第143話 語りたくなる気持ち
気がついた時には、暗くなっていたシアターはすっかり明るくなっていた。
「……煌晴君?」
あれ……終わった? もう二時間経ってたのか。寝ていたわけではないし、スクリーンに映っていたものはちゃんと覚えている。よっぽどこの映画が面白かったから時間経つのが早かったのか。
「あの……煌晴、君?」
「……あ。すまん」
いざそっちにスイッチが入っていたからなのか。始まるまで頭の中でグルグルしていた不安とか緊張とか焦りとかその他もう良くわからん何かとか、いつの間にかそんなものはなくなっていたも言うのか。
「すっかり映画に見入っていたからさ。すごく面白かった。アクションとかストーリーとか」
いざ映画が始まってしまえばそっちに意識は吸い込まれていた。最初の数分も見てしまえば、これからどんな展開になっていくのか、登場キャラの心情描写とか。
度々入るバトルシーンは瞬き禁止、目を離すことさえできないくらいに引き込まれる。信じられないくらいに動いてるし、速さと音と臨場感。どれもが迫力段違い。
これからどうなるんだ。何が起こるんだ。ワクワクしまくってて時間の経過とかさっきまで変に緊張していてバクバクしていたのとか。すっかり無くなっていた。今は上映前とは違って、普段通りに話せているような感じがする。
「うん。映画館で見るから、迫力も凄かった」
「確かに。音とか映像の迫力とか、レンタルで借りて家で見るのとは全然違うし」
「気になってた映画だから、映画館で見られてよかった」
「あぁ。こういう映画は映画館で見ると、迫力が全然違うからな」
スクリーンの大きさもそうだし、音響の設備も自宅のものとはまるで違う。映画を見るための施設であるからこそ、映画を楽しむにはもってこいな環境になっているのだから。
「私は、中盤のガンアクションが好きだったかな。速さと臨場感、一糸乱れぬ攻防戦がすごくて。あんな迫力あるシーンを描けるようになったらって思うんだけど、難しいから……」
「あれだけのもんを描けるのは、相当なもんだと思うんだけど」
あの映像バリの高速ガンアクションを漫画という媒体で描こうと思ったら、技術もそうだし表現力とか、知識とか構成とか。必要なものが多すぎると思う。
「他にもね。もちろんクライマックスの戦闘シーンもそうなんだけど、冒頭のね……」
「あぁわかったわかった。蕾がなんか色々話したいって気持ちはよーく伝わってきた。でもここだとあれだし。もうちょいしたら次の映画始まるし。色々と迷惑かかるから。場所変えよう」
「あ。そっか……わかった」
普段静かな蕾といえど、映画の感想を語りたいって気持ちが強すぎるのか、すごいグイグイ来る。こういう彼女の姿は何度か見ているものの、普段のそれとは違いすぎているから中々になれないものではある。
無論もう一個の側面に関しても同じことが言えるが。
「時間も時間だし、下でお昼でも食べようか。話すならそこで話そうか」
「わかった」
「んじゃあさっさと行こうか。結構お腹も空いたし」
上映中こそポップコーンとコーラをつまんでいたものの、それでも昼時なんでお腹が空くのだ。
「お腹……すくんだ」
「昼時だからかな。まぁ何を食べるかは下行って考えようか」
「うん。煌晴君、どうか……した?」
「……いや、なんでもない」
なんか聞き知った声が一瞬だけ聞こえたような気もするが、多分気のせいか。そもそも候補があるとすれば、皆が皆目立つような面々ばかりだ。もしばったり出会うなんてことがあったとしても、すぐに気がつくだろう。
荷物をまとめたのを確認してから、席を立ってシアターを後にした。
彼のいた場所から左斜め後ろ。最後列。
「何してんすかわかちーバレちゃったら台無しじゃないすか!」
「だってねぇ! 映画が面白かったのはもちろんだけども! あの二人なんなのよもう! 見てるこっちがなんて言うかもうなんというか……」
「落ち着くっすよわかちー。危うくバレるとこでしたし迷惑ですし」
後ろは後ろでテンションが別の方向で上がっていた。危うくお二人にバレそうになるところではありましたが。
「映画すっごい面白かったよねりあ姉!」
「そうねー。あいつだったらすっごく気に入るだろうねーこういうジャンル」
「二人はもうこうちんのこと忘れちゃってんじゃないすか」
「えーっと……あ、そっかお兄ちゃんのことか」
「あそっか煌晴の」
一年の二人は、今日の目的を完全に忘れていた。
月見里に言われ、ようやく目的を思い出す。
「それで先輩的にはどうなんですか、煌晴とあいつ」
「そーっすねー。上映中は暗かったんであんましわかんなかったけんども、その前と後についてはなんかいい雰囲気でしたよ。後ろから見ただけなんではっきりと断言はできないですけども」
「それで。具体的には!」
「どうなんですお兄ちゃんは!」
「落ち着くっすよ二人とも。歩きながらでもじっくり話しますから。てか早いとこ行かないと見失っちゃいますから」
そんなこんなで、彼女らの尾行はまだまだ続く。
尾行されてる側はといえば。
「それでそれで。序盤の方の銃撃戦なんだけど……」
「すっごい動いてたなあれは。あんなに動くもんなのか」
「今回はCG中心だから、結構自由性が高いの」
「そうなんだ」
「私としてはね……」
映画の感想についてを語りながら遅めの昼食をとる二人がいた。最初のような緊張感はすっかりなくなっており、いつもの二人に戻っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます