第28話 魔法陣型兵器

 タワマンクラスの重力を風魔法で吸収しきることができず、硬い地面に激しく体を打ち付けたカナセだったが、「イテテテテ」と痛がる程度で済んだのは、魔クセサリーが無いことで使い切ることができず体内で燻り続ける、膨大な魔力のおかげに違いない。


『……希崎君、大丈夫⁉ 凄い悲鳴が聞こえたけど⁉』


 ユフミの声を聞き、カナセは心底ホッとした。


「ああ、大丈夫! めっちゃ痛ぇけど生きてるぜ!」

『良かった! こっちも色々大変だったけど、凄いものを見つけちゃったよ……!』

『そうそう! これはヤバい……ヤバいよ……!』


 フツシも加わり、揃って鼻息を荒げている。

 ただ、見つけたと言えば、カナセも負けてはいなかった。


「へへっ、無茶したかいがあったってもんだ」


 カナセは目の前の光景を噛みしめるように、大きく頷いた。

 それは……巨大な円形状の機械。

 表面には魔法陣が描かれており、あまりにも大きすぎてその全貌は掴みきれない。

 どういう仕組みで、どのように作動するのか、カナセには皆目見当が付かなかった。

 ただ、紛れもなく分かっていることは……。


「ミッション達成だ! 見つけたぜ、地下ダンジョンに眠る破壊兵器!」


 カナセは勝ちどきを上げながら、ポケットから発信器を取り出し、ためらうことなくボタンを押した。

 ピーピーピーと、けたたましい音が鳴り響く。

 カナセは、それを地面に置きながら頭上を見上げる。

 ファルマの光が、どんどん遠ざかっていく。

 彼は非常に賢く、何かを察したのだろう。

 もしかすると、既にラミカの言う”しかるべき組織”が、イドマホに乗り込んできてるのかも知れない……という、カナセの予想は当たっていた。


『えっ、なにあれ、めっちゃ沢山人が来てるんだけど⁉』


 窓際で外を見ているのか、ユフミの驚いた声が魔法陣チップ越しに聞こえてきた。


『武装してる……! あれがもしかして……カナセ君、とうとう見つけたんだね!』


 すべてを察したフツシが語りかけてきた。


「おう、楽勝だぜ……イテテテテ!」

『ははっ、無理しないで! カナセ君は仕事をやりきったんだから、そこで待ってればいいと思うよ』

『うん! って、矢島君、コレのこと、教えてあげようよ!』


 カナセは、何を言ってるのかさっぱりわからないといった顔で、二人の会話に耳を傾ける。


『そうだね! ちなみにここは……学長室のさらに奥の部屋なんだけど』

「そんなとこまで逃げてたのか?」

『そうそう、怖くて必死で!』

『うんうん。矢島君ってば、逃げてる時にちょっと泣いちゃってたり……』

『ちょ、ちょっとユフミちゃん! それは言わない約束だって』

「良いじゃねーか。とにかく上手くいったんだから……って、そういや、何か凄いものを見つけたとか言ってたよな?」


 念のため、頭上を確認するカナセ。

 ファルマが戻ってくる気配は無い。

 今ごろ上でどうなってるのか気になるが、体中が痛くて少し動かすことすらキツい状態。

 ハシゴを登って引き返すなど、想像しただけで気が遠くなる。

 発信ボタンを押した直後、武装した集団が校舎に乗り込んできてるのであれば、それがきっとラミカの言っていた”しかるべき組織”なのだろう。

 ぼやかしているが、テロリストを取り締まるとすれば、きっと警察とか──。


『そうそう! フツシ君、言ったげて!』

『うん。この部屋に大量に置いてあったんだ……魔クセサリーが!』

「……えっ? マジかよ⁉」


 想像だにしなかった答えが返ってきて、カナセは本気で驚いた。


「なんでそんな所に置いてあんだ?」

『うーん、分からないけど、学長さんが企んでることに関係してるのかも? って、これ、こっそり取っちゃおうかな……。カナセ君のために……』

「おいおい、それは……良いじゃねーか! どうせ悪巧みに使おうとしてたんだから、奪い取っておくのも正義ってもんだ!」

『もう、希崎君ったら……って、魔クセサリーが手に入ったら、”魔法で何でも屋”をやる意味が無くなっちゃうのかな。それはそれでちょっと残念だったりして……』

「んなことねーよ。これでイドマホが無くなっちまったら、オレたちそろって暇人になるのに変わりはねーからな。むしろ、オレが全力出せるようになれば、どんな依頼もサクサクこなしまくって、三人そろって大もうけ……へっへっへ」

『おお! それは凄い! 私も沢山お手伝いするから、お金が入ったら美味しいケーキ食べまくりたいな……!』

「ああ、食え食え。好きなだけ食えばいい!」

『僕も、精一杯サポートするから、稼いだお金で最新型の〈魔電子タブレット〉を……』

「ああ、買え買え。好きなだけ買えばいいじゃねーか!」


 思いきりツッコミを入れるカナセ。

 心から笑っていた。

 イドマホが無くなって悪い面も想像していたが、なんてことはない、青春なんていくらでも出来る。

 大切なのは場所じゃない。


『ねえねえ、希崎君はなにが欲しいの?』

「オレ? そうだなぁ……美味しい飯が食えりゃ、それで十分だ。いや、住むところも探さねーとな。いつまでもユフミんちに世話になるわけにもいかねえし」

『えっ? べ、べつに大丈夫だよ……! なんなら、いつまでも……って、うわ! えっ、ちょ、ちょっと、なにするんですか⁉』

「おい、どうしたユフミ⁉」

『ま、待ってください! 僕たちは、依頼を受けた希崎カナセ君の仲間で……』

「なんだよ、フツシ! どーなってんだ⁉」


 魔法陣チップを通して、本気で嫌がっている声が聞こえてくる。

 さらに、バタバタと激しい物音。

 どう考えても、冗談でやってるわけでは無さそう。


「おい! 誰だか知らねーけど、そのふたりに手を出すんじゃねーぞ! 何か話があるなら、オレが相手してやる‼」


 そう言って、カナセは立ち上がり、振り向いてハシゴに手をかけた。

 体の痛みは残ったままだが、気合いで登り始めた……その時。


 ガタッ──。


 遙か上空、重い金属音。

 そして……。


 ゴオォォォォォ……!


 狭い縦長の通路を通って、光の玉が猛烈な勢いで落ちてくる。


「なん……だ……」


 光の玉はあっという間にカナセの元へと到達し、そして気を失った。

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