五時限目 自習





「ねぇ、団長があんなんだしさ

どうせなら、この世界の真実、知りたくない?」


「え……?」


「冷静に考えてみてよ、

君は何か恩を感じて炎部隊で戦ってたみたいだけど

その感情も、全部作られた物なんだよ。

贋作ってやつかな。


アイリスは所詮、騎士連邦国の消耗品として

扱われてただけなんだよ。」


「わたしが……消耗品……」


「そこでさ、今のこの世界で

一体何が起こっているのか……

そして何より、アイリスの無くした存在意義を

もう一度、探してみないかい?」


「……」


アイリスは、深く考えている


(わたし個人としては、

こんな怪しいやつに手を貸したら

ろくな目に合わないって思うけど……

先生との約束も、作られた物だって言うのなら

わたしはもう、ここに居る理由はないな……)


「アイリスくん……!!

ダメだ、そんなやつに利用されては……」


「……利用?利用してたのは、

あなた達ドーヴェル騎士団じゃないんですか……?」


アイリスは、静かな怒りをあらわにしながら言う


「ッ……」


「……決まったかな?」


「……………………うん、そうだね。

これからわたしは、アイリス・スカーレットじゃない。

……作られた人生を歩むのは、懲り懲りだ。」


「それじゃあ、なんて言う名前にする?」


「……そのままビースト・アイリスで良い。

化け物っていう感じが全面に出てて、良いと思うな。」


「なら決定だね!!」


「……待て!!アイリスくんを渡す訳にはいかない!」


ダッダッダッ


団長が近づいてくる


「さぁ、僕の手を取って!!」


「……うん」


トンッ


「……行くよ!!」


小さな子供は目を閉じて集中する


「待てぇぇぇぇぇぇ!!!」


シュンッッッッッ!!


それは、瞬きにも満たない速さだった

人、風、音、光……全てを追い越す速さで

音もなく消えていく……


一人の少女は、自分の存在する意味を追い求めて

その場所から消えていくのだった……






「……と言うことよ。」


アイリスは、ここまでの経緯を包み隠さず言った


「「そんな……!?」」


シュヴァルツとナガサキは動揺している


「つまり、小生達のこの性格や何から何まで

全て作り物……だと!?」


「そうだよ……わたし達の人生は……

全て、まがい物に過ぎなかったんだ。」


「そ……そんなの嘘に決まってるでしょ!!」


「ならあなたも、騎士団長に聞いて見れば?

聞けたところで、帰ってくるのは沈黙だけだけど。」


「ッ……」




「……これでわたしは第七騎士群のスパイではないって

分かってもらえたと思う。」


「……まだ、大事なことが一つ抜けている。」


「?」


「小生達は、どうして生まれたのか……?

これは、アイリスさんが存在意義を求める前に

知っておくべきことだろう!!」


「それは……聞いてなかったな。」


「……こんなことを言っておいて何だけど、

小生は先生のように、一人で答えは導けない……

無責任だと思うけど、こればっかりは……」


「シュヴァルツくん……

大丈夫!!アタシも着いてるから!!」


「……あなたが敵じゃないのなら、

わたしも考えてみる。三人で考えよう。」


「「おー!!」」


「ま〜ったく、僕はハブられるのか〜」


「……初代ビースト。

わたしはあなたのこと、信用してないから。」


「うは〜、きついなぁ。

まぁ良いさ。これはホムンクルスの問題だからね。

僕は関係ない、関係ないっと。」


スタスタスタ


少年は、路地裏を出て大通りの方へ歩いていった




「……うーむ、まずは何から考えれば良いのだろうか」


「あれじゃない?まずは騎士団長の気持ちになって

考えれば良いんじゃない?」


閃いたようにナガサキが言う


「……団長。何で無言だったんだろうな……」


アイリスが顎に手を置きながら言う


「無言ですか……やっぱり、

後ろめたい気持ちがあったのではないでしょうか。

"罪の意識"と呼んでいいかも知れません。」


「罪……か。」


アイリスが少しうつむきながら言った


「……あ!!」


「ナガサキさん、どうしました?」


「ねぇ……ちょっと考えてみてよ。

もしもアタシ達を騎士団に入れて戦うのが目的なら

アタシ達に感情は要らなくない?」


「「あ……」」


確かにそうだ


小生達は、今もこうやって考え、悩むことができている

それは何でだろうか……?


