幸せへ続く道の選択
いつかもう1度会えると信じていた。
1度は離れてしまったこの手だけど、必ずもう1度届かせてみせると。
だけど、今こうして彼女が帰ってきたら迷ってしまっている……
何を迷っているんだ。
すぐそこまで来ているのに、手を伸ばさない理由はなんだ。
——全部わかっている。迷う理由も、手を伸ばせない理由も。
「今、こうしている間にも……」
わかっている。時間がない。
帰ってきたとはいっても、またいなくなるかもしれない。
だとしたら今こうしている時間に会いに行け。
会いに行って、そして……そしてどうする。
いや、どうするも何もない。ただ一緒にいられれば、それだけで良い。
特別な事なんていらない。彼女の隣に私が立っていられれば、それだけで。
「…………」
そうと決まれば、早速連絡すればいいのに……私の体はちっとも言う事を聞きやしない。
ぐずぐずするな、決めたなら早く行動をしろ。
そう思っても、連絡手段として手に取ったスマホは私の手を離れていった。
文字通り、手持ち無沙汰になった私の手は自然と目を覆うように動いた。
何も考えたくない。
私のこの身を焦がすほどの熱のまま行動できれば、どれだけよかっただろうか。
何も考えずに。何も迷わずに。何も遠慮せずに。
そう、遠慮だ。
結局、私は遠慮していたのだ。
何に? 私は一体、何に遠慮している?
考えたくない。思い出したくない。
何を遠慮する必要があるんだ。私は彼女だけいれば良いんだ。
鳥居零那以外なんていらない。
メモリーズという箱も、私が鳥居零那を待つ為だけの箱でしかない。
だから私は他に何もいらない。
「…………本当に?」
本当にそうなのか。
私は、本当に鳥居零那以外の何もいらない?
いらないはずなんだ、私は『特別』以外はいらない。
同期なんていらない。
後輩なんていらない。
事務所もいらない、スタッフもいらない。
VTuberもいらなくなるし、だったらリスナーもいらない。
この国になんて未練もないし。やりたい事はここじゃなくてもできるから。
じゃあ何もいらない、うん。鳥居零那以外は。何も……全部捨てないと。
「全部捨てて……全部捨てて、その先に何があるの?」
全部捨てた先にあるのは、ただ1人の女だけ。
それで私は幸せか? 幸せなんだろうな。だって全部捨てたから。
それしかいらないから、それを手に入れるために全部捨てて……結局、私は幸せじゃありませんなんて言ったら道化でしかない。
全部断ち切った先にあるものは幸せじゃないといけないんだ。
当人たちだけでも幸せじゃないと……そんなバッドエンドはいらない。
「全部捨てるのが私のハッピーエンドなの?」
本当に全部、私の約2年を全部捨てた先にあるものが幸せなんだろうか。
……いや、私の幸せってなんだ?
鳥居零那の隣に立つこと?
確かにそれは幸せだ。私がずっと願ってきたことだから。
でも、それで終わりなの?
ただ1人の為に全部捨てて。並んで歩いて、はい終わり。
私はそれで満足だけど、彼女は?
彼女は隣に立った私をどう思うだろうか。
興味を示してくれるだろうか。それとも……
そもそも、どうして私は彼女の隣に立ちたかったんだっけ。
そう、あれは確か……
「あっ」
見えた。
わかった。
私がどうしたいのか。
私の本当の願い。
ぐだぐだと考えていた頭がスッキリとしていく。
こんな簡単な事をいつまでも悩んでいたなんて……私はどれだけ前が見えなくなっていたのか。
こうするべきだと決めたら、体はすぐに動き出した。
今すぐ彼女の声が聞きたい。1秒でも早く、1分でも長く。
でも悩んでよかった。これが私の幸せへ続く道だと、はっきりわかるから。
だから、今会いに行きます。
待っていてください。
レーナさん。
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