7 3人の訪問者(初稿)

 次の「 8 もう一人の……」と合わせて書き足し、2000文字少しになるように分け直しました。

 タイトルも「 3人の訪問者」から「 三人の訪問者」に変更しました。単に数字と数字が並ぶより漢数字の方がいいかなと思ってですが。






――――――――――――――――――――――――――――――


「その豪華な顔ぶれだが1人は王宮付きのなんとかって大臣だ。肩書はなんとか言ってたが覚えてねえ。会ったのもこの時だけだし、まあなんでもいいそんなもん。太ってて赤い顔して頭の禿げた、上から物を言ってくる偉そうなおっさんだった」

「絵に描いたような大臣だな」

 

 ベルが言いそうな言葉だが今回そう言って吹き出したのはアランだった。


「俺もそう思ったな。あ~大臣ってのは本当にこんななんだなって」


 もちろんベルも吹き出した。


「そのおっさんが言うには船の残骸は片付け、死んだ仲間は町外れに葬ったってことだった。聞くところによると俺は五日ばかり意識がなかったみたいでな、その間の出来事だ。まあ仕方がないことだな」

「その次には色々聞かれた。どこから来たのか、目的はなんだったのか、一緒に乗ってた人間のことでなにか知ってるかとか、そうそう俺の名前や年、そんなことももちろん聞かれた」

「聞かれてもな、正直、船のやつらのことはそんなによくは知らねえ。どいつもこいつもすねに傷持つようなやつらばっかりだ、名前だって本当の名前かどうかも分からねえやつがほとんどだったしな。だから言えることってもそんなにない、どこの港から来たか、どこの港に寄ったか、そんなことぐらいだ」

「後は俺のことだが、あんまり答えてやりたくない気がして返事はしてやらなかった」

「ぶふっ」とベルが吹き出した。「トーヤだってすねにきず、ってやつだもんな」

「まあな」


 トーヤは続けた。


「おっさんは無視されたことに腹立ててたみたいだったが、隣にいた、こっちは細い、ヤギみたいなひげ生やしたひょろひょろのおっさんが『まだ気がついたばかりですし』とかってなだめて、今度は自分が色々聞いてきた」

「へえ、なんて?」

「シャンタルの託宣に選ばれたが助け手とは何か?とかなんか、そういうことだ」

「それでなんて答えたんだ?」

「知るかよ、ってご丁寧にな」

「ぶふっ」


 またベルが吹き出した。


「こっちは今の今、いきなり入ってきた女神様にそう言われたばっかりだ、知るはずねえ」

「そりゃま、そうだよな」

「シャンタル神殿の神官長だとかなんとか言ってたが、こっちはそういうことばっかり聞きたがったな。それはそれで分からんこともねえ気もするが、こっちだってそれこそ『わけわかんねえ~』だしな」


 トーヤが肩をすくめて両手を上げるとベルの真似をしながらそう言った。


「似てねー」

「うるせえよ」

「まあなんでもいいよ、そんで?」


 今度はアランが先をうながす。


「こっちもこれ以上聞いてもしょうがないと思ったのか、今度はそのまた横にいるちょっと年とったおばはんが交代した。今度はシャンタル宮の侍女頭だって名乗った」

「侍女ってのはマユリアってのがシャンタルの侍女じゃねえのか?」

「マユリアは侍女っつーてもシャンタルの世話をするわけじゃねえ、元は自分もシャンタルだしな。まだちっこいシャンタルの託宣を聞いたりする、まあ言わばもう一人のシャンタルみたいなもんだ」

「じゃあマユリアもたくせん、ってのやるのか?」

「やらねえんじゃねえかな?そのへんは俺より後で本人に聞く方が早いかもな」


 ベルが「へ~」と言いながらシャンタルを見る。


「なのでこっちの侍女は実際に身の回りとかを世話する侍女の一番えらいおばはん、ってことだ」

「で、そのおばはんは何か聞いてきたのか?」

「いや、何か聞くようなことはほとんどなかったな。何か困ったことはないか、用意してほしいことはないか、とかそういうことを言ってきた」

「親切なおばはんだな」

「親切な感じではなかったな、考えようによっては一番冷たかったぞ」

「なんで?」

「人間を見る目じゃなかったからな」

「へ?」

「おまえ、人から物を預かったらどうする?」

「えっと、あんまりそんなことねえから分かんねえや」

「そこを考えろってトーヤは言ってんじゃねえか」


 答えたベルにアランがそう言う。


「う~ん、そうか……まああずかったんだから壊さないようにするかな」

「そうだろ?まあそんな感じだ」

「わっかんねえ!」


 ベルがむくれたようにそう言う。


「つまりな、そのおばはんにとって俺は、命のある人間じゃなく単なる預かりものだったわけだ。マユリアに命令されたから壊れないように扱う、そんだけの存在だ」

「大臣のおっさんも神官のおっさんも、一応俺を人間として扱ってくれたからな、だから質問して答えなけりゃ腹も立てれば、えらい目にあった後だからって気を使うこともする」

「だけど侍女のおばはんはなんも興味がないんだな。だから俺が何を考えようが何をしようが関係ない。困ったことがないか聞いてきたのも単に壊れないようにするために必要だから聞いた、そんだけだ」

「う~ん、わかったようなわかんねえような……」

「大体分かればそんでかまわねえよ」

「わかったのかな……まあ、いいか」

「適当だな」

「うん、そんで?」

「まあ聞かれたんでな、とりあえず俺の服とかどうしたのか聞いた」

「そしたら?」

「嵐にもまれて元々小汚かった服はボロボロになってたんだが、丁寧に洗濯して畳んで置いてあるとさ」

「やっぱり親切に思えるけどなあ」

「なんでもいいが、とにかくその時着せられてた絹のシャラシャラの服がもう落ち着かなくてな、なんでもいいからまず落ち着く服を用意してくれって言った」

「絹なのにもったいねえ~」

「おまえも着てみろ落ち着かねえぞ?」

「そんなもんなのかねえ」

「そんなもんだ」


 トーヤはズズッと一口お茶を飲んだ。


「そう言ったら分かりましたご用意します、だとよ。そして服の他にもう一つ俺が身につけてた大事なもんがなかったか聞いたら、それもちゃんとあった」

「大事なもの?」

「ああ、ある人の形見かたみみたいなもんだ」

「そりゃ大事だな。でもトーヤがそんなもん持ってるの見たことねえぜ?」

 

 トーヤはまた一口お茶を飲み、一息考えるようにしてから答えた。


「まあ、その後で人にやっちまったからな、今は持ってねえ」

「ええっ、大事なもんなのにか?」

「まあそれはいいじゃねえか」

「ええー形見なのにか?」

「あんまりしつこく聞いてやるなよ」


 アランが諦めなさそうなベルをなだめた。


「まあ、そんなことをいくつか聞いた。そんでその後で俺の世話をする人間ってのを紹介した」

「おばはんが直々に世話してくれんのかと思った」

「それは御免こうむる」

「だろうな~そんだけ嫌がってたら~」

「笑うなよ」

「だってトーヤめちゃくちゃ嫌そう」


 笑うベルをまたトーヤが小突く。


「俺の世話係ってのが最初に声をかけてきた女だ」

「お気がつかれましたか~ってやつだな?」

「ああそうだ」


 トーヤはまた何かを思い出すように少し顔を上げた。






「この者がお世話をいたします」


 侍女頭の女はトーヤが目を覚ました時にそばにいた少女を「こちらへ」と呼んだ。

 少女はさきほどやったようにまた片膝をついてひざまずき、丁寧に頭を下げてから名乗った。


「お世話をさせていただきます、ミーヤと申します」

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