夏草繁る公園

すっかり夏草におおわれていた、


誰もいない公園。


錆びついたブランコとすべり台が


ひっそりとたたずんでいる。


こんなに草におおわれてしまったのではね。


誰も公園の中に足を踏み入れようとする気にはならないよね。


もちろん、草を刈ろうとする人もいないんだろうな。


多分みんなここが公園であることを忘れている。


ぼくは湿った草をかきわけながら、


草むらに埋もれてしまって


存在さえ気づかなかったベンチを見つけて、


そこに腰をおろした。


ベンチのまわりには


ずいぶん前に捨てられたジュースの空き缶が散らばっている。


のどがかわいたなあ。


ぼくはそう思ってリュックの中を手でさぐってみる。


エビアンのペットボトル。


もうそんなに残っていない。


ぼくはすっかりぬるくなってしまった水を一息に飲みこむ。


そして、空になったペットボトルを草むらに放り投げる。


すると、ペットボトルの落ちた少し先の草むらが大きくゆれた。


誰かいるの。


人が立ち上がる。


まさか。


女の子がぼくを見てにっこり笑っている。


花を飾ったふちのせまい麦わらぼうしをかぶって、


その下から長い髪がのびている。


うすいピンクのTシャツ。


女の子が草をかきわけて、


ぼくのほうに近づいてくる。


ガサガサと草のゆれる音がする。


ぼくはベンチにすわったまま近づいてくる女の子を見ている。


「ねえ、これ捨てちゃだめだよ」


女の子が、ぼくの捨てたエビアンのペットボトルを


ぼくの前に差し出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る