第134話 茅蓮寺祭後のその先は
茅蓮寺祭は大盛況の後、無事に終了。
後日の後片付け。その後のクラスでの打ち上げも終えて、休校日を挟んだその次の日のこと。
漫画研究部では、妙蓮寺祭での後処理に勤しんでいるところだ。
「この書類、目を通したらサイン頂戴ね若菜」
「ほいほーい」
「槻さん。演劇部のやつ、まとめときました」
「ありがとう宮岸さん」
後処理というか、整理といえば聞こえは良いだろうが。
「お。見てくださいよわかちーこの写真」
「どれどれ。おーあれかー」
「私の友達が撮ってくれたやつなんすけど、よく撮れてるんすよねー」
「どれですかー月見里せんぱーい。葉月にも見せてくださーい」
実際は思い出話という名の、単なる雑談がほとんどである。もちろんやるべき業務は進めてもらってますけども。
「……若菜。そういうのは終わってからにしなさいな」
「書類にサインはしてるわよ。ほいこれ」
「はいはい。これも全て、お願いね」
「え、これ全部……?」
「そうよ。でも安心なさい。これで終わりだから」
「しおりん。結構な量っすよこれ」
書類の山は、教科書くらいの厚さがある。捌くのも容易ではないだろう。
「……終わった」
「おつかれーわかちー」
相当気合いが入っていたのか。さっさと終わらせたかったのか。槻さんから渡された追加の書類を十五分ほどで捌ききってしまったそうな。
「もうしばらくは自分の名前書きたくない」
「へいへいおつかれ。お菓子どーぞ、わかちー」
「おーさんきゅー湊ちゃん」
月見里さんの持ってきたプレッチェルを一本ヒョイっと貰うと、テーブルに項垂れたまましゃくしゃくと齧り始める戸水さん。
「あーやっと終わったー。あとはこれ生徒会に出してくるだけー」
「おつかれーわかちー」
「それでー。さっき言ってたのってどれなのよー湊ちゃーん」
「あーはいはい。この写真なんすけどねー」
月見里さんが操作してるスマホを、戸水さんに見せる。その後まだ見てなかった俺らにもその写真を見せてくる。
二年のステージ演目の写真で、月見里さんや槻さん達がはっきりと写っている。
「よく撮れてますねこれ」
「うちの友達に、父親が写真家って人がいるんすよ。それにこういうの撮るのにもいいアプリがあるんすよねー」
「葉月知ってますよー。このスミューってアプリですよね」
「おーそれそれ」
葉月がそのスミューとかいうアプリを起動する。俺はネットの広告とかで名前を聞いただけだから、写真を取れるアプリってこと以外に詳しいことはあんまり知らない。
「葉月もよく使うんすか」
「お兄ちゃんの写真を撮るのに」
「おいこら葉月」
サラッととんでもねぇこと言いやがったな。何を撮った、いつ撮った。
聞こうとしても葉月は教えてくれない。
「写真といえば、演劇の方もあるんすよ。私は行けなかったんでみなかっちからいくつか写真を貰いまして」
「どれですかー」
葉月に写真を見せる月見里さん。本番当日の、舞台裏での写真が何枚か。
フリックしていって何枚か見せていくうち、あることを思い出したようで。
「あーそうだ。そういや演劇部のあれなんすけどー」
「何かあったの湊?」
「演劇でメインキャラ演じてた二人いたじゃないすか。えーと……なんでしたっけ?」
「ファルシウスとカルラね」
「あーそうそうそれっすね。それで、その二人演じてた黒崎っちとみおりんなんすけど……」
月見里さんの言う二人とは、演劇部所属の二年のこと。ファルシウスの方が黒崎悠人さんで、カルラの方が江口未央さんだ。
プレッチェルを一本手にとると、それを齧りながら彼女は言う。
「正式に、お付き合い始めたほうへふよ」
「へーそうなの……」
「「「いやえぇぇぇぇ?!」」」
ちょっと間が空いてから、部室内に驚きの声が響く。
「いきなりすぎる展開!」
「おめでたいことだけど……」
「やはりこのヒナギク様の祝福が届いたということか……」
それはどうかは知りませんけども。カップルが成立したのは喜ばしいことだが、まさかそうなるなんて、俺らの誰も思わなかったからなぁ。
「それでそれで! なんかきっかけとかあったの湊ちゃん?!」
「どうなのよ湊!」
「落ち着いてくださいわかちー。ひなちーも」
月見里さんから、あの二人がお付き合いすることになった経緯が話される。
あの二人は演劇部でも特に注目されてて、今回の妙蓮寺祭での演劇でも満場一致でメインキャストに抜擢されたそうだ。
と言うよりも、じつはこの以前から部内外でもそういう噂が密かにたっていたとかいなかったとか。この二人がメインキャストに推し挙げられたのもそういう理由があるんじゃないかと言うが、その真相を知るのは演劇部のごく一部だろうと月見里さんはいう。
という話はさておいて。実際には夏休み前から密かにそういう関係にはあったらしく、今回の妙蓮寺祭の後、黒崎さんの方から告白したそうで、江口さんがそれにオッケーだと返したそう。どういう台詞を言ったのかは、この二人だけしか知らない。あの演劇のような台詞なのか。それとも率直な言葉なのか。
「いいもんっすよねー。みおりんのクラスじゃ祝杯ムードだったとかで」
「そうよねー。部内恋愛かー……」
「……なんで俺の方見るんです」
二年四人と薫の視線は、どういうわけだか俺の方に集まってくる。
「一番可能性ありそうなの、こうちんですし。ですよねわかちー」
「そうですし」
「いやいや男はって……薫は」
「かおるんは……」
「んー……」
なんでそのあとみんなして首傾げてんですか。薫だけじゃなく槻さんまで。
「話を聞かせてもらおうか。蕾ちゃんもそうだし莉亜ちゃんのこともあるし」
「今日はそういう話にしましょうか、こうちん」
「いやちょっと……」
身構えたところで、テーブルの上の置き紙に気がついた。
『急用を思い出したので早退します。 宮岸』
蕾。あんたが持ってるくらいの優秀な危機感知センサー、俺にもください。
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