本屋の魔術師




「フッフッフ……

我が息子なら、そう言うと思ったよ。」


「……親父にこうするよう誘導されたようで

何だか尺に触るな……」


「そう言うな。

こうならなかったら切り捨てようかと思っていたが、

問題なかったようだね。」


「切り捨てるか……東方の武士か、親父……」




それから私は、世界に散っていったローブ族を

再び結集させる為にはどうすれば良いかの

プランを親父と共に立てていっていった


久しぶりに会って、何処か不気味な感じは

いつも以上だった。


騎士団長というのはそれ程大変なのだろう

そう思いたい……




ザワザワザワ


第七騎士群の隊員達は、まだ世界に旅立つという

先生の言葉の余韻が冷めないでいた


「世界各国って……

俺たち世界を旅するのか!?」


「そうみたいだぜ……

もしかして、俺たちの時代が来るのか!?」


「いや俺たち、ガヤ担当だし……

名前も付けられてないし……

多分読者の人俺のことアーフィンって

誤解してて、俺たちに焦点合わされた時

全部同一人物って知らねぇだろうよ……」


「いやいや!ここまでガヤに情熱を注いできたんだ!!

きっと俺たちにも名前がつくって!!

いつかモブから脱却出来る!!」


「そうだと良いんだが……」




「アイリス君。準備は出来たかな」


「どうしてもダメなんですか……」


あれから数時間経って、アイリス率いる炎部隊は

ビースト殲滅の為、ここに留まることになった


ハンネバル団長は、別行動をするのを

実際に確認してから

騎士団本部へと戻るらしい


わたしは……もちろん不満がある。

ジオル先生の力になれないこと……

それはわたしにとっては、ビーストと戦うより

もっと苦痛なことなんだろう



「……」


わたしはムスッとした顔でいる


「いやはや、困ったね……」


スタ スタ


「……先生」


「そろそろ馬車に乗らないと、

明日になってしまう。


早く行かないと、命令違反になるぞ。アイリス。」




「……ハンネバル団長の率いる

天命の騎士王ダイヤモンド・クレセリアでは

ビーストを倒せないのですか……?」


「楽に倒せるさ。でも、中央都市は

ビーストに標的にされないからね。

どうしても戦うのは騎士群の方になってしまうよ。」


「どうしても……わたしじゃなきゃダメ何ですか…」


「アイリス」


「先生……わかってますよ……

こんな時ぐらい、割り切らなきゃいけないのだって

でも……わたしは……!!」


「やめろ!!それ以上口に出したら引けなくなる……」


「……すみません。

今のわたしは、きっと冷静じゃないですよね……

ですけど……第七騎士群の今の主力である

炎部隊を、こんな風にビーストに使って

いいのかなって……」


「かなりリスキーなのは承知の上だ。

だが、いずれアイリス達にも力を貸してもらう時が来る

……なに、その、あれだ。

離れていても心は一つ……というものだ。」


「……!! ハハハ、先生らしくもない。

……約束、ですよ。

また昨日のように、笑って話せる日が来るって……」


「約束しよう。また話せる日まで。」




こうしてアイリスは馬車に乗り

ビースト殲滅へと向かっていった


暫くのお別れ


私は笑顔で見送る


彼女は振り向こうとしたのだろうか


しかし、彼女は振り向かなかった


それは決意の表れだろう




彼女の瞳には、

沈みかけのあの美しい太陽の炎が写る


彼女にはどう見えただろう


彼にはどう見えただろう


二人の屈折した瞳の光には


あの太陽さえも及ばない


二人にさよならの言葉はいらない


祈るだけで良い。


私はそう思った


だから、彼女が視界から居なくなる、その時まで


私は手を振るだけだった



…………………………




次の日


それは、涼しげな風が吹く

テントが立ち並ぶ野営地


少し掃除された第七騎士群があった場所には

少しながら勇気の香りが立ち込める


そんな非日常の快晴が

私に光を差し込める


「さて……今日も頑張るか」




カンッカキンッ!!!


その音は練習用の鉄の剣が発している


程よい重みの鋼鉄音に、私は導かれる



「うわぁっ!!」


「その程度ですか、アーフィンさん。

小生は一歩も動いていませんよ」


「くっそぉ……やっぱ強えなぁ」


「朝から勤勉だなアーフィン」


「!!騎士さんか!!」


「これからは隊長と呼べ。

もう君は第七騎士群の隊員だ。

親父に編入許可証を出してもらったからな。」


「おおっ!!俺もついに騎士かぁ〜!!

