鉄と炎の剣




「アイリスさん……!!??」





「シュヴァルツさ〜ん、

何をそんなに驚いて……え!!?」


「……あなたは、歩兵部隊の……」


「ハッ!!訳あってシュヴァルツさんとアタシは

第七医師団とは別行動をさせてもらってます!!」


「……そう。」


「アイリスさん……確か、ビーストを殲滅する為

小生達の国に留まっていたはず……

それが、どうしてここに居るのですか……?

炎部隊がここに来るなんて話、

小生は聞いたことないのだが……」


「……まだその話は、届いていないのか

それともわたしが生きているから

全滅と言わないのか……

騎士団には、とことん失望させられるな……」


「……!?」


「……炎部隊は全滅した。

わたしも……その時、死んだ。

いや……生まれ変わったと言って良いな。」


「な、何を……!?全滅って、何を言ってるんですか

アイリスさん!!」


ナガサキが慌てるように言った


「ナガサキさん……だっけ。

言葉通りの意味よ。

黒毛のビースト一匹に、炎部隊はなす術もなく

やられていった……」


「他の人がダメでも、アイリスさんなら

そんなビースト一体に……」


ナガサキはまだ信じられない様子だ


「ッ!!他の人が雑魚みたいなこと言わないで!!」


「ご、ごめんなさい……」


「……その炎部隊の人達も、もう居ないけどね……」




アイリスは、続けて言った


「……一つ言っておく。

今後、わたしの邪魔はしないで。

わたしの事は忘れて。

わたしが関係することに関係するのは止めて。

これは"忠告"ですよ。」


「アイリスさん……あなたは、

この数週間で何を知ったんですか……?」


「聞かない方が良い。

だけど、わたしから言えることは……

叩けばどこの国も埃が出てくるものよ。


それじゃ、わたしは失礼するよ……

……最後に一つだけ。

シュヴァルツ達は、ここに居て良いの?

一番大切な人が守れなくなるよ。」




「……」


小生は、ただ無言だ


スタ スタ スタ スタ


アイリスさんは歩き出した


この時だけ、時間が遅く感じた


アイリスさんも、絶対に考えがあって

この行動をしている


それは分かる


けど、それが何かは分からない


何をすれば良い


何をすれば最良の選択で

何が最悪の選択肢か


それは小生にも、誰にもわからない


そう、分からない。

いつも小生は、今一番知りたいことだけが

いつも分からない。


先生ならどうするのだろう


それも小生は分からない


小生はずっと黙って立っていて良いのか

このまま仲間を失い続けていくのか


これで良いのか……?


小生は


小生ハ


小セイハ


ショウ……セイ……ハ……






……良いわけが……ないだろォォォッッ!!!!!




スタタタタタ


小生は走り、アイリスさんの居る方向に回り込んだ


「……シュヴァルツ。

あなたが冷静さを欠くなんて、

これが初めてなんじゃない……?」


「……ハァ、ハァ」


小生が少し過呼吸気味なのは

この時は分からなかった


「シュヴァルツくん……!?」


「もう……イヤなんだ!!!!

仲間を疑うことも……!!!

仲間を失うことも……絶対にしたくない……!!


思えば小生は、"覚悟"が足らなかった!!

いくらやる事なす事全て上手く行き、

完璧な指揮官だとしてもッッッ……

仲間の悩んでいることに気づかずッッ

一緒になって悩んであげることが出来ないのなら……

それは何者でもない……ただの愚か者だッッ!!!」


「シュヴァルツくん……」


「小生の目の前で、アズキが居なくなった……

それは、アズキなりの葛藤があったからだッッ……

なのに小生は、全く気付く所か、

彼の居場所を無くすようなこともしてしまった……


これは、小生の"罪"ダッッッ!!

だからッッッッッ!!!

その時に小生は、目の前に悩んでいる仲間が居たら

今度こそ、絶対に助ける……

助けてみせると決めたッッッッッ!!!」


シャキーン


小生は抜刀した


そうだ……今まで、小生は何事にも

本当の意味で本気になったことは、一度もなかった!!


今までずっと冷静だったのも、

一度も本当に"勝ちたい"と考えていなかったからだ……


"覚悟"を決める時だ……

もう二度と、過去のような過ちは犯さない……

もう二度も、仲間を失いたくない……!!!


「聞かせてくれ……アイリスさんが

悩んでいることって、何なんだ!!」


「……」




ボッ!!


「……シュヴァルツ"さん"。

あなたとは、一度本気の殺し合いをしてみたかった。

前のわたしなら、この力は強すぎて使わなかったけど

……わたしの邪魔をするなら、

何者だろうと"消し炭"にする……!!!」


アイリスは、ガスバーナーを着火した


「……火の魔法を使えるのは、

アイリスさんだけではない!!」


ササッ


ボッ!!


