四時限後の昼休み





「ようこそ、我らがアジトへ!!」


「人間型……生物兵器……!?」




三日前 何処かの地下空間


「うぅ……わたし、何でここに居るんだっけ……

何がどうしてこう……?」


わたしは起きた


どこかに囚われているということは分かったから

寝ているふりして、隙あれば逃げようとしたけど

わたしを殺すつもりがないなら

ここで起きてもいいはず……


「ここは……」


わたしは周りを見渡した


まず、周りの壁は人工的に作られてるのはわかった


暗い中、目を凝らして壁を見てみると、

この空間は白い石で覆われていて、

丸いパイプの中のような場所だ


どうやらここはマンホールの中のようだ


ポタ……ポタ……


水だろうか


地面に水滴が落ちる音が聞こえる


地面が湿っている


その音で、今の居場所をマンホールの地下だと断定した


「ごめんね〜。ここ湿ってるでしょ?

あ、手首を縄で縛ってるけど

拷問とか尋問とかする気はないよ。

まぁ、暴れたら嫌なだけだったし、今解くよ」


ズン ズン


「……!!」


アイリスは、人周り大きな

黒毛のビーストに驚きを隠せないでいた。


ガオッ


シャキーン


「……な、なんで……?」


黒毛のビーストは、鋭利な爪で

わたしの手首に縛られた縄を切った


「……僕の話を聞く気、ある?」


「あなた達は……?」


「へっへーん!!

僕の名前はイーリック!!

ジェネシスに一番最初に作られた生物兵器で、

僕たちはそこから抜け出してきたんだ!!」


「ジェネシス……!?今騎士団と敵対してる

……って言う?」


「うん!!そうだよ!!」


「……!!!」


その時、騎士団と敵対している組織のことを思い出し

それと同時に、今までの経緯を思い出した!!


タタッ


わたしは二歩後ろに下がり、警戒体勢を取った


「……仲間達の無念を晴らす!!」


わたしは小さな火球をイメージし、

牽制をしようとしたが……


「……火が、出ない……!?」


「ふん。こんな湿った場所で

火の魔法が使える訳ないでしょ。」


「クッ……!!」


スタタタタタッ


わたしは振り返り、出口を探して逃げようともしたが…


シュンッ!!


「なっ……!?」


「もちろん、僕からも逃げられないけどね〜」


(逃げるのも無意味か……!!)


「何をしようと無駄だよ。

舌を噛み切って死のうとしても僕が魔法で治すよ。」


「……くぅぅ」




「何をしても無駄なのはわかった?

少しは僕の話を聞いてくれる気になった?」


「……」


「それじゃ、話せば興味を持つと思うよ。

あのジェネシスも絡んでいることだから……」


「……何でわたしを生かした……?

わたしが、生物兵器……?」


「……君は、僕の体を元にして作られた

言わば僕の"妹"なんだよ。」


「いもッうとッッ!?」


「うん。だから僕のことはお兄ちゃんって呼んでよ」


「絶対呼ばない。」


「……と言っても、生まれた場所は全然違うけどね」


「どう言うこと?」


「僕はジェネシスから生まれて、

アイリスはドーヴェル騎士団から。」


「え……?」


「……ここからは、多分ショッキングなことだけど

……覚悟して聞いてね。」


「……ちょっと整理させて。」




わたしは既に話についていけてないので

ここで一旦話の整理をすることにした


まず……わたしは炎部隊で

第八騎士群の跡地に出向いて……

そこで黒毛のビーストと出会し、

炎部隊は全滅となった……


でも、わたしは生かされて、

どこかのマンホールの地下空間に連れ去られた


そこでジェネシスと言う騎士団と敵対している組織から

逃げ出してきたという

わたしの兄を名乗る小柄な子供が居た


その子供から、わたしはその子を元にして作られた

人間型生物兵器だと言うことを知らされた……


そしてその作った組織と言うのは、

わたしが所属していた

"ドーヴェル騎士団"だと言うこと……


よし……多分うまく纏められたし、

兄を名乗る謎の子供に話しかけてみるか……




「……ねぇ。」


「ん。整理出来た?」


「ぜんッッッッッぜんわかんない!!

