眠いからブラックコーヒーを飲むとする


そうすると眠気はなくなり、その瞬間は

仕事や何やらに集中出来ることだろう


逆に眠気は別に無い時……


その時にブラックコーヒーを飲んだら、

夜に全然眠れなくなるだろう


これと同じように、

この魔法を普通の人に使えば調子が良くなって、

本来の強さよりもっと上の強さになれるでは……!?


「……こうなれば、実戦だな。」




タッタッタッ


「なんじゃなんじゃ……?」


「まぁまぁ!!」


俺ことアーフィンは、

さっきのラピスラズリの指輪の老兵を連れて

隊長の元へとやってきた!!


「隊長!!」


「よし……あなたがアーフィンが治した患者の?」


「そうじゃが……何がどうなって……?」


「……少し体を貸してもらっても良いですか?」


「? あ、あぁはい……

わっしのような死に損ないの体、

どうなっても構いませぬ……」


「本当にこのじいさんの体を使うのか?」


アーフィンが心配するように言う


「私たちの体では、

きっと変化はないだろうからな……

仕方がない。アーフィン!」


「はぁ、ったく。

これでじいさんに何かあったら

俺はアンタのこと恨むかもしれねぇぞ……」


……


アーフィンはそう言いながら

老兵の肩を右手で触れながら、深く集中する


(なんでもない人にグリーンを使う……

てことは、超絶調子がいいのをイメージすりゃ

良いのかな……?)


そう思い、俺は無双する白髪のじいさんの姿を

イメージしようとしたが……


(……ダメだぁ!!そんなんイメージ出来ねぇ

どんな奴でも、歳を取れば衰えちまうもんだ!

……それならどうすれば……あ!!)


アーフィンは、あることを考え出し

それをイメージする……!!


(……これなら俺でもイメージ出来る!!

じいさんの調子の"よかった"時……

それは……!!"全盛期の時"!!)


そうしてアーフィンは、

右手の触れる方を見ると……




「ぬおおおおおおお!!!」


「……ん!!?」


!!??


その場に居る全員が

驚いた表情をして老兵の方を見ていた!!


それもそのはず、その老兵はなんと……


「……若返ってるぅぅぅ!!?」




「ふんッッ!!ふんッッッッッ!!!

おおおお、間違いない……この感覚は

あの時の……!!」


老兵は、先の老いぼれた姿から

茶髪のロングヘアーをした

28ぐらいの、超絶美男子に変わっていた!!


老兵は、大剣を振り回して

感動に浸っている


「ハッハッハッ、これは良い!!

帰ったら妻に自慢してやろう!!」


「いや、帰ってもあんたが誰だか

わかんねぇ気がすんだが……」


「フッ、良いじゃないか。

この元老人……かなり強そうだ。」


「おお……そこにいる今の若者よ。

わっしのこの溢れ出る力が……分かるのか?」


オオオオオオオ……


そりゃそうだろ


こんなに全身からオーラが溢れ出ているやついねぇよ

騎士団長でも「オオオオオオオ……」

って効果音が鳴るぐらいのオーラ無かったぞ……!?


「皆!!てめぇらもこの魔法を浴びたら

わっしみてぇに全盛期に戻れるぞ!!」


うおおおおおお!!


「わしがさきじゃ!!」


「おめぇよりおれの方が強くなれるだろ!!

おれが先だぁ!!」


ガヤガヤガヤ


「まぁまぁまぁ、皆落ち着いてくれ!!

一列ここから作ってくれたら

皆俺が全盛期に戻してやっからよ!!」


おおおおお!!

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