第6話 自由曲 副部長の思い


「これだから素人は・・・」


 今思い返せば、この言葉は自分が悪役ですと言っているようなものだった。いくら副部長とはいえ、かなり上から目線の嫌なヤツであると、新入部員達は思っただろう。

だが、この「割の合わない役」を誰かがやらなければならないし、

それは女の子の部長よりも自分の役目のような気がした。

だから、部室に駆け込んできて


「自由曲にジブリはどうですか? 」


と嬉しそうに言ったトランペット初心者と、他の部員達を前にして、できるだけ堂々としようと心がけた。


「コンクールの自由曲にジブリの曲なんてどこの高校もやらないよ。

慰問演奏や定期演奏会では重要なレパートリーだけれど、それはそれだ。コンクール用の曲というのがあるんだよ、吹奏楽用の。

確かに「やりたい曲があったら皆提案して欲しい」と昨日部長から話があったけれど、無理な話だ。それに、もしかしたらラピュタのトランペットソロを君が吹くのか? 」


「はい、やりたいです」


そのはっきりとした声に、全員がざわついた。確かに自分もこんなに成長の早い人間は見たことがないが、吹奏楽経験は彼よりもあるのだ。


「俺は小学生の時からトロンボーンをやっている。でも俺たちの小学校は吹奏楽部が出来たばっかりで、皆下手だった。コンクールにも出たけれど、そこですごく可哀想なものをみた。それは俺たち自身の事じゃない。別の小学校、元々すごく上手なところだった。

自由曲の最初の方でトランペットソロがあって、その子の音が出なくて、ひっくりこけてばっかりだった。でも出た音から判断しても、決して下手な子じゃない、緊張で失敗しただけだ。

でも結果は俺たちと全く同じ銅賞、俺は小学生ながら「それはひどいだろう」と思ったよ、だって実力は断然そっちの方が上だったんだから。君はコンクールという特別な舞台で全く緊張せず、絶対に失敗しないと言い切れるのか? 」


俺の言葉を聞いてしばらく誰もが無言だった。


 自分たちは三年生、実はこの高校も下手だった。でも一年生の時、俺を含めた経験者が多く入り、初心者から始めた子もすぐに上手になっていった。だから今年は地区大会で金賞を取り、県大会を目指しているのだ。実は去年も金賞だったけれど、俗に言う「空金」というやつで、県大会には行けなかった。

「今年こそ! 」それがこの部の目標なのだ。


だが、あまりにも緊張した静寂が続き、部長が何とか言葉をひねり出そうとしていたときだった。部屋の奥の方から声がした。

聞いたことがない声だなと思ったら、チューバの一年生だった。


「確か・・・

本番にはフルートで音大を目指している先輩が参加して下さるんでしょう? 」


落ち着いたその声に、俺は「あいつも一年生なのに」としか思えなかった。



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