老兵




スタ スタ スタ


……


「おーい、話し合い終わった〜?

……て、すごい静かだね!?」


「……当たり前だよ。

シュヴァルツさん達は、知りたくないことを知った。

わたしもあっちの立場になったら、

そりゃ落ち込んだり、絶望するよ。」


「……ふ〜ん。まぁいいや。

君達が話し合いをしている間に、

僕は新たな情報を手に入れてきました!!」


おー


「まぁ、吉報じゃないのが

気遣い出来ない悪いやつみたいで嫌なんだけど……

今回は君達シュヴァルツ君達の為になる

良い情報だよぉ!!」


「それは一体……」


シュヴァルツが懐疑的に言う


「……第七騎士群に潜むスパイについてだよ。」


「「!!!」」


「てっ手紙……!!」


「ナガサキさん、まずは落ち着きましょう……

それにまだ、小生達は心の準備が出来ていません」


「そうかー。ま、僕は"もう"その先生には

興味ないんだけどね」


……


「ごめんごめん!!君達にとっては

かけがえのない人だったよね。

さて……手紙を書く準備が出来たら

話を始めようかなぁー」




………………………………




ドゴォォォン!!


何かの爆発音だろうか

壮絶な戦いの音が聞こえる


そう……それもそのはずだ

私たちが来たのは、その戦場だからだ


土地は砂漠化しており、

辺り一面黄色い砂が踊っている


人間の業で出来たこの土地で、

今もまた、戦いの火蓋が落とされていた……




タッタッタッタッタッ


私たち第七医師団は、

ヴァーズさんと黒魔術師の案内のもと

北東の「アルカナ砂漠」で繰り広げられている

東軍(ヒヒュドラード騎士軍)と西軍(名誉騎士軍)

の戦場に赴いた



「テントがいっぱいだな……

その分、怪我人が多く居るんだろう。」


私は辺りを見渡しながら言った


「その通りだ。我々名誉騎士軍は

エリートの集まりだが、

そんなエリートでも数には勝てない。

まずは怪我人の手当てをしてくれ!!」


「わかった!!

全員、手当たり次第にテントに向かうぞ!!

テントにいる患者を全員治したら

ここに集合すること!!分かったら散るぞ!!」


タッタッタッ




「「お邪魔しまーす!!」」


俺ことアーフィンとカレンは

三角の布のテントに入る


「おぉ……あなた達がお医者さんですか?」


「はい!!そうですよ!!

まずは怪我を見せてくださいねー!」


カレンは勢いよく患者の元へ行き、素早く治療する




「……グリーン!!」


ポォォ……


「これで全員ね……」


「あぁ。こっちも終わったぞ!」


「なら、早く集合場所に……」


「ちょっとお待ちを!」



そこには、鉄のチェーン装備を着た

老兵が止めてきた


「何ですか?」


俺は足踏みしながら言う


「お前さん方……もしかしてこれって

魔法ですかい?」


「!? どうしてそれを……」


「そりゃ、わっしもローブ族だからねぇ。

魔法の一つや二つぐらい分かるよ。」


「あんたもローブ族かよ!?」


「それで、何用なんですか?」


カレンが急がせるよう言う


「……この指輪を、わっしの妻に

渡してはくれんかのう……」


そうすると、老兵は指に着けていた

深い青色のラピスラズリが入った指輪を外して

渡してきた


「「!!?」」


「わっしから、最初で最後のお願いじゃ……

この戦いは、どう考えても負け戦……

わっしも直に死ぬ……ならばせめて

わっしの遺品を妻に届けてあげたいんじゃ……」


……


一旦、俺は深呼吸した


「……残念だが、それは貰えねぇ。

あんたは生きるんだ。

生きて、また妻に会いたいだろ?」


「ふぉっふぉっふぉっ……

優しいのう。最近の若者は……」


「俺は優しくなんか……」


「……お主ら、手にまめが出来てるのう……?」


ギクゥッ


「ふぉっふぉっ、良いんじゃ良いんじゃ。

医者じゃなくとも、傷を治せるんじゃから

立派なもんじゃよ。」


「す、すみません……」


「わっしは謝ってほしいわけじゃない……

もう一つ、お願いが増えたがのう……」





「……老いた老ぼれからの願いじゃ……

その魔法の力で、この戦いを終わらせて来れませぬか

……本当に、お願いします……」


「……!!」


たった3行


それだけのお願い


たった一つの老人のお願い


俺は優しくなんかない


偽善なんて言葉の意味も知らない


だけど、俺はそのたった3行のお願いを

すッッッッッごく叶えてやりたくなったんだ


俺は、じいさんのその言葉に

こころを動かされた……




俺は爺さんの思いを受け取り

ある確かな決意を抱く……


「この内乱を、俺達が終わらせてやる……!!」




タッタッタッ


「隊長!!」


カレンは走る勢いのまま隊長と呼んだ


「……あぁ、アーフィンとカレンか。遅かったな」


「俺から良いか?カレンさん」


「えぇ。」


アーフィンは、一息溜めた


「……よし。」


「どうかしたか?」


「隊長!!俺たちがこの戦況を変えてやりましょう!」


!?


その場にいる隊員達が皆息を呑んだ


「……アーフィン、どう言うことだ?」


「患者の中に、老人が居たんだ……

その人は、すげぇ優しそうな声で言ってきたんだよ

ラピスラズリの指輪を妻に届けてやってくれって。

この戦いは負け戦とも聞いたんだ。


それでよ……俺は、絶対に嫌だ

あんな人が大切な人を置いて死んでいくなんて……


自分が死ぬのはいい。

だけど!!他の人が死ぬ覚悟は

ぜってぇに出来ないし、やっちゃいけねぇんだ!!」


「!!」


「そうですよ隊長ぉ!!

アタシからも、この戦いを終わらせる為に、

前線に参加するべきです!!」


「カレン……アーフィン……

………………………………」




隊長は、考えているのか

少し間が空く


「……私たちは、

アイリスのように炎を操れる訳ではないし、

最強の剣士でもない。

それでも、何か戦況をひっくり返すような

案を出せるか……?」


「そ、それは……」


カレンが戸惑う


「……いや、すまない。

圧をかけてる訳じゃないんだ。

でも、君達の考えが聞きたかった。」


「………………」


「……アーフィン?」


アーフィンは深く集中し、

この戦いをどう乗り越えるかを


考えている……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る