第8話 【飛翔】


 晴人は飛蹴兎の肉【祝福の肉】を食してから、翌日、【祝福の肉】の効果によって入手したスキルを試してみる為に外へと駆け出した。


 【祝福の肉】で入手したスキルは【風魔法】【跳躍】【飛翔】の3つである。


【跳躍】は名の通り、高く飛び上がる事が出来るスキル。

【風魔法】はMPを消費して風を自由自在に動かす事が出来るスキル。

【飛翔】はフライラビット戦闘で一番厄介だったスキルである。このスキルによって空を飛ぶ事が可能になる。


 晴人はその中でも、【飛翔】が生身の人間である自分が使えるのかどうかが気になって仕方がなかった。


 それも仕方がないことだろう。

 元の世界の科学レベルでは、人が生身で空を飛行するなんてことは不可能とされていた。


 その不可能がもしかすると異世界の【飛翔】のスキルによって実現可能になるかもしれないのだ。

 興奮するな、という要求の方が無理である。


 晴人は胸に大きな期待を抱いて、【飛翔】スキルを試してみる事にする。


「【鑑定SP】を使用した時みたいに、スキルを使用した結果をイメージすればいいんだよな」


 晴人は【鑑定SP】を使用する感覚で【飛翔】も使用しようと試みる。【飛翔】を使用する感覚と、使用した後の結果のイメージを頭の中に描く。


 フワッ!


 すると、次の瞬間。


 晴人へとかかっていた重力が無くなった様な、浮遊感が晴人の身体を襲った。


【飛翔】をイメージするごとに地面がどんどんと遠ざかっていく。


 晴人は自分の体が浮いている事に大声で歓喜をあらわす。



「よっしゃぁぁぁ! 飛んだぁぁぁ!」


【飛翔】スキルは生身の人間の体にも作動してくれるようで、どんどんと上空へと浮上していく。

 先程まで立っていた場所が小さく見えてくる。


 浮遊しているだけでは【飛翔】しているとは言えないと思った晴人はどうにか空を滑空できないか脳内でイメージをする。


 すると晴人のイメージした通りに進行していく。

 イメージ通りに前へ急発進も出来る。

 まるで自分の体に翼が生えたかのように空を飛ぶ事が出来た。


「なるほどな! 【飛翔】スキルもイメージさえしっかりしていれば人間の身体でも使用できるのか」


 晴人は初めは浮かぶ事が出来たものの落ちてしまうのではないかと不安があった。

 だが【飛翔】スキルにも使い慣れれば便利この上ないスキルである。

 念願の空を飛ぶという夢が叶った晴人は大興奮の調子で大空を駆け回った。


 暫く晴人は大空の旅を堪能して【飛翔】が充分に使用可能なことを確認した地面へと戻った。


 晴人がこれによって発見したことは【飛翔】はイメージさえあれば生身の人間でも発動するということ。【飛翔】は常に使用できるというものではなく、MPを消費していたということである。



【飛翔】を試す事に成功した次には、【風魔法】の使い方を練習することにした。


 晴人はフライラビットと戦闘中した時の事を思い返す。晴人を苦しめた数々の風魔法の乱撃。

 晴人は集中してイメージを形成する。


 風の刃を出現させ、そして発射。

 着弾と同時にノコギリと同じ細かい摩擦で斬る。


 イメージが形成される【飛翔】と同様に【風魔法】が作動した。

 そして目の前に風刃が現れると同時に、出現した風の刃が木々を襲った。

 勢いよく木々を薙ぎ倒していく。


「おぉ、初めて魔法を使ったけどこんなに威力があるのか」


 初めてこの世界で魔法というものを使ったのだが、思いのほか上手くいったのか凄い威力を出す事が出来た。


 更に鋭い風刃をイメージして発射すると、その風刃が衝突した木は、居合斬りをした時の如く滑り落ち倒れた。


「これは凄いなぁ、イメージを強くすればそれだけ威力が強くなるということか」


 風の刃以外にもイメージがしっかりしていれば風を操作する魔法は使用できるという事で暴風のようなモノまで発生させられるようになった。


 だが暴風は余りにも強力過ぎて単騎の戦闘には向いていないと判断した。


 そして、基本的には魔法についての原則は魔法を使用するためのイメージ力とMP量だろうと晴人は推察した。


 結果、晴人は【風魔法】での大抵の魔法は使用できるようになった。


【風魔法】を試した後は【飛翔】【風魔法】程、有能そうには見えないが【跳躍】を試すことにした。

 これをどう使うかは分からないが使いようによっては良いスキルになり得るかもしれない。


【跳躍】のスキルとしては跳躍力を調整するというものだった。これを上手く活用し、加減が出来る様になれば、さらに忍者の様に跳び回ることが可能になり、高速で移動する手段には使えそうなモノだった。


 【祝福の肉】で手に入れたスキルを一通り試し終えた晴人は、再び【飛翔】を使って森の中を駆け回る事にした。

 次は【飛翔】スキルを試すのが目的ではなく森の中を広範囲に探索するためである。


 晴人は【飛翔】スキルを駆使して、上空から森を探索した。【飛翔】のお陰で移動スピードが格段に上がった晴人はいつも通りに主食である【ふしぎな果実】を収穫しては、広範囲を探索できる様になったおかげで遭遇する頻度が高くなったフライラビットを討伐した。


 レベルアップに加えて、スキルの習得のお陰で昨日苦戦していた飛蹴兎も苦労することなく楽々と討伐する事が出来た。


 フライラビットを数匹狩った晴人は馴染みの【ふしぎな果実】と兎を担いで、拠点地である洞窟へと帰還した。


 拠点へと帰還した晴人はこれからの事を考えた。


「【飛翔】も手に入れて、広範囲を探索出来る様にもなったし、肉も狩れるようになったから、明日からは森の奥に行ってみよう」


 こうして晴人は『神の園』の森の奥へと足を運んでいくのであった。

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