殺風景




「全員、集まったな」


「おう、アーフェンも来たぜ。

こんな人集めてどうしたんだ?」


「そうですよ隊長、

ちょうど悟○がか○は○波をうったのに……」


「一人サボってるやつは置いといて、

それで、魔術師、集めたぞ」


集まった全員が、魔術師の方を

一斉に向いた


「魔術師……!?

その人、本屋の魔術師かぁ!?

おらぁ、初めて見たぞぉ!?」


「小生、初めてお会いする上

少し緊張するのですが……」


「えぇっ!?この人があの?」


(カレンさん、このローブの人

そんなに凄い人なのか?)


(えぇ、何せこの人は物凄い力を持っていて

その力で、移ったら死ぬと言われる

約二十年前に流行った、絶対に治らない奇病を治した

この街の英雄……この街にいる

父さんや母さん世代の人は、

皆この人に救われたのよ。

その子供である私達は、敬意を払うべき人だわ)


(へぇー!ただの図書館の館主だと思ってたが

そんなに凄い人なのか!!

……物凄い力?薬じゃないのか?)


(ワタシはまだその時生きてなかったから

あれだけど……よくわからないの。

どうして父さんは治ったんだろ……)




「ふむ……皆、良い顔をしているな。

流石はジオルの編成した精鋭部隊だけある。

さて……今回は、"魔法"について……」


……


「"ネクロノミコン"。

君たちが探している情報は、

それに書かれている。」


「ネクロノミコン……?」


「太古の昔、ある魔術師が記した

本来、この世界にはない本……

その本は、人を選ぶという。

探している者が、その本を読む権利があれば

自ずとここの何処かから見つけることが出来る。」


「あなたは、そんな物をどこから……

いや……この質問は"野暮"か」


「……フッ、君にはいつも勘づかれてしまうな。

それはそうと、皆は見つけられたかな?」


……


ヒソヒソ


(誰か見つけたか?)


(いや、俺は……)



精鋭部隊の人達が

その静けさに、咄嗟に見つけたか確認し合った


しかし、誰も見つけていなかった


「フフフ…誰も見つけてなどいなかったか。」


「……」


私は疑問に思う


「……ジオル君、どうしたのだ?」


「……いや、不自然だと思ったのでね。」


「……続けなさい。」




「……あなたはさっき、ここにある本は

"カモフラージュ"と言っていた。

万が一見つけても貸さないとも言っていた。

それはつまり、普通に見つけようとしたら

"絶対に見つからない"場所にある。

これがまず一つ。」


「……ほう?」


「そして次に、

その"絶対に見つからない場所"というのは

何処だ…?

カモフラージュまで置いて、

この図書館に置く必要はない。

むしろ、いつか見つかってしまうように思える。

これも不自然だと思ったことだ……


そして、アーフェンがさっき言ったが、

この図書館は昔からある物ではなく

最近建てられた図書館だ。

しかし、この建てられた場所も

前から不自然だと思っていた……」


「……隊長、なんだが、それ以上はいけない気がします

……言葉には言えないですが、

妙な所で賢すぎる隊長は

過去に襲われたことがあるのに……」


「……ここは騎士群の隣だ。

襲われたとて、君達がいるじゃないか。

話を戻すぞ……」


「この図書館は、町から少し離れた場所にある。

ここ、"第七騎士群"の隣だ。

しかしここは、商売するに当たって

客があまり来ず、困るはずだ。

それは素人目から見ても分かるはずだ。


ならば何故ここに建てた?

まるでここに建てた理由は

商売ではなく、別の意味が込められている……?」



……



「不謹慎だが、過去の話をもう一度思い出そう。

二十年前に流行ったとされる"梓月病"

その梓月病はかなり異質な物だった。

ここシンバシ町は、言い方はあれだが

見渡せば海と山だけで、

中央都市から外れたこの場所では

そこまで外交は盛んではなかった。


だから、環境は昔から変わらず、

この梓月病が、突如として流行ることはない……


だとしたら、この梓月病は

どうやって流行った…?

……誰が治した…………?」



!!????


「最後に、魔術師がさっき言った

"ネクロノミコン"と言う本。

恐らくそれは、魔術師が代々守ってきた本だろう。

そうじゃなきゃ、その本を知るはずもない。

何せ"自立する本"なのだから。


それを前提に考えて、

何故この場所に図書館を建てた?