小生は、念の為持っていたガスバーナーを

左手で取り出して、何の迷いもなく着火した


「……死んでもあの世で後悔しないでねッ!!!」


ゴォォォォォ!!!


(この火力……本気で殺す気だ!!)


「迷いは消えた!!!今度こそ仲間を……

助けるんだぁぁぁぁ!!!」


ゴォォォォォ!!!


ドガァァァン!!!


二つの龍の如き猛き炎は、

互いの思いをぶつけるように

競り合っている!!


その炎の色は、一歩も引かない、

それぞれの想いが形になった……天の青空よりも青い、

濃い藍色だった!!


「ハァァ……」


ゴゴゴゴ!!!


「流石アイリスさん……

炎の勢いが、小生なんかより数段上だ……

だけどッッッッッ!!」


ゴゴゴゴゴッ……


「炎を……消した!?」


ダンッッッ


小生は地面を思いっきり蹴り、

上に飛んで前から飛んでくる炎を避けた!!


「小生には……これがある!!」


ブゥン!!


(クッ!!炎の威力を強くしすぎて

上にガスバーナーを向けられない!!)


「ハァァァァ!!!」


ブォン!!


「仕方ない!!」


アイリスは炎の勢いをそのままに、

炎の形を剣の形にした!!


(あの炎の剣は小生の刀をすり抜けてくる……

ならばまた避けるまでッ!!」


シュヴァルツとアイリスは、互いの剣が来る場所を

予測し、体を部位ごとに動かしながら

剣を相手目掛けて突き出した!! 


ブン!!ブォォ!!


「「!!」」


斬る、斬る、斬る……


二つの鉄と炎の剣の軌跡は空を斬った

空を斬ったのだから、この場合

"空振り"が適切だろう。


しかし、二人はそんなことを全く気にせず、

次の攻撃の一手を繰り出す


先手を打ったのはシュヴァルツだった


ブンッッッ!!


「ガスバーナーを……投げた!?」


(このガスバーナーを燃やそうとしたら

多分、周りを巻き込む大爆発になる……

わたしの体じゃ耐えられない……)


ガシィ


アイリスはそのまま

シュヴァルツが投げたガスバーナーを

左手でキャッチした


瞬間、アイリスには隙が出来た


「これは……アズキと戦っていた時の

小生への、"アンチテーゼ"だ……!!」


スタタタタタ


ガキンガキィィィン!!


シュヴァルツは、その長い刀の先端で

カセットガスを斬り、

両方とも使用不可能にした!!


「クッ……」


「……取った」




ブォン


それは一瞬だった


個々の力は、アイリスの方が優れている


しかし、シュヴァルツの対人スキルと"覚悟"が

その上を行き、救世主アイリスの首へと、

シュヴァルツの刀は届いた


……


「……やっぱり。

シュヴァルツさんには、殺す気が無いって

わたしには分かってた。」


シュヴァルツの刀は、

その首を跳ねず、寸前で止めていた


「……小生が、仲間を傷つけることなど……」


スッッッ


「……さようなら。」


アイリスは、シュヴァルツの"甘さ"を利用し

右手を腹に合わせた


カチャッ


「……完全に忘れてたな。」


「アタシは、二人の戦いに着いていけないけど……

火力支援は出来る……こうやって、

隙を突いて貴方の頭を狙える時を……

ずっと待ってたわ。」


ナガサキは、両手で拳銃を持ち、

アイリスの後頭部を狙っている


「……」


「アイリス……両手を上げて!!」




「……」


スーッ……


アイリスは、おとなしく両手を挙げた


「シュヴァルツさん!!」


スタタッ


シュヴァルツは前に二歩程間合いを開けた


「……二体一って……卑怯なことするね。」


「卑怯なことは、小生も分かる。

が、こうしてでも、仲間だけは失いたくない……」


「……今でもわたしのこと、仲間って言うんだ。」


「当然。アイリスは第七医師団の仲間で、

第七騎士団最強の、炎部隊隊長です……!!」


「……」


「聞かせてくれないか……?

何がどうなって、ここに居るんですか……!?」


「そこからは僕が話そう」


!!??


そこには、魔導服を着た

朱色の髪が特徴的な、小さな子供のような

小柄な男の子が立っていた


(小生が……全く気づかなかった……!?)


シュンッッ


「早くその銃を下に向けてね。」


「はやっ!?」


その子供は、眼にも留まらぬ速さで

ナガサキの隣へと移動した


「……瞬間移動!!?」


「シュヴァルツ……だっけ?

ご名答!そう、今僕は瞬間移動をしました!!」


「なっ……!?」


「……実験台No.000001、"初代"ビースト。

ビーストの実験台で、最初で最後の

最高傑作と言われた人間。個体名は"イーリック"。」


アイリスが紹介するように言う


「「イーリック……?」」


「どもども〜」


小さな子供は、お辞儀をしながら

恥ずかしげに言った

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