何でそうなった!?


わたしは人間として育てられたはず……

と言うか、わたしは人間だ!!

そんなこと、嘘に決まってる!!

デタラメだ!!」


アイリスは、声高にしてそう言った


少年は困った顔をした


「う〜ん……もう一度言うと、

あなたはワタシの妹で、

人間型生物兵器……あ、キメラじゃないよ

人工人間、ホムンクルスだよ。

騎士団で作られたよ。」


「あーもー!!分かんないったら分かんないよ!!

訳分かんない!!

わたしがホムンクルスぅ……!?

どこの○の錬金術師よ!!」


「まぁまぁ落ち着いて。」


ダッダッダッダッダッ


ギャオオオオオオオ!!!


黒毛のビーストが、音の鳴る方へ咆哮をした


「……それに、"上客"も来たようだから

その人にも聞いてよ。

ちょうど良い所に来たな〜。」


ダッダッダッ……


「……ほう。これはこれは。

どうやら、ややこしいことになっているようだね……」


「ハンネバル騎士団長!!?」


「待たせたね。アイリス君。」




「お〜。騎士団長一人でここに来たんだ〜。

良い度胸してんじゃん。」


「君は……"ビーストの祖"か。

それに……黒毛のビースト?」


ギャオオオオオオオ!!!


「……黒毛も、すごく強そうだね。

これは私も、本気を出さないとね……」


チャキィィィ……


キラキラッ


団長が、黄金の鞘に手を伸ばし、剣を抜いた。

その剣は、光の無いこの地下空間に

唯一の光を灯した……!!


「……こんな暗い場所でも、その剣は輝くんだ〜。」


「"光剣エタンドル"……!!

かのラース・ドーヴェルが使った剣とされていて、

歴代の騎士団長に

代々引き継がれてる伝説の名剣……!」


アイリスは目を輝かせながら言った


「……指揮官。相手してやれ。」


ギャオオオオオ……




ズン ズン


「普通のビーストより一周り大きいな。」


黒毛のビーストは、騎士団長の目の前に立つ


まるで、その剣を振られたとしても

全く脅威とは思っていないかのように……


……


暫く無音が続く


ハンネバルは見上げ

黒毛ビーストは見下す


それは、お互いがいつ攻撃をされても

全く問題がないと言う……

二人の"傲慢"から、戦いは始まった!!


……


「指揮官!!」


ギャオオオオオオオ!!!!!


ブォォォ!!


それは、子供の一声から始まった


黒毛ビーストは、その圧倒的な力でねじ伏せようと

右手を上に上げ、その右手を振り下ろした!!


「……」


ハンネバルは、無言で目を閉じる


ブゥゥゥゥン


バゴーーーン!!!


ビーストの攻撃がもろに当たった


地下空間に、ありえないほどの轟音が鳴り響く


……


「団長!!?」


タッタッタッ


アイリスは、その音を聞き

到底人間には耐えられないと思い、

その場所へ駆け寄った


「ふむ……なかなか憎める肩たたきだな。」


!!?


確かにものすごい轟音が鳴り響いたはず……


しかし、全く効いていないように

ポッケに手を突っ込みながら

騎士団長は言った


ギャオッ!!?


「……人間は、800年間進化し続けてきた

……いや、その前から……何億もの歴史を経て

今、人間は生きている。


"オマエ達"のような、

他の生物の歴史を踏み荒らして出来た生き物に……

人間は、負けんよ……!!」




「……魔法か!!」


少年は慌てて言った


「初代ビースト……オマエは後だ。

まずは……人間の叡智の結晶を見せてやろう……!!」


アイリスは、冷静に今の状況を考える


(他の隊員の人の手紙で知ったんだけど、

あの本屋の魔術師が魔法の本を貰った相手って、

確か兄であるハンネバル団長だったよね……


もしかしてだけど、

団長は魔法の本を本屋の魔術師に渡す前に

その本の内容を全部理解してから渡したのかな……?

