第5話 ハートのホノッポ

「マシキネコ……ってなんじゃそりゃ?」


 基本、何も知らない”魔法バカ”のカナセが、ヒィヒィと悲鳴を上げ続けるフツシに問いかける。


「そ、それは……ヒィッ……えっと……」

「それなら私、聞いたことあるよ! 人間が使う魔法の影響を受けて、魔力が備わっちゃった猫……だよね?

「そ、その通り。他にも魔敷犬や魔敷魚、魔敷鳥に魔敷虫なんかもいて、その総称を魔敷獣ましきじゅうって言うんだけど……ヒェ……」

「へえ、そんなの初めて知ったぜ。魔法が使える猫か……面白いじゃねーか! って、おいおい、もしかして……⁉」

「あっ……!」


 最初に白猫を見た時の様子を思い出し、カナセとユフミが同時に顔を見合わせた。


「にゃあーん」


 白猫は、あたかも「バレてしまっては仕方が無い」と言った表情を浮かべると、3人が合わせた手の上からピョンッと地面に飛び降りた。

 次の瞬間──ボッ。

 なんと、白い尻尾の先に魔法の火が着いた。


「えーっ⁉ にゃんこちゃんってば、それ自分で着けてたの⁇」

「マジかよ⁉ おもしれぇぇぇぇ!!」

「ねっ! 凄い凄い!!」


 大はしゃぎのカナセとユフミ。

 それに比べて、フツシはと言えば……。


「ちょっ、ちょっと待ってよもう。魔敷獣って言わばモンスターなんだよ? 一般市民が発見したら、まずは身の安全を確保しつつその場を離れて、役所の〈魔敷獣対策課〉に連絡を──」

「にゃーん」


 フツシの言葉とは裏腹に、白猫は火が着いた尻尾をピンと立てたまま、愛らしい鳴き声を上げた。


「わりぃけどフツシ、それは違うんじゃねーか? 初めて見かけてからずっと一緒にいるけど、大人しいもんだったぜ、こいつ。なぁ?」


 カナセが優しく声をかけると、小さなお友達は「にゃーん」と嬉しそうに返してきた。


「うん、私も同感! 可愛いし、大人しいし、なのに魔法が使えるとかめちゃくちゃ羨ましいんだけど!」

「そ、そうだよね……。確かに、やろうと思えばいくらでも攻撃できたはずなのに、全くそんな気配はなかったよね。モンスター呼ばわりして本当にごめんなさい!」


 白猫は、別にいいよ~、といった感じで「にゃにゃにゃ~」と鳴きながら、フツシの膝の上にぴょこんと飛び乗った。


「ううう、ありがとう白猫ちゃん……って、これが正式名称なの?」

「違う違う! 見た目でそう呼んでただけ。ねっ、希崎君」

「だな。って、友達ならちゃんと名前で呼びてーよな。んじゃ……よし。〈ホノッポ〉ってのはどうだ?」

「おお、なんか可愛い! それにしよっ! って、どういう意味?」


 きょとんとするユフミ。

 すかさず答えたのはカナセ……ではなく、フツシだった。


「炎の尻尾、でホノッポ……かな?」

「おう、それそれ! わかってんじゃねーか」


 カナセは隣に座るフツシの肩に腕を回し、優れた理解力を褒め称えた。

 残るは、本人の気持ちだけだが……。


「にゃーん、にゃん!」


 白猫もといホノッポは、フツシの膝から再び地面の飛び降りるや否や、尻尾を器用に動かし、魔法の炎でハートを描いた。


「うわぁぁぁ! すごぉぉぉい!」

「ああ、やべーな。最高だぜホノッポ!」

「うん! 通報する、とか言ってた数分前の僕をたたきのめしてやりがいぐらいだよ」

「おう、そんじゃ、オレが魔法で叩きのめしてやろうか?」

「カ、カナセ君、それはちょっと……」


 本気で焦るフツシを見て、カナセたちは、


「冗談冗談、ガッハッハ」

「ふふっ」

「にゃにゃっ」


 と、楽しそうに笑った。

 まさか、とんでもない脅威が迫ってきているなんてことも知らずに……。

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