火の魔法研究日記




第七騎士群本部 執務室


「これじゃダメだぁ……」


ぐて〜


私は、高級そうな机に

座りながら倒れ伏した



「あんたほどの者が、何を悩んでいる?」


「あぁ……オーナーか……」


私は顔をあげる


「……!?

なんだい、その真っ黒なクマは!!

一体何日眠ってない!?」


「あぁ……ははは……

面白いことにこの火の魔法を使うなら

普通に剣で殴った方が強いんだ……」


「火の魔法の、何処がダメなんだ?」


「……発生までが長過ぎる。

炎と呼べる物を出そうとすれば、

その分長い時間費やしてしまうのだが……

逆に、早く炎を出そうとしても、

ウンコの搾りかすみたいなのしか出ないんだ……

ハハ……ハハハハハ…………!!」


「……お前、一旦休んだらどうだ?

それで一度、お前も火の魔法を出してみろ。」


「グースーピー……」


「はやっ……」














「……むむ、夢の中で覚めてしまった。

これでは眠りの効果が薄まってしまうな……」


……


私は起きようとしたが、

実際の体の感覚は、全くなかった


「……恐らく、無意識に火の魔法について

考えているのだろう。

どうやら私の脳は、

問題を解決させるまで起きれないらしい。

はてさて、これは困ったな……」





火の魔法 ?日目 思考編


「まずは研究の成果を思い出してみよう……


三日前、個々の火の魔法の強化を行ったが

眠ってしまった者が殆どで、

長時間使っても睡魔が訪れることがわかった。


その次の日、

どうしても集団でやる必要があると考え、

前方方向に炎を出そうとしたが……

前の円の例より弱く、

それでビーストが死ぬとは思えない。

実戦では使えないだろう。


そして昨日、

遠くであればある程威力が下がるということが

判明したので、槍以上、弓未満の間合いで試した所

見事に大炎上したが……敵が近すぎる。

これでは魔法を使う前にやられてしまうではないか。


結局、どうすれば……

あの本の解読を進めるべきか……?

しかし、この火の魔法はページに載っている物よりも

非常に弱いものだ……

確か、この魔法は弓よりも遠い位置で使う物……

今の段階では、完成形とは言えないだろう。


ならば……何が足りない…………」




「……そういえば、ここは夢の世界だったな……

……一度試してみるか」


右手を前に出し、

炎が出るように念じた


「……」


ポッ


「……出たは出たが、ただの光の粒、か。

おかしいな、

夢なら一人でも大炎上するものかと思ったが……」


よくよく考えれば、

念じるだけで炎が出ること自体がおかしい

なぜ前に手を出す必要がある?




最初から振り返ってみよう


魔法の使い方や使い所

……もしかしたら、魔法には何か一つ

必要不可欠な物があるのではないか……?


しかしそうだとしたら、

炎は出ている現状、何が足りない……?


……全てが足りない

発生速度、威力という、二つの重要なものが

欠けてしまっている。


その欠けた物とは何か?




……………………そうか


私は、魔法という固定概念に縛られていた……

そもそも私は、魔法を

錬金術以上、神の奇跡以下と過大評価していた……!


魔法と錬金術は、どちらも人の力で生み出され

どちらも一長一短……

魔法は"錬金術を視点を戦闘に変えた物"だったんだ…!!


火の魔法とは、

無から火を生み出す魔法では無く………

"火を操る錬金術"と考えれば……!!



無から何かを生み出すのは、

今の人間では、必然と微弱な物となってしまう…




この火の魔法の……本当の使い方は……!!!







第七騎士群前広場


「先生、全員集まりました」


「皆、集まってくれてありがとう

今回の研究では、君達を落胆などさせないと……

約束しよう……!」


ザワザワザワ


(どーせ自分達は剣で戦った方が強い

魔法使いのなりぞこたないだよ……)


(こんなの続けて……

本当にビーストを倒せるのか……?)


炎部隊は、既に疲弊しきっていて

ネガティブな思考が飛び交っていた


「……私、先生のこと信じるよ。

きっとこの火の魔法、絶対凄いんだって……!」


アイリスが、期待にも似た感情を抱いている


「今回の研究は……これだ」


サッ……


「……ガスバーナー?」


「あぁ、今回はこれを使う。

アイリス、持ってみろ。」


「ハイ!」


アイリスがガスバーナーを手に持つ


「……まさか!!」


その時、少女は脳裏にある予感が出る!


(今まで何も無い所から炎を出すのは

ほんとに頭を使って疲れたけど……

既にそこにあるなら想像もしやすくて……

何だか強い炎を出すことが出来そう……!!)


「そのまさかだ。

まずガスバーナーを前に向けて炎を出せ」


ボーーー


「よし……その炎を、

巨大な炎に変換しろ!!」


スゥゥ……


少女は目を閉じ、

左手をガスバーナーの火に向けた


(巨大な炎……ガスバーナーだし、

前に出るんだよね……

それが、先になればなるほどデカくなって……

あの30メートル先の木まで……届け!!)


カッ!!


