6 再び宿屋にて(初稿)

 第一章 1 シャンタリオへ 「 6 再び宿屋にて」のトーヤが聞いたという「大きな木の伝説」の部分を少しふくらませ、タイトルも「 6 大きな木の伝説」と改題しました。






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「トーヤってすげえな……」

「何がだ?」

「だってよ、女神様に選ばれた人間ってことなんだろ?」


 ベルが心底尊敬するという顔で目をキラキラ輝かせた。


「そんで、その『たすけで』ってのは何をするんだ?選ばれてなんかやったんだろ?すごいよな!」

「知らん」

「知らんって、なんかやったんだろうよ?」

「まあなんかはやったけどな、それが助けになったかどうかまでは俺は知らん」

「えー」


 ベルのがっかりした声をトーヤは無視した。


「本当に分からん、今でもな」


 トーヤが隣に座るシャンタルをちらっと見た。シャンタルは相変わらず何も言わずに、動かずに座ったままだ。


「まあな、そういうことも多いみたいだ」

「そういうことって?」

「何がなんだか分からんが、とりあえず神様の言う通りにしとくってことがだ」

「どういうこと?」

「例えばな、これも聞いた話だが、ある時『ここに木を植えろ』って言われたとするだろ、そして木を植える。その場所がものすごく変な場所だ、通行の邪魔にはなる、夏になると虫がく。それでもその木はお告げによって植えられたものだ、何年も何十年もその木のある村だか町だかの人間は大事に育てる、花も咲かなければ実もならんその木をな」

「なんだそれ、すっげえつまんねえな」

「つまらんが仕方がない、そういう風に神様に言われたんだからな。多分そいつらもつまんねえなと思いながら育てたんだろう、代々、代々な。そして木はやたらめったらでかくなる、目障めざわりなほど」

「すっげえ邪魔だな……」

「そうだな。だがな、そんなある日、大きな山が崩れたんだ、突然」

「えっ!」

「そりゃもう大きな山崩れだったそうだ。大きな山の半分が崩れて、下手すりゃその下にある町も村も全部埋まってしまって誰も助からんような、そんな山崩れだったのにな、その木が土砂を受け止めて流れを変えたもんで、町も村も畑もみんな助かった」

「ええっ!」

「たった1本の大きな木があったためにみんなが助かった、そのための木だったとやっとみんな分かってシャンタルの託宣に感謝したんだそうだ」

「ほんとうかよー!」

「本当かどうかは知らんが、話してくれたやつは信じてたな」

「ええーなんか、信じられねえよー」


 ベルが椅子にもたれるようにのけぞり「ええーうそだろー」とまた言った。


「俺も信じられないが、伝説ってのはそんなもんかも知れんなあ」


 アランがぼそっとそう言う。


「そうだな」


 トーヤがアランに答えた。


「まあな、そういう話がいっぱいある。そういう話を信じたくなるような、そんな国だった」

「そんで、トーヤを助け手ってのだって言ったのがそこのシャンタルってわけなんだな」


 アランの言葉にトーヤはまたシャンタルを見る。


「らしいな」


 シャンタルは答えない。


「そんで結局その続きはどうなったんだよ?そのアマリアか?」

「マユリアだ」

「なんだっていいけどさ、そのなんとかってもう1人の女神様がトーヤに会いに来たんだろ?」

「そうだな」

「そんでどんな話をしたんだよ?」

「話はしてねえな」

「は?なんだそりゃ?じゃあ何しにきたんだよ?」

「俺が目を覚ましたって聞いて確認に来たんだろうよ。それだけ言うととっとと帰っていった」

「つれねえ女神様だなー」

「その後で今度は3人の人間が入ってきてな、それで色々話を聞いたり聞かれたりした」

「なんだ~女神様の話は終わりかよ~つまんね~」


 またベルが椅子にもたれてぶうぶう文句を言った。


「まあそういうな、そのうちまた出てくる」

「そうなのか?そんじゃ、その3人のおっさんの話でも聞くよ」

「1人はおっさんじゃねえけどな」

「まあなんでもいいよ、とっとと話してくれよ」

「おまえが話の腰折ったんだろうがよ」


 アランがまたベルを小突こづき、ベルがふくれる。いつものお約束だ。


「そんじゃ続きの話だ。部屋に来たのはなんとかって大臣と神殿の神官と侍女頭の3人だった」

「女神様からは落ちるがそれでもまだ豪華な顔ぶれだな……」

「なんかもう豪華なのにも慣れたな、なんてこたない」


 アランとベルはそう言いシャンタルは身動きもしない。そしてトーヤは続きの話を始める。

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