治療魔法グリーン

治療魔法グリーン




「イガラキ・アズキです!

宜しくお願いします!」


「……」


シュヴァルツは、一人思う

この人物は、本当に信用に足る人物なのか


(2年前の50番境界戦線で負傷……

その時からずっと病院に居たのか……?


敵に瀕死の重傷を食らったのか

そうだとしても長すぎる……

だとしたら、後遺症が残り、

リハビリに時間をとられた……?


どっちだとしても、見たところ

怪我による違和感のある体の動き方はしていない。


……あの青い目、一体何を考えている……)


小生は、昔から剣に生きてきた


剣を振り、敵を倒し続け……

いつしか小生は、"騎士団最強の剣士の一角"

と言われるようになった。


現状に納得している訳では全くない

しかし、そんなことを言われるようになってから

あることが出来るようになった。


相手の思考を読むことだ。


剣を長いこと交える人なら、

相手の癖、予備動作、目の動き

相手の僅かな動きでさえ見逃さない

……いわゆる"洞察眼"がある。


小生もそれが鍛えられ、

日常でも相手がどのようなことを考えているかが

分かることがある。


……アズキという名の人物は

何か隠し事をしている。


勿論、人とは必ず隠し事をする生物だ


話せない過去がある

恥ずかしい過去がある


それは誰にでもある。


ただし、アズキという男は

かようとは違う……"何か"がある


そう、感じた


……………………




「訓練生の人も、精鋭部隊の人も

今回ばかりは、人手が必要だ。

部隊関係なく出動する。


そして、「第七医師団」ということで

ある程度この魔法を使えなければいけない。


全員がやって欲しいことだが……

ここからは、より一層危険が伴ってくる。


いつ襲われてもおかしくない

いつ死んでもおかしくない


この中で、自分の身を案じて辞退するなら

私は止めない……」


…………………………


ハハハハハ!!


「どうして笑って……」


「先生、ワタシ達はまだ若いけど、

騎士団に自ら入っていった身!

死に対する覚悟はいつでも出来てますよ!!」


「カレン……!!皆……!!」


「第七騎士群のオーナーも忘れてもらっちゃ困るよぉ!

アタシだって、傭兵時代名を馳せた戦士なんだから!」


「……?誰だっけ……?」


「アタシのピンポイント記憶障害!!?」


「とにかく、ここに居る皆

私についてきてくれるか……!!」


オオオオオオオ!!




その場では皆意気揚々としていたが、

不安を持っている者もいるだろう。


その場の雰囲気に流されてしまい

後悔する選択になる可能性もある


私は、五時間程自由時間を設け、

隊員に一人で考える時間を与えた


…………………………




「全員、準備は良いか!!」


オー!!


「それじゃ、叔父さん頼んだ」


「……治療魔法、グリーンを

これから第七騎士群全員に教えよう。

まずは手本を見せよう。」


そうすると叔父さんは、

刃渡り人差し指程度の小型ナイフを

ポケットから取り出した


「…」


叔父さんは、ナイフでゆっくりと左手の手のひらを切り

僅かな出血をする


「全員、火の魔法を知っているな?

魔法は人のイメージを形にする

魔法を使えるようになるコツは、

出来ないと決めつけず、固定概念を覆すこと。


この怪我したのも、切られたとは思わない……

イメージするのは、偽物の自分……」


そうすると叔父さんは目を閉じて、

集中しながら言う


「傷ついたという結果と、ナイフという原因

その二つの因果は、世界が認めた現実


この魔法は、その世界を騙す……

因果という不可逆的なことを……

全てなかったことにする……


"ナイフなどなかった"

"出血などしていない"

"それを見ていた人もいない"


全てを否定し、正当化する魔法……」


ポオオ


!!!


その瞬間、傷跡が緑色に輝き、

その場所だけ時を遡るように……

血は手のひらに戻り、開いた傷は元に戻っていく……


ザワザワザワ


「血が……戻っていっている……!!」


「切った箇所も元に戻っていってる……

あれは、再生するスピードを早くしてるんじゃなく…

"なかったことにしている"んだ!!」


ポオオオオ……


「……これで元通りだ。

この魔法は、真実を捻じ曲げる……

"思い込みを本当にさせる魔法"だ!!」




私ことカートは

しばらくこの魔法が全員使えるよう

一人一人見て回った


「んん……うおおおおおおお!!」


「アーフィンくん、叫んでも魔法は使えない」


「……」


(カレンくんは飲み込みが早い。深く集中できている

アイリスくんの影響だろうか)


「ふんぬ!!ふんぬ!!」


「カイゼンくん、焦らなくて良い」


「「……よし、出来た!!」」


(見たところ、アズキくんとシュヴァルツくんは

もう出来るようになっているようだな)




「先生!!」


「シュヴァルツか、どうした」


「グリーンは問題なく出来たのですが

複数人で使ったり、考え方を変えて

相手の傷の出血を早めるということも出来るのでは!」


「なるほど……少し試してみよう」




私は上着を脱ぎ、前にビーストにやられた

背中の傷を見せた


その傷は、前とは違い、濃い紫色に変色していた


「先生……!?その傷は!?」


イガラキが驚いた表情をし、驚いた


「これは、まぁ……ビーストにやられたものだ。

これを治してもらいたいんだが……」


「やってみますか、シュヴァルツさん!」


「……あ、あぁ」




「「……」」


二人は集中し、その傷を治そうとする


パリィィィン……


「「!?」」


周囲に、まるでガラスが割れたような音が鳴った


「……何だ?傷が治っていない……」


スタスタ


「ジオル君、何をやっている?」


「この魔法で、私の背中を治してもらおうとしたが…」


「……ジオル君、その傷が付いてから

何日経っている?」


「半月ぐらいだ」


「半月……うむ……これも説明しておこう」


「……?」


「時間は、現在から次第に"過去"になっていく…

この"過去"というのは、

"起きた物事が絶対的な物になるから過去"なんだ。

この過去と言われる物は、この世界では

今から"24時間前"だ。」


「……つまり、私が負った傷は

過去の物となり、無くなることはない、と……」


「そうだ、が、その傷……」


一人の中年のおっさんは気づいた


その傷は見た目よりも深く、

動く度に痛みが走ることを


「……叔父さんには気づかれるか。」


「これでも医者モドキだ。

傷を見れば、どの程度影響があるかは分かる。」


「先生……?」


「……シュヴァルツ達には黙っていたが、

私が最近戦いに参加していなかったのは、

この傷があったからだ。

……剣の一つも扱えなくなってしまったようだ。」


!!?


「え……!?先生、まさかそんな!?」


アズキが驚いた顔で言う


「……私はもう前線では戦えない。

後方から指示をすることしか能のない

無能指揮官に成り下がってしまったよ……」

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