もしかして、だけど、そしたら騎士団長は

"全ての魔法を使える唯一の人"

かも知れない……!!)



ギャオオオオオオオ!!!


ゴギャン!!ブォォォ!!

ドゴォォォン!!!


黒毛のビーストは、その剛腕で連撃を繰り出すも、

団長には全く効いていないようだった


「……プロテクト・シールド。

この魔法は、私の肌の周り1センチほどの間に

"小規模のバリア"を発生させる……

残念だったね。このバリアはどうやったって

破れはしないよ。」


ギャオッギャオッ!!


ガンガンガン!!!




「……終わりにしよう。」


ピカァァァ!!!


団長が一言発すると、光剣は輝きを増し

今にも黒毛のビーストを切り裂かんとしようとしている


ギャオオオオオオオ


「……ハァッッッッッ!!!」


シャキィィィン!!


グォォォォォ!!


空間が裂ける音がする


ギャオオオオオオオ!!!


黒毛のビーストは、赤ん坊のように泣き叫んだ


斬られた場所より上、半身が

斬られた空間に吸い込まれていっている……!!


「この剣は、斬った箇所の光を奪い……

超小規模のブラックホールを出現させる。

光剣エタンドル……名前の通りの剣だよ……!!」


グゴォォォォ……


黒毛のビーストの声が

だんだん小さくなっていく


勝敗は、誰が見ても明らかだった


その勝者の強さを例える物差しさえもなく、

アイリスさえも、ただ見ているしかなかった……


「あれが……アルカナ大陸最強の人間……

ドーヴェル騎士団長、

ハンネバル……ドーヴェル……!!」




チャキッ


スゥゥ……


ハンネバルはその剣を鞘に収めると

ブラックホールは、すぐさま消滅していった


「さて……アイリスくんを返してもらおうか。」


スタ スタ


「はぁ……やっぱりラース・ドーヴェルが化け物なら

その子供も化け物なんだなぁ。」


「……次はオマエの番だ。」


「待って!!」


アイリスは、団長が戦う体勢を取ろうとした所を

止めさせるように、二人の間に割って入ってきた


「……アイリスくん?」


「……ハンネバル団長。

一つ、教えて頂きたいことがあります。」


「……言ってみなさい。」


ハンネバルは、一瞬子供に目線を合わせたが

すぐさまアイリスに目線を合わせた


「団長……そこにいる謎の男の子から聞きました。

わたしが……生物兵器、ホムンクルスだってこと。

これって……本当ですか?」


「……何を吹き込んだ?」


「ん〜?全部本当のことだよ〜。」


「……」


「団長……?何か言ってくださいよ……」


「ついでに確認した方が良くな〜い?

他の騎士団に所属している皆も

ホムンクルスで〜、それに

騎士団に入るように行動原理も作られた物

だってことも。」


「!?」


「……」


団長は無言を貫いていた。


「うそ……」


「全部本当だよ?

アイリスの父さんや母さんも

騎士団に入るように誘導したでしょ?

アイリスは、本当はお花屋さんとかになりたかった……

そうじゃない?」


「……!? どうしてそれを……!?」


「そりゃ、僕だって色々と調べたからね。


アイリスの学生時代も騎士団で働けるよう作られた物

小さな頃の趣味だって、作られた物

今のその性格や、人生そのものも、

ぜ〜んぶ作られた物なんだよ。」


「……な、何を言って……………………

団長…………ほんとう…………何ですか…………?」


「……」


団長は無言を貫いていた


それは、誰がどう聞いたって

拭いきれないほどの……

大きな闇を…わたしは知った。

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