第5話
一週間がたった。
セリスの家にメルルが行くと馬車が止まっていた。
「セリスちゃん」
「メルルちゃん」
馬車の中にはベティを抱いたセリスが居た。
メルルもいつもよりよそ行きの服を着ている。
「それじゃあ、アストリア王国に行きましょう」
「うん」
セリスがそう言うと、馬車はアストリア王国へ向けて走り出した。
「ねぇ、メルルちゃん、アストリア王国は初めて?」
「うん」
セリスにそう返事をするとメルルは目を輝かせた。
「ケリーさんてどんな人?」
「30代くらいの男の人で、人形に目が無い感じかな」
馬車から見える風景が草原から街に近づいてくる。
「そろそろ、アストリア王国だよ」
「うわあ、おっきな門」
馬車が門をくぐると、大きな街が広がっていた。
「こっちだよ、メルルちゃん」
「まって、セリスちゃん」
セリスは馬車を降りると、すいすいと街中を歩いて行く。
あわててメルルも後を追う。
しばらくすると街の端についた。
「ここだよ、ケリーさんの工房」
「けっこう小さいね」
「こんにちは」
セリスが工房のドアを開けた。
「なんだい、お嬢ちゃん?」
「いつもベティがおせわになっています」
「ああ、セリスちゃんか」
「あの、私メルルと言います。初めまして」
「ああ、どうも」
ケリーはそう言うと、手にしていた人形に目を落とした。
「ベティちゃんは元気?」
「ええ、元気よ」
ケリーはベティを受け取ると、首の後ろや手の付け根など痛みやすい所を確認した。
「元気そうだな」
「ええ、そうよ」
ベティが答えた。ケリーは驚いてセリスを見た。
「あのね、お人形に魂が宿ったの」
「そんな高等魔術、誰に頼んだんだい?」
「ここにいるメルル。人形修理士になりたいんだって」
「メルルと言います。人形修理士になりたくて、こちらの工房で修行させてもらいたいと思って来ました」
「修行って、今までは独学でやってたの?」
「はい」
セリスが笑った。
「驚いた?」
「ああ、驚いたよ」
ケリーが答える。ベティを隈無く観察してうなり声を上げた。
「魔石を埋め込んだ後もないし、メルルちゃんは生粋の人形遣いだね。この国に知られたら放っておかれないよ」
ケリーは困ったように言った。
「メルルが魂を込めたお人形は意思を持っちゃうから、戦争には向かないわ」
セリスが言った。
「ああ、そうだな、ベティも戦争は嫌だろう?」
ベティが頷く。
メルルは言った。
「あの、弟子入りは難しいでしょうか?」
「どうしようかな。この工房で受ける依頼は、人形の修復ばかりだから希望とは合ってると思うけど。僕もメルルちゃんの能力に興味あるし」
「それじゃ、弟子入り出来るんですか?」
「親御さんの許可があればいいよ」
「やった!」
メルルは嬉しそうに飛び上がった。
こうしてメルルはケリーの工房に弟子入りしたのだった。
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