圧倒




30分前……


「作戦はこうだ。


まず前提として、

ビーストには"司令官"がいることを覚えておきたい


そうじゃなきゃ、陽動など出来ないだろう


それではどうするか


まずは集落街に襲って来たビーストを見つける


その時、私が指示するから

10人程度そのビーストの逃げるであろう方向へ行き

待機する



火の魔法でそのビーストを圧倒する


この途中、ビーストの内数名は

司令官に指示を聞きに行くだろう


その時に逃げるだろう方向に居た者がついて行き

ビーストの司令官ごとぶっ潰す!!


これが……"ジャッジメント・バーン"作戦だ!!」


(意外とあの騎士さんの作戦って普通なんだな

もっと「〜は〜と考えているから……」って

相手の思考を先読みするものかと……)


ひよっこ戦士が人気者女子に小声で言う


(バカ、そんな中二病みたいなこと隊長はしないわよ。

何その心理戦。それが見たいんだったら

無能な○ナとかDeath n○teとか、もっと面白い作品

見ればいいじゃない)


(それもそうか……)


「先生、質問良いですか?」


「シュヴァルツか。どうした?」


「先生はビーストに司令官が居ると言いました。

では、ビーストは何が目的なのでしょう?」


「良い質問だ。

第七騎士群に届いたビーストの習性や生態によると

どうやらビーストは集落にある食べ物を狙い

司令官のビーストが指示し、

大群で集落を襲うらしい。


ビーストの目的は食料だ。

今回は先手を打たれてしまって

食料を囮にすることは出来なかったが

恐らくビーストは食料があるであろう場所を襲うはずだ


その習性を利用する。

食料が貯蓄されている場所がある一箇所に

集まっているだろうから、そこを叩く!!」





攻炎陣を構えている途中に戻る……


(……予想通り!!

それなら、さっき言った通り……!)


タッ

タッ

タッ


ポン ポン ポン……


私は、陣形が変わる時

すれ違う炎部隊の人の肩を叩き、合図をした


(……前に陣形を生そうとしている人で

移動している人が隠れて

ビーストには感づかれていないな……


合図をした人達は既に木の陰に隠れたか!

よし……陣形も左と右で、違和感無く、

バランス良く配置している

これなら……!!)




攻炎陣で部隊は扇状に広がり

合図をした人が隠れたのを確認し、

私は、始まりの号令を出す……!


「構え!!」


部隊は、ガスバーナーを前に向けて構える


「……火の魔法、発動!!」


ゴォォォォォ!!!




その炎は凄まじい勢いで

音速もの速さで、四方にいるビーストへと向かった!!


ギャオオオオオオオ!!


その炎がたどり着いた先に

次々と燃え移り、ビーストは悲鳴をあげた


「シュヴァルツ部隊長!!」


私はそれを見て、すぐさま名前を呼んだ


「はい……!

皆!あの移った炎を一箇所に集めてを強めよう!

名して……ドラゴンブレス・改だ!」


「ハイ…!シュヴァルツさん!!

私も……」


タッタッタッ


「アイリス!」


「えっ?何ですか先生?」


少女は振り返る


(アイリスの、火の魔法を研究途中

気絶してしまったあの火は……

火と言うには、あまりにも優しい光だった……

あの炎とは違うあの光は……

私の読みが正しければ……!!)


「アイリス……君は

皆が敵に着いた火を強めたら

最初にアイリスが研究途中にやった

"優しい火"をイメージして、

その優しい火と敵の火を変換してくれないか?」


「……?わかりました」


「……あともう一つ」


「なんですか……?」


「その火は、可能な限り小さくしてくれ。」


「……?わ、わかりまし……?」


「頼んだ」





「3、2、1……今だ!!」


"燃え盛る竜の炎ドラゴンブレス"


ボォォォォォ!!!


その炎は、前と比べ物にならないほど

天上の太陽に届く勢いで燃え盛る


「ギャォォォォ!!」


「グガァァァァ!!」



部隊は、ガスバーナーから燃え移った炎を

一箇所に集め、大きな業火へと強化させた


しかし、炎の中悲鳴を上げているビーストは

炎の中で燃えていてもなお、こちらへ向かって

歩いてきていた


「まだ足りないか……!!

皆!!炎をもっと強くするんだ!!」


シュヴァルツが言う


「出来ませんよ!!

これでも眠気が襲って来てるんです!!」


隊員の一人が言った


「く……皆耐えろ!!耐えるんだ……!!」











アイリスは一人思う


(皆が苦しい中頑張ってビーストを押さえ込んでる……

わたしも早くイメージしないと……


でも……いつも私は、失敗ばかりだった……)




一年前


私は第一騎士群に入った


シンボルマークは白い月

"原初の月"って言われてて

編入試験で全ブロック成績一位の私は

自信に満ちた笑顔で……


わたしは第一騎士群に入った



でも……そこは、想像の絶する場所だった




第一騎士群前広場


「今日からここに入る

アイリス・スカーレットです!!

よろしくお願いします!!」


パチパチパチパチ


「……よし、今年から新兵になる

編入試験上位3名、自己紹介は済んだな。」


この人は第一騎士群の大隊長で

辺にいる人は白い制服を着ていて、

まるで何というか……

「道端に転がってる死にかけのセミかーい!!」

……て、ついツッコミそうになっちゃったよ


拍手は皆してくれたけど……

一歳年が違うだけでも、

ここに居る人は全員"猛者"と呼べるほど

凄そうな人たちだらけだった!


「さて……新兵達に言おう。

第一騎士群は、他の騎士群とは違う……

お前達は俺の下で死ぬまで戦ってもらう。


そのぐらいの覚悟が出来なければ去って行け!!

