第154話 果たしなさい!

 そうだ。俺は彼女のことが。蕾のことが好きなんだ。


「……ふんっ。言えるじゃないのよ。まだまだ迷惑かかる青臭いやつかと思ってたけども」

「……ごめん。お前には言われたくない」


 この際だからはっきり言うぞ。迷惑かかってるの、あんたじゃなくて大方俺の方だからな。


「それで。あんたはあいつのどんなとこを好きになったわけ?」

「まぁ出会ったのが小学校の時ってのもあったから……」


 出会った時のことから、今日に至るまでを思い出しながら。篤人と槻さんには、もう既に似たようなことは話しているものの、いざ幼馴染に話すとなると、なんかあれ以上に緊張する。


「なんか見守ってやりたくなるとことか」

「そっか。ロリコンか」

「ちっげぇわ! 前にも誰かにそれ言って同じ返しされたわ!」

「じゃあそういうことじゃん。それともシスコンの方が良かったかしら?」

「どっちかといえば葉月がブラコンって言った方がいいんじゃないでしょうか」


 仮に俺が重度のシスコンだったとしても。葉月のブラコンには勝てないという自信があります。

 でもって。俺はロリコンでは無いです。断じてな。


「掘り返すとキリなさそうね。他になんかあんの?」

「ひたむきなところとか。あとは……まぁシンプルだけど可愛らしいとことか」

「あぁやっぱり――――、「もういい」」


 その下り。もうお腹いっぱいです。


「てか私が言うのもあれかもしれないけど。大丈夫なの?」

「何が」

「だってあいつ。あんな顔して超が付くほどのドSなのよ」

「わかってるよ」

「あんたの身が持たないんじゃないの」


「そういうのはもう慣れっこだよ。なんか俺の周りって変なのばっかり集まってる気がするからな」

「……なんで私のことをどっかのスナギツネみたいなしけた目で見てるのよ」


 だってあなただって大概なんですから。

 高校の部活が特に際立っているんだけども、これまでだって。友人関係とまでは行かなくとも、小中学校の同じ学年の奴である意味有名なやつは何人かいた。

 変な髪型なり性格してる奴を筆頭としまして。授業中にも関わらず隣のクラスの友人に会いに行く奴とか。


「私だって同類とでも言いたい?」

「俺がお前にされた施し。忘れちゃいねぇからな」

「何したっけなー」

「……忘れたとは言わせねぇぞ」


 あからさまーに目を逸らして覇気のない声をしてる莉亜。謝ってくれとまでは言わねぇけども。今更遅せぇ。

 この方およそ十六年。挙げていこうとすればキリが無くなりそうなくらい。幼馴染という関係の分、異性云々とかいう遠慮というものがないからこういうことになるんだよ。


「まーもういいじゃないの。あんただったら過ぎたことなんか気にしないって言うじゃないの」

「言うけどさ。たまーに言うよ。それをお前に指摘されてもなー」

「もーいいじゃないの。気にしたって仕方なーいってやつだし」

「……」


 莉亜ってこんな性格だったっけ。なんか月見里みたいなそれが伝染ってねぇか。にしてもなんか声震えてね?


「それで。もうあんたがそう思ってるって言うなら、なんでそれをあいつに言わないわけよ」

「……あのなぁ。こっちにだって心の準備ってもん

 が必要なんだよ。用意もなしに言えるかっての」

「今更だけども、一旦開き直ると結構色々言うようになったわね」

「……なんでだろう」


 迫られたからとはいえ、もうなんか普通に自分の内心を莉亜に話していた。


「あいつ。多分縮こまっちゃってぜったいあんたに何も言えないわよ。」

「……」

「なんか言いなさいよ」

「……どっかでブレーキがかかっちまうんだよ」


 そこからはもう。考えるということは無かった。

 もちろん何も考えていなかった訳では無い。気がつけばと言うか、勝手にと言うか。


「最近悩んで悩んで仕方ねぇんだよ。蕾のことってなると、いつも同時にお前のことが頭に浮かぶようになったんだ」

「私の、こと?」


 莉亜に言われ、俺は黙って頷いた。そして話を続けた。


「もちろん両方なんて悪行をできるわけがないってのはわかってるよ。だからなんて言うか……その……。決めきれなかったんだ」

「ほーう」

「莉亜とは長い付き合いだったんだ。なんか、言い方が悪くなるのかもしれないけど、裏切ることになるんじゃないかって」


 そういった後十数秒。辺りは静かになり何も聞こえなくなった。次に出てくる言葉が出てこない。俺は何を言えばいいんだろうか。

 こんなこと言って莉亜が納得するのかって。そんなわけがないだろう。説得するべきなのか。



「……何を言うのかと思えば。アホらしい」

「あっ、アホらしいって?!」


 こっちはふざけてるわけでもなく。真面目な話をしているんだ。そう言おうとしたところで莉亜が言葉を続けた。


「だいぶ前のこと。ここに入る前だったかしら。食事混じりに言ってたじゃないの。幼馴染だからって一生一緒ってわけじゃないって」

「言った気も……するけども」


 正直なところ。その辺のとこをあんまり覚えていない。


「あん時はあんなこと言っといて、いざってなればこんな体たらくって。やっぱり煌晴は煌晴なのねって」

「いや、どういうこと」

「どこかでへっぴり腰になるのよあんたって。自信満々だったり威勢のいい時だったりすりゃいいけども」

「……ごもっともっす」

「だから……さ。あんたがあぁ思ってるって言うんなら、自分の欲にくらい忠実になりなさいよ!」

「お、おう……」

「でもって告ってさっさと落として来なさいよ! これは命令だから!」

「……」


 い、勢いがすごいよ……。こんな莉亜は初めて見た。

 なんにしても。莉亜は応援してくれるらしい。彼女にだって本当はもっと言いたいことがあるんだろうと思う。それでも俺の望みに応えてくれようとしてくれてるんだ。


「ありがとう。ただ……さ」

「……なによ」

「頼むから……泣くのはやめてくれねぇか」

「……うっさい」


 段々と声が震えてきてたけど、我慢が出来なかったのか、遂に泣き出してしまった。

 身体が近かったもんで、彼女は俺の胸板辺りをポカポカ叩き始めた。そして自分の顔を俺の胸に預けていた。そんな彼女を俺はそっと寄せてやった。


「……失敗したら許さない」

「プレッシャーかけないでくれよ」


 彼女には、礼の言葉だけではとても足りない。彼女の宣言。何としても果たさなきゃならない。

明日は……勝負の日になりそうだ。

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