こりゃ大変になるぞ〜!!」


タッタッタッ


「隊長!!ワタシは!?」


「?カレンは元から第七騎士群の訓練生だから

ここになると決まっている。」


「そうだったの!!よかった〜」


「カレンさんがライバルだなぁ〜!!

よっしゃ、武勲では負けらんねぇ!!」


「アンタには負けないけど、

アイリスさんみたいになれるかな……」


ダッダッダッ


「カレンた〜ん!!稽古終わってないおー!!」


タタタタタ


「カイゼンさん……力強すぎるのよ!!

もうちょっと加減して〜!!」




全員剣の稽古をしていたので

気を使わせない為に、私は一旦その場を離れ

自分のテントに戻ることにした


スタ スタ


(皆は世界に飛び立つことを意識している。

私も親父と今後のことについて話し合わないとな)


……………………


「……誰だ!?」


私は周りの雰囲気が変わったのを感じ取り

すぐさま振り返った


「………第七騎士群隊長

ジオル・ドーヴェル………………」


「その黒いフードは………………」


「……また会ったな、ジオル君よ。」


「本屋の魔術師……!!」




「そうか……団長から聞いたか

我々ローブ族のことを。」


「団長とは面識があったのか」


「ハッハッハッ、面識か……

大いにあるさ。何故なら私とハンネバルは

兄弟なのだから。」


「なんだって!?」


「隠していて申し訳ない

君とって私は叔父になるな。」


「……話を聞かせてもらう。」


「老人の長話になるが……いいかね?」


「老人と言うほどでもないだろう。」


「ハッハッハッ、それは嬉しいね。


……約20年前、ジオル君が生まれて少し経った時だ。

私と兄であるハンネバルは

当時、騎士団長の座をかけて武勲を立てていった仲で

それはもう熾烈な物だった。


その頃の私は勝手に兄のことを敵として見ていた

今になっては懐かしいことだがね。


でもある時、ハンネバル兄さんは

ある本を持って私の所へ来たんだ。

その本のことは、大体検討がつくだろう」


「……ネクロノミコン」


「……そうだ。


魔法の本、ネクロノミコン。

兄さんは、その本を持って私にこう言った。


「この本を託せるのはお前しか居ない」って。


私はその時、

自分達にはその本を守る使命があること、

あちら側の組織のことや、初代騎士王が

私の祖先であることも

今のジオル君が知ってることを知った。


私には、直ぐには飲み込めなく

「私を団長の座から引かせる策略」とも思ったが……

話を聞いた限りでは、その本は

魔法というものが綴られていると知って、

同時に、絶対に開けてはいけないとも言われた……


当時の私は、力が欲しかった。

騎士団を背負える程の、強大な力が……


私は兄のような頭脳は持ち合わせてはいなく、

……開けてしまったのだ。悪魔の本を。」


「そんな背景があったのか……」


「この話はこれで終わりじゃない。


これはこの前言ったが、

悪魔の本を開けた後、私がその時ちょうど居た

この港町で死の病、

梓月病という病気が流行ってしまった


その時、兄の言っていた言葉が蘇ってきた

あれは本当のことだと、実感した。


私は後悔と罪悪感に襲われたが、それを原動力に、

必死に魔法の本を解読し、病を治す魔法……

"グリーン"を、気付けば使えるようになっていた」


「病を治す……魔法!?」


「私は医者と名乗り、

グリーンと言う魔法を患者に使用した。


その結果、多くの人が梓月病から解放されることに

なった……」


「……今は騎士団に所属していないようだが

それは……?」


「簡単なことだ。


私は騎士団長の座を兄に譲り、

魔法の本を守る者として、第七騎士群の隣で

暮らすことにした。


もう二度とあんなことにはさせたくないという

自責の念も、そうさせたのだろう。」


「そうだったのか……」


「……私の本当の名前を言ってなかったな

私の名はカート・ドーヴェル」


「カートさん、で良いか?」


「カート叔父さんで良い。カートさんは少しな……」


「……そう言えば、どうしてここに来たんだ?

図書館が潰れたから暇つぶしにとか……?」


「ここにまで来てジオル君に会いにきたのは

ローブ族結集を手伝いにきたからだ。

使命を真っ当する為に、

終わりのない使命を終わりにさせる為に……

ジオルの力になろう。」


「!!……ありがたい!!」

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