第7話

 2人が戻ってくるまでの間、桐島先輩が話しかけてきた。


「ねえねえ君、名前は?」


「ああ、すいません言ってませんでしたね。佐藤修です。で、今さっきトイレに行ったのが衣川槙也です」


 立て続けに桐島先輩は質問してくる。


「へぇー、衣川くんとはいつ知り合ったの?」


「昨日ですね。急にあいつが『同じ匂いがする』とか訳のわからない理由で話しかけてきて喋るようになった感じです」


「『同じ匂いがする』、ねぇ。なんか分かる気がするな。新しいクラスになったとき『あ、この人と仲良くなる気がする』って思うことあるもん」


「そうですか?俺は感じたことないですね」


 槙也も俺と仲良くなれると思って話しかけてきて来たのだろうか?そうだったのなら気持ち悪いと思ってしまったこと謝らなければならないのかもしれない。

 桐島先輩と話していると2人が戻ってきた。


「ギリギリ間に合ったよ」


「そうか、良かったな」


「修もトイレの場所知っておいたほうがいいのではないか?案内するぞ?」


「じゃあ帰るときにお願いしようかな」


「承った」


 その後、修と雑談していると、何やら東村先輩と話し込んでいた霧島先輩が話しかけてきた。


「君たち、最近校内に開かずの扉があるっていう噂があるんだけど興味ない?」


 開かずの扉?そんなものが学校にあっていいのか?という疑問が湧いてくるが、そういう話ではないのだろう。ミステリー研究部の部活動内容を聞かされたとき、校内の噂を調査することもあると言っていたので、噂が出たならそれがどんな荒唐無稽な話であっても調査するのがミステリー研究部が部活として存続していられる要因なのだろう。

 霧島先輩は続けて言葉を放つ。


「捜索ついでに校内の案内もするけど、どう?」


 校内のことをほとんどは知らない俺にとって、渡りに船の話だったので、乗る事にする。槙也にも確認を取る。


「俺は行こうと思うが槙也はどうする?」


「そうだな。君が行くというのなら行こう」


「オッケー!じゃあ行こう!ほら、聡も行くよ!」


 桐島先輩は元気よく声を上げたあと、なおも読書を続けていた寺島先輩を引っ張っていった。




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 桐島先輩は寺島先輩を引っ張りながら学校中を案内して回ってくた。それこそ、開かずの扉捜索がおまけで、メインが俺たち案内だとでも言うように。


「ここが音楽室ね。1年生のうちはここで授業があるから、自然と覚えると思うけどね。よし、次!」


 学校を隅々まで見て周り、第4校舎の4階で案内は終わった。


「ここで最後かな。ここは空き教室が並んでて、吹奏楽部とかが放課後使ってたりするかな。案内終わり!検証結果!開かずの扉はなかった!」


 桐島先輩はが叫び、他の人が拍手をする。ここで俺は違和感を覚えた。俺が昨日気になったものを見ていなかったからだ。それを桐島先輩に質問する。


「桐島先輩、ここで本当に最後ですか?」


「うん、そうだよ。何かあった?」


「いえ、俺が昨日、入学式に向かう途中で気になるものが見えたんですが、それをさっきの案内で見てないなと思っただけです」


「ん?気になるもの?何を見たの?」


「え?あれ?俺は何を見たんだっけ。ちょっと思い出します」


 いや、たしかに昨日見たはずだ。入学式に向かう途中でまた見に来ようと思ったはずだ。

 必死に昨日の記憶を辿る。しかし、その時のことだけが靄がかかったように思い出すことができない。今思い出すことは不可能だと悟った俺は、桐島先輩に謝る。


「すいません。俺の記憶違いだったようです」


「そう?」


「はい」


 ここで初めて寺島先輩が会話に入ってきた。


「もしかして、君が見たのが開かずの扉だったのかもよ?『校内に不定期に現れる誰の記憶にも残らない謎の存在、それがいつの間にか開かずの扉と呼ばれるようになった』、みたいな感じかもね」


 言われてみればそうかもしれない。確かに俺以外にあれを見ていたやつは居るはずだが、それを明確にあれが何かと言ってる奴はいないはずだ。誰かがそれを開かずの扉と言い、それが広まったというのが妥当なところだろう。


「おおー!聡さすが!好き!」


「ああーー!分かったから抱きついてくるな!」


 目の前でイチャイチャしている2人は放っておこう。うん、そうしよう。

 俺は東村先輩と槙也に目配せして、3人で部室に戻ることにする。その途中、気になるものが見えたが槙也が話しかけてきたので興味がそれ、それきりこのことを思い出すことはなかった。

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