「……小生達に、選択させる自由を与える為……?」


「「!!」」


「確かにそれならアタシ達に感情があるのは

納得がいくなぁ。」


ナガサキが納得する


「待って……わたしは、義父や義母に

騎士団に入るよう言われた……

騎士団に入るよう誘導したんじゃないの!!?」


「アイリスさん、それじゃ感情があること自体が

矛盾になってしまう。

もし、小生達の体が作られた物であっても……

人生すら作られた物だと言うのは

間違っていると思います……!!」


シュヴァルツがアイリスの目を見ながら言う


「そうですよ!!

確かにアタシ達は騙された。

人間じゃないって、そりゃ辛いことだよ。

だけど、それでもアタシ達が望んでいるのは

前と変わらない人間としての生活のはず……!!

本当に化け物になっちゃダメなんだ!!」


「……」


アイリスはうつむき続けている


「アイリスさん……?」


シュヴァルツが心配そうに言う


「……わたしは、自分のことを

人間じゃないと思ってるな……」




「それは何で……?」


ナガサキがわからなさそうに言う


「……わたし、ずっと考えてきたんだ。

なぜ魔法はこんなに便利なのに

今まで使われてこなかったのか……」


「それは……広まると大戦争が起こる

きっかけになるから……じゃないんですか?」


シュヴァルツが言う


「それもあるだろうけど……

皆、先生が七転図書館で初めて魔法の本を手にした時

聞こえたあの声を覚えてる?」


「ナガサキさんはその時居なかったから

分からないと思うけど、

先生が魔法の本を手にした時、声が聞こえたんだ。

全部は覚えてないんですが、

小生達は確かその本に、「選ばれし者」と

呼ばれてたな……」


「そう、わたし達は選ばれし者と呼ばれてた。

それってつまり、魔法の本に選ばれる為の

"選考基準"ってのが、わたしはあると思う。」


「選考基準……?」


「それで、魔法の本に選ばれなかった

あの本屋の魔術師の例を思い出したの。

梓月病の病原菌が街中に飛んでいったっていう、

最悪な例があるでしょ?

でもわたし達は選ばれたらしく、

街には何も起こらなかった……」


「それは幸運だったからと

言うのもあるんじゃないんですか?」


「シュヴァルツさん、そうね。それもあり得るけど……

あの本に限って、そんなことは無いと思う。


それでわたし、気づいちゃったんだ

わたし達が魔法を使えるのは、

"ホムンクルス"だからじゃないかって……」


「「!!!」」


「確かに……騎士団長は本に"選ばれる為の何か"をして

魔法の本を普通に読むことが出来たんだろうが、

あの人は魔法の本について、

そこまで熟知しているようではなかった……!!」


シュヴァルツが

前、カート・ドーヴェルが謝っていた時のことを

思い出しながら言った


「だからね……この魔法って言うのは、

ホムンクルスであるわたし達にしか使えない物で……

つまり、わたし達と普通の人とでは、

明確に違うものがある……

そんな自分達を、本当に人間って呼べるのかな……」


「「……」」


「ちょっと脱線しちゃったね……ごめんね。」




……


「……皆、まだ騎士団長がなぜ小生達を作ったのか

と言う肝心なことが分かってないですよ。」


「それはそうだけど……

答えはもう出てるんじゃない?

選択の自由はあるけど、結局は

わたし達を軍事利用する為……じゃないの?」


「……そうですよね。

小生も、今はそうとしか考えられません。」


「アタシも……そんな事実嫌だけど、

そうなっちゃうのかな……」


「「「………………」」」




三人は、互いに知恵を振り絞り

自分達なりの答えにたどり着いた


それが合っていようと、間違っていようと

彼らは分かったものが一つだけある


それは、自分達は人間ではないという

残酷すぎる事実だった


この不毛な議論は、

一旦静寂によってかき消される


時が解決すると


彼らは、そんな一握りの希望に頼り

話し合いを終わらせるのだった……

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