救世主




ギャォォォォ!!!!!


ビーストが、豪雷の如く叫ぶ。


緑の太陽は、ビーストの群れに直撃した

それと同時に、ビーストが溶けていくのを見た。


グゴォォォォ……


ビーストの声が変化していっている

体が溶けていっているからかな


……………………


緑色の太陽は、綺麗とも言える輝きを

じきに失って、その光は最後に散り散りになっていった


そうしているうちに、静寂が訪れた。

それは、戦場には無い静けさだった。


なんでここまで静かなのか

それは周りを見渡せば分かった。




「……ビーストは、もうここには居ない…………

…………勝ったんだ。わたしたち………………」


「……第七騎士群、炎部隊隊長シュヴァルツ

隊員に負傷者無し。ビーストの群れ消滅。

小生達の……圧勝なり!!!!」


ウオオオオオオ!!!


「……勝利に酔いしれたいけど、

作戦の次の段階だ。私はこうしてられないな。」


タッタッタッタッ


「先生!!!」


「アイリス?」


「えへへ……わたしの魔法、凄かったでしょ!!」


「フッ……あぁ。最ッッッ高だ。

だが、あの火は何だったんだ……?」


「それは……わたしにも分からないんです。

ただ必死に、「皆を救いたい」って考えたら

あんな球体が出来ちゃって……」


「……フ、ハハ。そこまで言えば分かる。

なるほど……これは書き止めないといけないな……」


「先生、あの緑色の球体がなんだったか

分かったんですか!?

それなら……教えてほしいです……」


「……あの光は、最初は太陽だった。

アイリスが一番に火の魔法を試した時、

出てきたのは太陽だったんだ。」


「……えええええええ!?」


「まだ驚かない方が良い。」


「……ふぇ?」


「次に、この戦闘でアイリスが出したのは……

本来この世にはなかった元素で出来ている。

つまり……アイリスは火の魔法と間違えて、

新たな元素を生み出してしまった。というわけだ。」


「えええええええええええ」


「……自分を誇らしく思った方が良い

君は紛れも無い"天才"だ。

……立派になったな。アイ。」


「先生……」


タッタッタッ


「隊長」


炎部隊の隊員達が現れ、男の隊員が話しかけてきた


「あぁ、君達は合図をした……」


「逃げるビーストを追おうとしたのですが、

驚くべき身体能力で撒かれてしまいました……」


「……わかった。これより第三騎士群本部へと戻り

戦況確認。劣勢の場所があり次第、援護する。」


ハッ!!




こうして炎部隊とビーストの初戦は

炎部隊の勝利となって幕を閉じた。


第三騎士群も、加勢してくれた別国の騎士も

ビースト殲滅という人類陣営の圧勝に終わった……




………………………………




「今回の対ビースト殲滅戦にて、

第三騎士群と第七騎士群の勝利に……」


かんぱ〜〜い!!


ガヤガヤガヤ


ここは、第三騎士群本部前広間


今はもう夜で、キャンプファイヤーが優しく揺らめく


木製の縦長な大きいテーブルが数個置かれ、

その上には豪勢な食べ物と酒が置かれていた。


宴というやつだ。


「やっぱ騎士様ってすっげぇんだな!!」


「こら、アーフィン!!

まだ未成年なんだから、大人ぶって

酒なんか飲んじゃダメよ!!」


「ちぇっ、カレンさん、こんな時ぐらいいーだろー」


「フンっ!これはワタシが……」


バッ!!


「あ!!ちょっと……」


「君も未成年だよ。」


「……隊長!?」


「お、噂をすれば。来やがったな!!」


「アーフィンが誤って酒を飲んでしまうのかと思って

来てみたが……両方ダメだったとはね……」


「隊長、炎部隊って、凄すぎます!!

1ヶ月も経たないうちに、あんな凄い

兵器みたいなものを作っちゃって!!」


「兵器じゃない。魔法だ。」


「……」


「アーフィン?急に黙ってどうした?」


「……いや俺、なんかよ、正直騎士舐めてたわ。

ビーストを圧倒出来る魔法があるのもびっくりだけど

それ以上に、こんな短期間でここまで

練り上げてくる騎士さんに感謝してもしきれねぇ……

アイツの仇を取ってくれて、ありがとうな……」


「……勘違いしてるようだが、

私は実際、指示を出していっただけで、

一匹も倒せてはいなかった。

感謝するのは、アイリスにした方が良い。」


「アイリス先輩も、今やこの街のスターですからね!!

いやーー、先越された感じあるなーー。

もっと早くに生まれて来てればよかったのに〜」


「カレン、君にも才能があると思っている。

いずれ肩を並べられる日がくるさ。

……そしてアーフィン!!」


「……?何だぁ?」


「第七騎士群に来ないか?

……所謂、スカウトという物だ。」


「!! へへっ、こりゃ良い待遇だな!!

いいぜ!アンタの兵士になってやらぁ!!」


「ちょっと隊長!?

