第2話
遂に自分の番が回ってきた。緊張で声が震えたりしないか心配だ。
あの爽やかイケメンはこの緊張を耐えて、あの爽やかさを演出していたのか……。もしかすると尊敬に値するのかもしれないな。
俺は緊張していた。そう、どうでもいいことを考えてしまうくらいには緊張していた。だからだろうか、周りが自分をどんな目で見ていたのか修は気づかない。それはある意味では幸福なことなのかもしれない。
俺は呼吸を整え、一息に挨拶する。
「始めまして佐藤修です。よろしくおねがいします」
物凄く無難な挨拶をしてしまった。いや、これで良かったのだろう。ギャグなんてやろうと思ったバカはどこのどいつだ。俺がしばいてやる。
何事もなく自己紹介が終わったことに安堵していると、後ろの席の人が立ち上がる音がした。さり気なくその人の事を後ろ目で見ようとした。
「白」
それだけが聞こえてきた。クラスから音がなくなる。そして俺は後ろを見るチャンスを失ってしまった。
それは自己紹介だったのだろうか?声からして女性の声だったが、白とは名前なのだろうか。たぶんそうだろうが、あまりにも奇抜な自己紹介だ。果たしてあれを自己紹介と言っていいのかはこの際置いておく。
しかしクラスが若干気まずい雰囲気になってしまったな。どうするんだこの空気。突然前から声が聞こえた。
「ヘイヘーイ!俺の挨拶だってのに空気が死んでんじゃねえか!もっと元気だしてこうぜ、白さんよぉ!」
そこには髪の毛を金髪に染めている目鼻立ちが整った男子がいた。つまりイケメンだ。というかこのクラスイケメン多くない?自分の顔との格差を感じるが、数人はパッとしない顔のやつがいたので安心する。
「おっと、俺の自己紹介がまだだったな。俺の名前は
陽キャというやつはすごいな。しょうもないギャグをするわけでもなく、自然と笑いを誘うのはなかなかできることじゃない。俺には無理な芸当だ。お笑い芸人にでもなったらいいんじゃないか?直接言える度胸はないが、そう思ってしまう。
その後明るくなった雰囲気のまま自己紹介は終了した。先生の自己紹介もあるはずなのだが……。
「入学式前にも行ったはずだが、柳康介だ。改めてよろしく。以上」
もしかしてこの先生適当か?
あまりにも簡易すぎる自己紹介を終えた柳先生はちょっとした連絡事項だけ言い、教室を出ていった。
今日は入学式ということもあり、学校は終わりなのだそうだ。特にやることもないので帰ろうとすると後ろから声がかかった。
「はじめまして、佐藤修」
「うおっ!びっくりするなぁ!」
突然のことにびっくりした俺は、つい反射的に答えてしまった。
そこにいたのは超絶美少女、などではなくボサボサの髪を持ったメガネ男子だった。男子にしてはあまりにも髪が長いため前髪によって目元が見えない。
どうやら俺のラブコメはまだ始まらないらしい。
「なにもそんなにびっくりする必要ないじゃないか。こっちがびっくりするだろう?」
理不尽を感じながら返事を返す。
「……で、なんのようだ?なにもおどろかすために来たわけじゃないんだろ」
「ああ、もちろん。用というのは君の家の方向が聞きたくてね」
「そんなこと聞いてどうするんだよ。なんだ?ストーキングでもするつもりか?」
「ハハッ、君をストーキングして何が得られるのさ。面白い冗談言うね」
いちいち癪に障るやつだ。結局こいつの要件は何なんだ?
このままでは話が進まないと感じた俺は無駄な会話を控えるようにする。
「……結局俺の家を聞いて何がしたいんだ?」
「ああ、そうだった。家の方向が一緒なら共に帰ろう。別にいいだろう?」
「目的は?」
「いや、ひと目見たときから君と喋ってみたいと思ってね。こうして話しかけてみたわけだよ」
本当に意味が分からない。分からないことだらけだが、コイツの名前ぐらいは知っておくべきだろう。
「俺、お前の名前知らないんだけど?」
「ん?ああ、言ってなかったか、それは申し訳ないことをした。私の名前は
そう言って、手を差し出してきた。
別に俺はこいつとよろしくしたいわけじゃないが、無視するわけにもいかないので手を握り返す。
「さぁ、君のことを聞かせてもらおうじゃないか」
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