第一騎士群から逃げた負け犬としてな……!!」


ビクッ


私は元々内気な性格で

人とあまり話したことがなくて、

こんな風に、脅されるような口調で

話しかけられたら、単純に"怖い"と思っちゃうんだ。


"甘やかされてる"


そう気づいたのは小学高学年の時だったと思う


自分で言ったらあれだけど……

成績は優秀で、運動神経も良く、

今思い返せば、あの頃の私は可愛かったと思う


「よく頑張ったな」


「ありがとう」


「可愛い」


そんな言葉が、常日頃から飛び交っていて

私は「大人になったら、弱い人を助けるんだ!!」

なんて本気で考えたから、騎士団に入ったんだ。


そう。こんな典型的な

"夢見る少女"は、いつも物語では……







「アイリス!!」


私を呼ぶ声が聞こえる

目の前にいる人に、止めを刺せと

その呼ぶ声はそう、聞こえた


ここは真夜中の戦場。


一年以上前、第一騎士群の精鋭部隊に

すぐに選ばれた私は

国家転覆をはかる国際叛逆組織の幹部と第一騎士群の

水面下での戦いで、夜が暮れるぐらい

長い間戦っていた



「は……はい……」


プルプル


手が震えて、剣で首を狙えない


私はまだ、一度も人を殺したことがない

この人にも家族がいるのだろうか

本当に私がやっていることは、正しいことなのだろうか


なんていう迷いばかりで、

私は戦力とはいえなかった




スタスタスタ


「……私が代わろうか?」


「ユウ、ちゃん……」


この人はユウキ・レン

私の第一騎士群時代の友達だった女の子


「大丈夫……首をちゃんと上手く狙えば

痛みはないから……」


「う、うん……」


スゥゥ……


ゆっくり、倒れ込んでいる叛逆組織の一員の人の

首を狙おうとした時……


バッ!!


「!!!」


その瞬間、男は目を開けて飛び起きてしまった


「ヴアァァァァァ!!」


「キャァァ!!」


その男の人が、雄叫びと共に暴れ出した


その凄みに驚き、腰が抜けてしまい、

剣すらまともに持てずにいた


ダッダッダッ


「アアアアアアアア!!!」


「!!」


男が左手に持っていた剣で、

雄叫びをあげながら、私を殺そうと迫ってくる




ダッダッダッ


近づく、近づく、近づく……


熊にも似た形相で、男は迫ってくる


「アイリス!!」


ユウちゃんの声だろうか


優しい声が聞こえてくる


ダッダッダッ


もうすぐそこまで来ている


剣を取らなきゃ


でも、この距離じゃ間に合わない


だって、もう鼻息だって当たってる


ダッダッダッ


あぁ


わたしは死ぬのか


誰かを助けて、自分も嬉しくて……


そんな日頃の楽しみ


薄れていく、薄れていく、薄れていく……




グザァ……




あれから1秒とも言えない時間が経つ

何をしているのだろう。わたしは。


早く目を開けなければ

でも、悪い予感しかしない。


(この肉を断つ音……いや、もしかしたら骨も……)


わたしは、覚悟を決めて目を開く……




「……!!」


目を開けると、目の前には

雄叫びをあげた男と相打ちになった

ユウちゃんの姿があった


襲いかかってきた男は腹を斬られ……


ユウちゃんは……男に容赦なく

首を狙われていて、既に首無しになり

その首が転がっていた


「……!!!!??

え……ゆう、ちゃん……」



「…………………!!!!」


私はそれを見て、声にもならない音を出し

その男の方へ襲いかかる


グザッ!!グザッ!!


「死ねぇ!!死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」


手に取った剣で、

何回も、何回もその男の胴体を刺し続けた


もうその男には意識が無くとも、

私は刺し続けた




………………………………



気づけば戦いは終わっていた


只の小競り合いに過ぎないこの戦いには

勝利や負けという概念は無く、

お互いにとって消耗戦でしかなかったのだ



「……アイリス隊員、気は済んだか?」


「……」


ユウちゃんを殺したその男は

既に跡形もなく、血の塊と化していた


今話しかけて来たのは、

ユウキと仲が良かった男友達だ


「……アイリス、僕は見ていた。

……お前が殺したんだ!

……お前が居なければ、お前が友達でなければ、

お前がその場に居なければ、

お前が第一騎士群じゃなければ……!!

死ぬのは……お前だったら良かったのに…………」


その男の人は、髪をぐしゃぐしゃにしながら言った


「……!!」


スタ スタ スタ


「……この状況は…………そうか。」


第一騎士群の隊長が歩いてきた。

状況を察するように見てくる


「…………隊長」


「……?」


「私は……もう…………戦えません……………………」


「……そうか。」





それからは、精鋭部隊を離れ、

雑務に勤しんだ。


雑草を抜いたり、花に水をかけたり、

掃除をしたり。


これは後から知ったんだけど

第一騎士群は、騎士団本部から

激戦になるような依頼を受けて戦い、

報酬を貰うという業務で、そのキツさから、

若い人はすぐに居なくなっていっている


だから私はすぐさま精鋭部隊に編成されたようだ。




数週間後


「アイリス」


「……」


「返事も出来なくなったか……

早速で悪いが、お前は団長直々に第七騎士群に

異動することが決定された。


1ヶ月後、ここを出てもらうことになる。

……今までご苦労様。」


「……」


私は当時、思い詰めていて

返事さえ出来なくなっていた。


その異動に関しては、

全く頭に入らなかった。


異動するとだけ覚えて、

私はそのまま第七騎士群に行った。




そんなことを

まるで走馬灯のように頭に過ぎった



無意識で。光速で。

希望の花を摘むように

脳裏を焼き焦がす……

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