何故梓月病は流行った?

何故誰にも貸し出さない……?


ここまで言えば、君達にも分かるだろう……」


「……ネクロノミコンは、

"災厄を齎す本"……!!?」


「アーフェン、ご名答。

その本は代々守ってきたが、

何者かに持ち出され、

梓月病が流行ってしまった……

そうなのだろう?"本屋のガーディアン"さん。」


……………………


ザワザワザワ


周りがざわついている

図書館が揺れている

館主は無言でいる


それは私の、ただの憶測に過ぎない言葉に

全てが驚きを隠せないでいた


「……」


「最後の"何者かに持ち出され"の部分は

何にも確証が無いで言った

というか、全て推測で言った言葉であって

真実味に欠ける。

そこで、あなたの言葉を聞かせてくれ……!!」


「……あれは、悪魔の本だった。」


「……悪魔?」


「あぁ……そうだ。あれは、悪魔の本だった……」






「悪魔の本、か」


「……隊長?」


「……」


私は無言で、本を探した。

床、壁、天井と順番に見ていった


「……お前も探すのか

……かつての私のように…!!」


「……それが、悪魔と言うのなら

私の元へ来て…それを証明してみろ!!!

ネクロノミコンッッ!!」



カァァァァァ……!!



左端の本棚から、謎の紫色の光が出る



ザワザワザワ


(あそこにあんな本あったか……!?)


(いいや……俺は見てねぇぞ……!)


精鋭部隊の誰かが言った


精鋭部隊や、アーフィンやルナ

更には本屋の魔術師さえもが

それに驚き、動けないでいた


「現れたな……悪魔の本!!」




カァァァ……


光続ける、その茶色く濁った古本は

白い糸で結ばれており、

こちらを見るように、

本棚の中に茶色の表紙で立っていた


「……」


私はそれに、ゆっくりと近づく


「駄目だ……それを求めては……!!

私は昔、それを開けてしまった……!!

お前のように、力を求めた結果、

中から病原菌が溢れ出し、梓月病は流行ったのだ……!

それは、絶対に開けてはいけないんだ……!!」


「……近い未来、またこの本を開ける人物は現れる

その人物を追い返しても、また現れる


この本は、"力"そのものだ。

悪魔にも、天使にも、何なら英雄にもなれる本


しかし!!力とは"水"だ!!

人はそれに助けられながらも、

また同時に、それが大量にあったら溺れてしまう


それでも、その水は絶対に必要な物なんだ!!

争いが起きようと、世界が滅びるきっかけになろうとも

私たちは、それに向き合う必要があるッッッ!!」


ガッ!!


私は、強引かつ丁寧に

その本を右手で取った!


「取ったぞあの騎士さん……!!」





取ったその瞬間、その本から言葉が聞こえてきた





「この本は、無限の輪廻の輪から外れし本

本に選ばれし者よ。

この本を求めし者よ。

汝はこの力を何故求め、何を欲する……?」


「……」


私は一度考える


この言葉は恐らく、

ネクロノミコンの筆者が

本を取った時、その人に本自身が問いかけるよう

設計したのだろう


しかしそれは推測の域を出ないので

私は、問いに答えることにした


(……この問いに関しては

考える必要もないな…………)



「私は……その力を、自然に対抗する為に求めた!

私が欲しいのは……"生きる為の人の進化"だ……!!」


……………………


「良かろう。この力、存分に使いこなしてみせよ」


そう、本は言った。

まるで、待っていたかのように、本は言った


その時だった



ブワァァァァァ!!!


「!?」


とてつもない強さの強風が来て、

辺りの本は辺りを飛び

本棚は倒れ、図書館全体が揺れていた


皆は床に伏して耐えている



ビュゥゥゥ……




一分ほど強風が本から流れ出てきた


1分後、その強風がピタリと止まった

髪はボサボサになって、

周りにあった本は窓から外へ飛び出した


殺風景と呼べる程綺麗になった図書館の中

そこには異様な静けさがあった




「……」


私は無言で立ち尽くす

何かを悟ったような目をしていただろう


それは何故か


本からは紫の光は消え

私の手の中にあったからだ

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