第28話 解放記念日~それは、それで楽しい(5)
『宮廷魔導士団ベナンダンディ、及ビ大陸議会ニ対シ、以下ヲ要求スル。一ツ、上級王、メガデスノ釈放。メガデス陛下ハ偉大ナル指導者ニシテ、大陸ノ正当ナ支配者デアル。大陸議会ノ判決ハ不当ナモノデアリ、陛下二着セラレタ罪状ハナンラ法的拘束力ヲ持タヌモノデアル』
耳障りな合成音は、町中に鳴り響いていた。
人々は、空を見上げ、テロリスト――ファストウェイの演説に耳を傾けていた。
天空から降り注ぐ声に、クラウディアが叫ぶ。
「なんだこれは!」
「犯行声明ってやつでしょ?」
激するクラウディアと対照的に、のんきな口調でケイトが答える。
その手にはコネクターが握られていた。
「新聞に載っていた奴と、同じ文面だね。あのファストウェイってやつの、仕業でしょう」
「そんなことはわかっている! あたしが言いたいのは、どうやってこの放送をしているのかってこと!?」
「おそらく、音声を信号化して、バスケット・アイの通信システムに割り込んで、拡大させて都市中に流しているんだと思う。大した技術だよ。魔導だけでなく、工学にも精通していなければ、こうはできない」
「どこから放送しているのかわかるか? これ以上、テロリストに好き勝手言わせるわけにはいかないだろう」
「ここじゃなんともできないね。本部に問い合わせないと何もわからないよ」
「じゃあ、本部に連絡しなさいよ!」
「それを今やっているんだけどさ、つながらないんだ」
そういって、コネクターを見せた。
コネクターの通信機能を使えば、本部との連絡を取ることができる。
しかし、いっこうに反応がない。
「多分、向こうも混乱しているんでしょう。せめて、負傷者だけでも輸送したいんだけど、この状況じゃ無理っぽい」
言い争うクラウディアとケイトの横には、負傷者たちの姿があった。
魔族の戦闘により、警備隊は多くの負傷者を出した。
中でも重症なのが、魔素にやられた隊員である。
体内から魔素を除去するには、専門の魔導医師の手当てが必要になる。
医薬品もないので、手当てのしようがない。
負傷者の中に、クリーデンスも含まれていた。
魔族の爆発に巻き込まれて目を回していたクリーデンスだったが、すでに意識を取り戻していた。
腕力だけでなく、耐久力もずば抜けているので、魔族と戦闘したにもかかわらず、傷一つ負ってない。
「……なんかすごいことになっちゃったね」
「そうですね」
外見では無傷でも、魔族と接触した以上、魔素に汚染されていないか検査する必要があった。
異常がないか、ラオに診断してもらっているところで、
「あれ?」
ふと、何かに気が付いたかのように、クリーデンスが周囲を見渡す。
「メガデス君が、いない?」
「あの人なら、飛んでいっちゃいましたよ」
そう言うとラオは、頭上に広がる晴天を指さす。
「飛んだ?」
「そう。空に向かって、びゅーんって……」
●
城内に鳴り響く緊急警報に、カーティスは指令室に向かった。
グラウンド・ゼロ内にある指令室は、都市内部における全ての情報があつまる場所である。
部屋の中には通信機が置かれ、交換手たちが外部との連絡を取り合っている。
彼らの集めた情報は、幻影魔導の使い手であるオペレーターたちが取り囲んでいた。
部屋の中央には、王都スペルディアの全景を表す地図が投影されていた。
それにかさねて、現場の状況が幻影魔導で写しだされていた。
中央大通りの広場。
パレードの出発点にあたる場所は、魔族との戦闘によってできた痕跡が残されていた。
破壊された最新鋭のガーディアンと、おびただしい数の負傷者を見つめ、傍らにいる秘書官にたずねる。
「状況は?」
「十分前に、ケースSの魔導テロが発生しました」
ケースSとは、魔族召喚による無差別攻撃である。
凶悪な魔導テロの中でも、最悪の部類に相当する。
