第10話 謎のセクシー美女ラミカ
「希崎君が勝ったんだ! わーいわーい!」
大はしゃぎのユフミは、一目散にカナセの元へと駆け寄った。
「あれ、もう終わり? ちぇっ、つまんねーの。って、とりあえず勝ったからいっか!」
そう言って、カナセはユフミとハイタッチ。
「おめでとうカナセ君! ゼコマ優勝は伊達じゃないね!」
「まあな! って、あの変なディスク使われた時は正直焦ったけど」
カナセは無邪気に笑いながら、遅れてやってきたフツシともハイタッチを交わす。
その隙を見て、仲間たちが地面に倒れた国立男に駆け寄ると、その体を持ち上げてそそくさとその場から立ち去っていった。
そんなことには目もくれず、カナセの興味の矛先は……。
「なあ、これ、ありがとな! 誰だか知らねーけど!」
カナセは、勝利を呼び込んだブレスレットを身につけた左手を大きく振った。
バリアが消えても、微動だにせず、ジッと立ち尽くす謎の女性。
黒い皮のジャケットに、下もこれまた黒の革パン。
サイズ感がジャストフィット過ぎて、グラマラスな体のラインがくっきり浮かび上がっている。
前髪を揃えたショートボブは、普通であれば幼く見せそうなはずなのに、ダークなメイクが映えるエキゾチックな顔立ちのせいか、やたらミステリアスな雰囲気を醸し出している。
それを一言で表すとしたら……。
「うわぁ、セクシーなお姉さんだ……」
ユフミが、溜息交じりに言葉をこぼした。
「や、やっぱり都会はすごいや……」
フツシは、高価な魔法陣ディスクを見たときよりも動揺している。
そして、カナセはと言えば……。
「よお、エロい格好のお姉さん、マジで助かったぜ!」
爽やかな笑顔で、ど直球のゲスい言葉を吐き出しながら、謎のセクシー美女の元へと駆け寄っていく……が、その時。
パリンッ!
左手にはめていたブレスレットが突然、粉々に砕け散ってしまった。
「うわっ、なにこれどうなってんの? って、すまん! 壊しちまったみたい!」
両手をパチンと合わせて、目の前のセクシー美女に頭を下げるカナセ。
ずっと無表情だった美女の口元が、少しだけ緩んだ。
「フフッ、面白い子ね。大丈夫、気にする必要ないから」
「えっ?」
「だってその魔クセサリー、使い捨てタイプだもの」
「へー、そっか。そんなのあるんだ! まっ、とにかくサンキューな。久しぶりに全力で魔法を使うことができてスカッとしたぜ!」
カナセは美女に向かって、ノリノリでシュッシュとシャドーボクシングしたりなんかしている……が。
「気に入ったみたいで良かったわ。それじゃ、代金を支払って貰える?」
「おう、了解……って、え? 金取んの⁉」
「もちろん。ボランティアでやってるとでも思ったのかしら?」
謎の美女は、氷魔法のような冷たい視線をカナセに向ける。
背後では、ユフミとフツシが「えっ?」「いくらいくら?」などと小声でざわめいているが、謎の美女の放つ怪しげなオーラのバリアにより、会話に入ってくるのをためらっているようだった。
「……まあな。正直、突然優しい人が現れて助けてくれたんだ、なんて思っちゃってたけど、そんなの都合良すぎだもんな。面白いか面白くないかで言ったら、面白い展開だし。ってことで、料金はおいくら?」
「フフッ、物わかりが良くて助かるわ。その男気に免じて、端数は切り捨ててあげる。それで代金1000万円」
「ああ、まけてくれて助かるぜ! この見た目で分かると思うけど、いま死ぬほど金欠なんだわ。どうせバイトするつもりだったし、1000円ぐらいなら日払いの仕事して明日にでも……って、1000”マン”円⁉」
「ええ、そうよ」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。使い捨てタイプでしょ? 1回ポッキリで1000万円なのか⁉」
国立男とのバトルでも見せなかったほど、激しく動揺するカナセ。
心なしか、顔が少しやつれて老けたようにすら見える。
「さすがにウソだよな? それとも……詐欺か! 新手の詐欺なのか!」
「失礼ね。私はこういう者」
と、謎の美女は胸元から取り出した名刺を、カナセが放った闇魔法の円盤よろしく、グルグルと回転させるようにして投げつけた。
カナセが受け取ったその名刺はほんのり生暖かく……いや、こう書かれていた。
『シュレン探偵事務所
「探偵? あんた探偵なのか?」
「ええ、そうよ。そこに書いてある〈届け出番号〉をネットで調べれば本物かどうかわか──」
「すげー! オレ、生の探偵に会うの生まれて初めてだぜ! おもしれー、面白過ぎる! なあ、握手しても良いか?」
カナセは目を輝かせながら、既に握手のポーズを取った状態で謎のセクシー美女ラミカに迫る。
「え、ええ、別に構わないけど……」
ほとんど無表情だったラミカの顔に、初めて動揺の色が浮かんだ。
それほど、カナセの反応は意外なものだったようだ。
しかも、握手の列にはちょっとした行列ができていた。
「あの……浅川ユフミと言います。私も握手してもらっていいですか? 探偵さんに会える機会なんてほとんどないので……!」
「ついでに僕も……良いでしょうか? 自分の住んでる偶魔県には、こんなもの凄いセクシー美女……じゃ、じゃなくて、探偵さんなんてほとんどいないんで!」
それは、偶魔県の女性軍に失礼すぎるだろ!
それに探偵はたぶんそこそこいるだろ!
……というツッコミはさておき、まさかの握手要請三連発に、ラミカは戸惑いながらも、遊説中の政治家のように、サクッと仕事をこなした。
「いやぁ、貴重な体験だったわ。そんじゃな、探偵さん!」
「うん! お仕事頑張って下さい!」
「スタイル維持……じゃ、じゃなくて、探偵業は大変だと思いますが、影ながら応援しています!」
清々しい笑顔を浮かべて、その場を後にする3人。
「ええ。それじゃ……って、待ちなさい! お金! 1000万円!」
探偵の……それも、冷酷そうなセクシー美女の貴重なノリツッコミ。
「……あっ、バレた? って、ウソウソ。詐欺じゃないならちゃんと払うよ。でも、せめて分割払にしてくれると助かる!」
カナセは、ラミカに向かって両手を合わせると、切ない表情を浮かべながら何度もペコペコと頭を下げた。
「……フフッ、本当に面白い子。さすがゼコマで優勝するだけのことはある、ってわけね」
「……えっ? 知ってるのか?」
「もちろん。あなたが希崎カナセだと分かって、魔クセサリーを貸してあげたんだから」
「マジで? なんで?」
「実は、あなたに手伝って欲しい案件があるの。探偵の仕事」
「……マジかよ? って、面白展開なのはありがたいんだけど、探偵の仕事なら探偵のあんたのが上手くやれるんじゃないか?」
カナセにしては、至極真っ当な質問。
だが、想定済みとばかりに、ラミカは淀みなく答えを返した。
「それがね、どうしてもあなたに手伝って貰う必要があるの。とても難易度の高い案件で、危険が伴う可能性も高い。その代わり、報酬も見合った額を支払うわ。1000万。ジャスト1000万円でどうかしら?」
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