第12話
「Oh……」
内容を確認した俺はすぐさま本を閉じ、もともと置いてあった場所に『競争 その本質と目的』を戻した。そう、これはしっかりとした本なのだ。決して腐なんて詰まってなんていなかった。
こちらを光の無い瞳で見続ける無言の遠野先輩に別れの挨拶を告げる。
「いやぁ、いい本でしたよ。本当に。でも俺にはちょっと早かったようなのでオカルト研究部はやめておきますね。本当にごめんなさい。では!」
俺はダッシュでドアに向かった。
あと少しというところでとんでもない力で肩を捕まれ、止まらざるを得なくなった。そこには、やはり優しげな表情で微笑んでいる遠野先輩がいた。
「ねぇ、オカルト研究部に入ってみない」
そう言って遠野先輩はより一層微笑んだ。いつの間にか敬語じゃなくなってるが、それだけ心を許してくれたのだろう。そうに違いない。だからこの手を離してくれないだろうか。
どんどん遠野先輩の笑みが濃くなっていく。それに耐えかねた俺はすぐさま土下座を決行する。
「ほんっとうにごめんなさい!無理です!俺には無理な領域なんです!」
その時、フッと肩にかかっていた力が緩くなった。許してくれたのかと思い顔をあげると、入部届が目の前にあった。
入れということなのか、遠野先輩は相変わらず笑みを浮かべたままペンを差し出してくる。
あ、これ許してくれないやつだ、と思った瞬間、後ろのドアが開いた。それは逃げるのに決定的なチャンスだった。そのことを脳がありえない程の回転を見せたことでわずか百分の一秒で思い至った俺は、すぐさまドアに駆け出した。ドアが開いたということは向こうに人がいることなど自明であるはずなのに、逃げることにすべてを注いでいた俺にとってそれは思考外のことであった。
その結果起こったことは衝突であり、本来ならばどちらも怪我を追うことになるだろう程のぶつかり方であったが、このときにそれは当てはまらなかった。
修がぶつかった相手はなんと東村先輩であったのだ。彼は驚くべき反射神経をもって、衝突の威力を軽減しながら修を抱きしめた。
予期せずありえない包容力を味わった俺は、驚き動くことができなかった。
「おいおい、大丈夫か?佐藤君。いきなり飛び出してどうした」
上から声が聞こえてきて、やっと俺は東村先輩に抱きしめられているのだと理解し、すぐさま離れた。
「ッ!?ごめんなさい東村先輩!怪我はないですか?」
「安心しろ、君は軽いから無傷だよ。さて、何があったのか聞きたいところなんだが……」
東村先輩が部室の中を見てそう言うので、俺も釣られてそちらを見る。すると遠野先輩が鼻血を出しながら気絶していた。顔はニマニマと動いており本当に気色が悪かったが、放置するわけにもいかないので東村先輩に相談する。
「……これ、どうすればいいですかね」
「……とりあえず保健室に連れて行くか」
そう言って東村先輩は遠野先輩を背負って歩き出した。俺はその間遠野先輩の鼻血を無心で拭き取ることに徹していた。あまりにも気色悪いので東村先輩から引き剥がしたかったが、流石にそれはひどいかと踏むとどまりながら保健室を目指す。東村先輩は嫌そうな顔一つせず運んでいた。いや、表情を消していると表現したほうが正しいか。
保健室につき、遠野先輩をベッドに横にし、保険医の先生に事情を説明する。驚くべきことに、これはいつもの事らしく任せて下さいと言われたので大人しく引き下がる。そもそも看病などしたくはなかったので安堵した。
どうやら東村先輩は昨日槙也に言われたことが気にかかり、見に来てくれたようだ。
「佐藤君、オカルト研究部はやめておけ。あれは学校にすらその状況を黙認させているほどのやばい部活だ」
「ええ、絶対に入りません」
そう言って東村先輩は部活へ戻っていった。
急にやることがなくなった俺は家に帰ることにする。今日は大変な目にあったと思いながらも帰宅し、ベッドに横になる。
そうして俺はいつの間にか深い眠りに落ちていった。
夢を見た。
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