ワタシも第七騎士群に入れますよね!?ね!?」


「勿論だとも。どっちみち、君は隊員の皆から

人気があるし、士気が上がるから来てもらうよ。」


「やったぁ!!」


「カレンさんには負けねぇぞぉ!!」


「フン、こっちだって!!」


「フ……第七騎士群の未来は明るいな……」





「………………」


「珍しいな。黒魔術師が少し立ち寄りたいと

言ったのは。」


老人がローブ男に話しかける


「……最後に、あの第七騎士群の隊長を

見てみようと思った。

………………あの人には、"何か"を感じる。」





ゴクゴクゴク


「ップハァ。やはり戦いの後の酒は格別だなぁ!!」


「アイザイアさん、飲み過ぎですって」


「あぁ?良いだろ、こんな時ぐらい。

初めてビースト相手に人類が勝てたんだから。

いや〜、今回ばかりは死んだと思ったぞ〜〜

おら、おめぇも飲め飲め!!」





スタスタスタ……


「……先生!!」


「シュヴァルツか。」


「今回の采配、実に見事でした。」


「いいや……私は何もしていないよ。

君達が優秀だったから成し遂げることが出来た。」


「……先生は、作戦の時に

ビーストとの戦いで、我々が圧勝するのを

予期していたのですか?」


「……そんな予感がしただけだ。

君は頭が良いから何か勘繰ってしまうかもしれないが

ビーストと今の君達が戦ったら、必ずこうなると

予測できた。」


「そう……ですか。」


「……」


「……?先生、左手に何を隠してるんですか?」


「……少し急だが、ここで知らせるのも

酒のつまみになるだろうと思ってな。」


そうすると、先生は

背中の後ろに回し、隠していた左手を前に出した


その手に持っていたのは……


「!!!先生、それは……!!」


「朱色の制服、騎士群隊長が着る服だ。

もし私が現役を退いたら……

次の第七騎士群隊長は、シュヴァルツにしようと思う」


「その理由は……?

アイリスさんが一番の武勲を挙げたというのに……」


「今回のビーストとの戦いの途中、

君は火の魔法を、アイリスが魔法を打つまでの間

足止めに使っていただろう?

あれは、仲間の力を把握し、信頼しなきゃ

出来ないことだ。」


「そんな大それたことは何も……」


「それに、君はどんな時でも冷静さがある。

私でも時々、冷静さを欠いてしまう時がある。

羨ましいよ。

……また、宜しく頼む。」


「……はい!!」





スタスタスタ……


「今回のヒーローが、こんな所で一人か。」


「……先生?」


そこは、第三騎士群の四階屋上で、

集落街も見渡せる場所だった。


キャンプファイヤーの火の光は、

ここには届いてなく、

暗い世界が広がっていた。


「……夜空、綺麗ですね。」


「あぁ……そうだね。」


私は空を見上げてそう言った。


「……ふふっ、皆笑顔だ。

わたしは人を救えたのかな……」


「救えたさ。君は立派な救世主だよ。」


「き、救世主!?

ち、ちょっとその肩書きは重いから、

別のやつでお願いします……」


「全く、まだその卑屈さは残ってるのか。

こう言う時は、素直に受け取るべきだ。」


「ふふふ、まだまだ勉強不足ですね。わたし。」




「……ありがとう。君が居なかったら、

ここまでビーストを圧倒することは出来なかった。」


「な〜に言ってるんですか!!

まだまだビーストは各地に残ってるし、

炎部隊の活躍は、これからですよ!!」


「そうだね……少しこれからのことを伝えておくか。」


「……?」


「これから先、君達炎部隊は、

第七騎士群とは別行動となる。」


「!?」


「「各地で暴れているビーストを

一匹残らず殲滅せよ」と、団長直々に手紙が来た。

今回の炎部隊の活躍が、本部にもう届いたんだろう。


そこで話は戻るが、

私が居たら、いちいち第七騎士群に戻る必要がある

報告書を作る必要があるからだ。

よって各地を移動するのに、まず私が要らない。

これが騎士群とは別行動の理由の大半だ。


あと、前のビースト戦の時、シュヴァルツが

炎部隊の部隊長を務めていたが、

今後はアイリス、君が部隊長になってくれないか?」


「え!?」


「勿論無理にとは言わないが……

今の君は、十分に強くなった。

シュヴァルツが部隊長でも良いが……

彼自体は、そこまで火の魔法に長けているとは言えない

だから、君が最適だと思った。」


「……本当に、私なんかで良いんですか?」


「あぁ……これは君にしか出来ない。」


「私にしか……!!

はい……はい!!わかりました!!

炎部隊の隊長はわたしということで……!!!」


「明日、第七騎士群に戻ったら

別行動の内容の詳細を教える。

と言っても、各地にある騎士群を転々とするだけだが」




「よし……とりあえず、仕事の話はこれで終わりだ。

さて……あとはキャンプファイヤーでも

眺めて寝るとしよう……ふわーあ……」


「……そっか、もう寝る時間か。」


「………………」


「少しは仕事以外の話をしませんか。先生。」


「……偶にはそれもありだな。」







こうして私とビーストとの戦いは、

一旦ピリオドを打つ。


アイリス率いる炎部隊は、

暫くの間、遠征との形で

ビーストと戦い続けることになるが……

彼女なら、きっと大丈夫だろう。

何せあの"救世主"なのだから。


こうして、何も不安なく

段々と眠気が出てきたので

私はひとまず、筆を置くとしよう。


良い夢が見られるよう、願いながら

明日への希望を願いながら……

私はゆっくりと、瞼を閉じていった……………………

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