少女は眼をこじ開け、

先生の言う通り、"巨大な"炎をイメージし、

ガスバーナーを見た!!




ブオオオオオオオオ!!!!!



!!!??


その周りに居た全員が、その景色に驚いていた!!


ガスバーナーから出た小さな炎が

扇状に広がり、約30メートル離れた木にまで

その炎が燃え移る程、

巨大な炎へと昇華されたのだった!!!


「イメージ通り……!!」


「まさか……これ程とは…………!!!

が、ガスバーナーを止めろ!!」


「あ、は、ハイ!!」


ボォォォ……


「周りの木を切れ!!

絶対に本部に炎を移らせるな!!」


ハイ!!


……………………




執務室 夜




「す、すみません……

まさかこんなに巨大になるなんて……」


少女が頭を下げながら言った


「あぁ……私も、すごくびっくりした

まさかあれ程短時間かつ、強力な炎になるなんて

予想しなかったよ。

でも、ここまで巨大にしなくてもよかった。

本部近くでこんなこと、今度からはしないように。

オーナーに謝るのは私なんだ。」


「はい……」


「でも…これ程の炎、

恐らく他の隊員でも、相当な素質がなければ

出来ないと、私は思う。

よくやってくれた……!!」


「……!!

は、ハイ!ありがとう……ございます!!」


「そんなに気弱な返事じゃなく

もっと自分を誇りに思って良い。

もう君は、昔の君じゃないのだから。」






……ガチャ


「……さて、アイリスが帰ったことだし

今回の研究結果を記すか。」


前から私が魔法のことについて記し続けている

"マル秘魔法記録"


この本は、その日その日の研究結果を記した物で

私以外には、絶対に見せないように管理している。


私はそれを机に置き、

筆を取り、椅子に座りながら

今回のことについて記そうとした


……


(ようやく実戦で使えるような成果を出せた

……記念に、これまでの研究について

振り返るとするか……)



[一日目] シュヴァルツと共に、解読に成功


最初に書かれていた、火の魔法という単語

魔法の本でも最初は、火の魔法を繰り出せるよう

作られたのだろう……


ということは火の魔法とは

魔法の入門編と言った所か。


どんな魔法で、どれ程強力なのか、期待しよう




[二日目] 火の着火に成功


まだまだ実戦で使える物ではないが、

初めの頃はこの程度だろう。


これを磨いていった先、

ビーストを越えられる気がしてきた。


今後の展開に期待だ




[三日目] アイリスが疲労により睡眠


夜になっても、アイリスを見ない。

恐らくまだ眠っているんだろう。


シュヴァルツが指揮を取り

一人一人が少し離れた円陣を組んだ状態で

炎を一箇所に集めた所、

燃え盛らさせることに成功


PS アイの寝顔を見たのは

絶対に本人には言わないようにしろ。自分。




[四日目] 個々の炎の強化


まだまだ個々の炎は光の粒で止まっている。


炎が出る時は皆、草に炎が出ている。

皆、何かしらの着火剤がなければ出せないのだろう


何か変だ




[五日目] 何もない空間からは炎が出にくい


昨日、皆何もない場所から炎を出してないので

気になっていたのだが、

やはり何もない空間から炎を出すことは難しいようだ。


何人集まろうと、炎を出すことは出来なかった




[六日目] 個々の炎の強化


四日目と同じ


正直、少し焦っている

第八騎士群がこの間犠牲になった後

音沙汰は無いが、

いつここで襲われてもおかしくはない


早く有用化できれば良いのだが……




[七日目] 前方方向への炎


前の円陣の状態で炎を出した時よりも

炎が弱体化している。


これは困った。

本当に火の魔法は、実戦で使えるのだろうか……




[十日目] 困った


あれから個々の炎の強化を続けていたが

一向に強くさせることが出来ない


これはまずい。


時間が惜しい

これからは、一睡もしない覚悟で

研究に励むとしよう……


[十一〜十四日目]


字が書き殴られ、

どんなことを書いたかわからない程汚い文字だ


一睡もしていなかったせいか

その時のことはあまり覚えていない







[十五日目] 炎の実用化に成功


久しぶりに寝たら、

その夢の世界で無意識が働き、

火の魔法について考えさせられる羽目になった。


しかし、それが功を奏し、

火の魔法の本質を見抜くことが出来た。


火の魔法とは、火を生み出す物ではなく、

"火自体を強化"するものだった。


ガスバーナーの炎があそこまで強くなったのは

想定外だったが、この炎部隊が実戦投入されるのが

そう遠くない未来となった。


さっき聞いた話だが、

手を前に出すのは、どうやらその手の先に

火が出す為に、座標を決める動作だったらしい。


謎が全て解決して、

凄く気持ちが良い。今夜はいい夢が見れそうだ。


次は、ガスバーナーではなく

火の矢を放った後、その炎を強化し

どうなるのかが知りたくなった。


それはさておいて、炎の部隊の面子で

今度、パーティーが開かれるらしい


私も参加したいが、私は教師であって生徒ではない。

教え子達に、偶には教え子だけの時間があっても

良いだろう。


次はどんな魔法を研究しようか……

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