山間の道路

アスファルトの道路が


ぼくと女の子の先にずっとのびている。


下り坂がしばらくつづいて、また上り坂になる。


坂の向こうは何にも見えない。


道路の両側には荒地と低い林が見えるだけ。


道路は片側一車線に歩道が両側にあって、


こんなところのわりにはずいぶんと広い。


でも、ぼくたちは車は一台も見ていない。


何度坂を下って、上がっただろう。


坂の上から見える景色はいつも同じ景色。


女の子が歩道にしゃがみこむ。


「つかれた」


ぼくが女の子に話しかける。


女の子はしゃがみこんだまま、


ゆっくりと首をたてに振る。


ぼうしに飾られた花がゆれている。


「のどがかわいたね」


ぼくも女の子のとなりにしゃがみこんで、


女の子の顔をのぞく。


額に汗が光っている。


「もう少し歩けば何かあるよ」


「本当にある」


「多分」


「見えるの」


「見えないけど」


女の子はしゃがみこんだまま。


ぼくも女の子のとなりにしゃがみこんだまま動けない。


考えてもしかたないよ、歩かなきゃ。


そう思いながら、ぼくは女の子の様子をうかがう。


「どこまで歩けばいいのかな」


女の子がひとりごとのようにつぶやく。


それはぼくにもわからない。


ぼくがわかっているのは、


こうしていても状況は変わらないってこと。


こうしていても飲み物は


ぼくたちのところにはやってこない。


そのうちお腹がすいてきて、


歩く気力さえなくなってしまう。


ぼくは自分のリュックの中をのぞいてみた。


コッペパンがひとつ入っている。


「パン食べる」


女の子がうなづく。


でも、水がないと食べにくいかな。


乾いて固くなっているみたいだから。


女の子はぼくが差し出したパンを受け取って、


ビニール袋から出して手で引きちぎった。


「何もついてないんだね」


「ついてないって」


ぼくがききかえす。


「ジャムとか。ピーナツバターとか」


そうなんだ、なにもついていない。


女の子は自分の小さなリュックをさぐって、


ペットボトルを取り出す。


ジャスミンティーの小さなボトル。


そしてちぎったパンを口に入れ、


ジャスミンティーをひとくち飲む。


「でもおいしいよ」


そう言って笑っている。


なんだ持ってたんじゃないの。


女の子はパンをちぎってつぎつぎと口の中に入れる。


そしてジャスミンティーを飲む。


ぼくは少しあきれて女の子を見ている。


女の子はパンを食べ終えると、


立ち上がって自分のリュックを背負う。


そして、手でお尻をはらっている。


「歩こう」


女の子の明るい声があたりにひびく。


ぼくも立ち上がって女の子のあとについて歩きはじめる。

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