「召喚された魔族は、既に現場にいた警備部の隊員たちによって鎮圧されています。その直後、テロ首謀者であるファストウェイから、犯行声明が届きました」
告げると、通信担当のオペレーターは、外部音声を再生する。
『二ツ、
魔導によって再生された音声は、何らかの加工が施されているらしく、ひどく聞き取りづらい。
「この犯行声明は、全都市内に向けて放送されています。放送は現在もなお、継続中です」
「……ようやく、おでましか」
耳障りな合成音声に、カーティスは喜色を浮かべる。
犯行声明の内容は、先日、新聞社に公表したものと同じ内容のものだ。
この半年、宮廷魔導士団が総力を挙げて捜索していたテロリスト、ファストウェイとみて間違いない。
「それで、この犯行声明は、どこから発信しているんだ?」
「わかりません」
困惑したように、オペレーターが首を振る。
「発信位置を特定できないように、いくつもの中継点を経由しているみたいです」
「彼はどこにいる」
「彼?」
「魔王だ。メガデスはどこにいる?」
「……さあ? わかりません」
再び、オペレーターが首を振る。
融通の利かないオペレーターに苛立ちながら、カーティスは指示を出す。
「監視役がいるだろう。クリーデンス・クリアウォーター魔導官だ。彼女は魔王と一緒にいるはず。彼女の居場所を特定できれば、魔王の居所も自然とわかる」
宮廷魔導士団のバッジは、身分証のみならず、居場所を特定する発信機としての機能も兼ねている。
カーティスに命じられたオペレーターたちは、早速バッジの反応を探る。
ほどなくして、地図上に光点が浮かび上がる。
「クリーデンス・クリアウォーター魔導官の位置を確認。都市外縁を北に向かって高速で移動しております。向かっている先は、……学校?」
「それだ!」
オペレーターのつぶやきに、カーティスはすぐさま反応する。
「学校には試験用の通信塔がある。ファストウェイはそれを利用して、犯行声明を放送しているのだ。引き続き追跡を続けろ。技術部長は居るか!」
「はい、ここに!」
命じると、すぐに技術部長が駆け寄ってきた。
すかさず、カーティスは技術部長にたずねる。
「テンペストは使えるか?」
「え?」
「先日、説明を聞いた新兵器は使えるかと聞いている。長距離魔導攻撃で、ファストウェイを抹消する」
「一人の人間を抹殺するのに、戦略兵器を使用するおつもりですか?」
「そうだ。できるか?」
「それは……」
一瞬、口ごもってから、技術部長は答える
「……それはもちろん、可能です。しかし、先日もお話ししましたとおり、このシステムはまだ試作段階です。テストは一度もしておりません。どんな不都合が起きるか……」
「構わん。ここで使わずして、いつ使うというのだ。ファストウェイを追い続けて半年。ようやく奴の尻尾をつかんだ。この機会を逃せば、いつ奴をしとめることができるかわからん」
「それはわかりますが、この街には今、各国の特使たちが詰めかけているのですよ。彼らの目前で、テンペストを使えばどうなるか」
「だからこそ、やらねばならんのだ。これは、千歳一隅のチャンスだ。うまくいけば、テロリストを始末した上で、六都市に対し宮廷魔導士団の威信を見せつけることができる」
「……まさか、初めからこれが狙いだったのですか?」
「ファストウェイがいるのは、学校だ。今、学校は休校中だ。無人の学内ならば、被害を最小限に食い止めることができる。これ以上のチャンスがあるか?」
「…………」
瞑目して考えることしばし。
やがて技術部長は目を開く。
「調整に時間がかかります。一時間ほどください」
「三十分だ」
命じると、技術部長は脱兎のごとく駆け出した。
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