火の魔法、発動




「……」


「?……隊長!!第三騎士群は

もう行っちゃいましたよ!?

私達も早く行かないと……」


「カレンか……いや、実は迷っていて……」


「というと?」


「いや……ここエース集落街は

幾つかの集落が分かれていて……

要するに、恐らく南区に来たビーストの大群は

陽動だろう……」


「……ということは、

集落街全域にビーストが来ているってことですか!?」


「あぁ……この状況はまずい

ビーストに先手を打たれてしまった……

集落街は第三騎士群から見て北、西、南、東と、

十字方向に四つ集落があるが

そのせいで、炎部隊たった30人では、

とても手が回る物では……」


タッタッタッタッタッ


「先生……!!

炎部隊、全員集まりました……!!」


「アイリス……すまない、集めさせてもらった」


「とんでもないです……!」


「ここからどうするか……」




(第三騎士群は、全戦力を南区に移動させた

暫くは南区は大丈夫そうだが

問題はさっき言った北、西、東の集落だ


村人はそれぞれ第三騎士群が予め作った

避難場所に向かっていると思うが

そこの兵士の数は少なく、

攻めてしまえば、直ぐにやられてしまうだろう


炎部隊約30人……三分割して

十人でそれぞれ向かわせるか……

いやしかしそれは戦力が分散して

最悪の事態になりかねない……


失敗は出来ない……

今、この一手が……勝負の一手…………!!)




「……何か困っているのか」


!!?


突然現れた男に、

その場に居た炎部隊の全員が驚きを隠せない


「……本屋の魔術師!?

いや、違う……誰だ!?」


そこには、黒のローブとフードを纏った

本屋の魔術師のような人が居た


しかし、本屋の魔術師とは違い、

禍々しい雰囲気を放っていて

少し顔を覗き見たら、とても若々しい肌をしていた


スタスタスタ


「"黒魔術師"……気配を消して近づくとは

暗殺でもしたかったのか……?」


「また……!?今度は誰だ?」


次に出てきたのは

紫のスーツを着た40代ぐらいのじいさんだった


「おっとすまない……私達は

"アルカナ地方"にある

"騎士軍"から派遣された兵士だ。

そちらの視点で言えば……別国の騎士団と

言ったところだ……


私は"ヴァーズ・オールド"

この黒いやつは黒魔術師。

私達は君達に加勢しに来た

そちらのハンネバル団長さんには無許可だ…が

こちらにもビーストの被害が出てきた。

……もうそちらだけの問題ではないということだ!!」


「……すまない、恩に着る!!

兵力はどれぐらいだ!?」


私は焦っていたので

慌てて戦力の確認をしようとした


「二人だ。私とこの黒魔術師だけ。」


「……!!?」


(二人……!!?

そんな戦力で加勢しに来ただと……!?)


「……心配するな。

お前達の騎士とは違う。

……俺達は、一人で一連隊程度の戦力はある。

……西と北は俺らで何とかしよう。」


黒いフードを被った人が

小さな声で言った


「……任せて、良いのか?」


私は懐疑的な目線で言った


「ヴァーズ・オールドの名にかけて……

約束しよう……!」





「ではこれより……

エース集落街、東区ビースト根絶作戦!

作戦名は……"ジャッジメント・バーン"!

奴らに、炎の雨を降らせよう!!」


オオオオオオオ!!!


第七大隊長が鼓舞する


それを聞き、炎部隊は士気が上がった



「お、お〜」


アイリスは、控えめに応える


「お任せください……

第七騎士群に、勝利の栄光を!」


シュヴァルツは自信気に応える



それぞれの覚悟は、

30という、決して多くない数だった


しかしそれは……

30もの人生が、重なり焚きつけた

"奇跡の炎"が、皆を勇気付けていた……







タッタッタッタッタッ


走る、走る、走る……


過ぎていく景色と風の中

炎部隊は、東方向へと走っている


一歩一歩は勇ましく

目線は遥か地平線の彼方

両方の腕は迷わず揺らめく


そんな明日への希望に満ちた

三列が奏でる協奏曲


私は先頭で走っている




「坂道に山……渓谷とあって

なかなか辿り付けないな……」


不安と焦りが頭に過ぎる


あれから20分は経っただろう


アイリスは、考えるように頭を下げて走っている


「……」


「アイリス?」


(もっと早く集落に着く為には……

皆で頑張って作った火の魔法で

どうにかして走る速度を上げられないかな……

……そうだ!)


「……皆さん!!

走りながら聞いてください!!」



「周りは丁度伐採が行われていて

切られた木しかない……なら!

私達のすぐ後ろに火の魔法の応用で

爆発を発生させて速度を上げましょう!!」


!!!


「アイリス……良い判断だ!!

シュヴァルツ!!」


「はい。皆!!

坂道で辛いだろうけど、

最後尾に大きな爆発を起こすようイメージするんだ!」


炎部隊は目を閉じずに、

片腕を後ろに向け、爆発をイメージする……


「3、2、1……今!!」


ドゴォォォォン!!!


シュヴァルツが合図をした瞬間

三列で走る炎部隊の直ぐ後ろが爆発し

物凄い爆風が起きた


ビュゥゥゥゥン!!


その風は、部隊を支える英雄の風となり

部隊は、続く獣道を爆速で走り抜ける


タタタタタタタ


「おぉ!!これは速い!

アイリス、良い判断だった!!」


「へへへ……!」




タタタタタッ……


「着いたか……!!」



アイリスの機転により

徒歩で40分かかる道筋を

たった30分でエース集落街東区に着いた


しかし、そこでは

既に損害した家の山が出来ていた


シュヴァルツが口を開ける


「先生。あの木で出来た高い塔のような物が

そうでは?」


「まだあの塔は壊れていないな……!

直ぐにそこへ向かう!

と、その前に……」



「私達は村に着いた!

これより、ジャッジメント・バーン

第一段階、隊員は"炎陣"を組め!」


ハッ!!


そうすると炎部隊は、

単なる三列から、一人一人が広がり

上から見て円の形になり

ガスバーナーを持った!!


私は指揮官なので、

その円の中心に移動した


「このまま塔に進む!

警戒態勢を緩めず、慎重に走れ!!」




タッタッタッタッタッ


「!!」


ギャオォォォン!!!


村外れにある大きな木の塔


そこには、大きな門が塔の前にあり

その門は引っ掻き傷や喰われた跡があり、

崩れかけで、今にも倒れそうだった


そこに、数百匹は居るであろうビーストが暴れていた




(ビーストは大扉の前の一箇所に集まっている……

ここは炎陣ではなく、攻撃の陣にするか)


「全員、炎陣から攻炎陣(こうえんじん)へと移行!」


タタッ


炎部隊は円の形から扇状に広がる


私は部隊一人一人が見える場所まで下がる


「……」




「臨界態勢!ガスバーナーを着火しろ!!」


ボッ



ピタッ


炎部隊がガスバーナーで着火した時、

その場にいる全てのビーストが、

暴れるのを止め、こちらを振り向き

鋭い眼光で見つめてきた……


……


(無言か……流石はトルナンド集落で

言い伝えにある化け物だ……

その姿と相まって、恐ろしいな……


だが…ビーストと人間の戦いの行方は

私達のこの一戦で分かるだろう


だが……何故だろうか

"負ける気がしない"……!!!)


私は、ビーストが様子見をしているのを見て

英雄のような高らかな声で、号令を出した……!!


「……火の魔法、発動!!」

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