俺の恋愛はやっぱり普通じゃない

第135話 ふわふわしてるもの

 秋。妙蓮寺祭が終わればその後しばらくして二学期の期末試験を迎え……。それが終われば、学校内にはようやくの落ち着き、そして冬がやってくる。

 早いものでもう、十一月の末。大きな学校行事もあらかた終わり、残った年間行事といえば春の球技大会くらいだろう。

 ということもあってしばらくは、広い目で見れば年間を通して穏やかな日々が続くことであろう。


 しかし俺にとっては……いや、言い直した方がいいだろう。漫画研究部にとっては、時期も季節も関係なく穏やかな日なんてものはほとんどないだろう。

 試験休みを除けば、そうである日なんて果たしてあっただろうか。部活がある日はもちろんだが、休みの日にしたって、静かな日なんてあっただろうか。部室に居ない時でも、その代わりにと言わんばかりに部活のグループチャットが賑やかになる。

 その大体は、案外どうでもいい話ばっかりな時がほとんどではあるが、それはそれで楽しいものではある。


 などと、呑気にうつつをかましている余裕は、果たして今の俺にはあるのだろうか。答えるならば、ほとんどないと言った方がいい。

 最近どうも頭の中では、色んな考えが巡りに巡っているもんだから、なんとも言えない落ち着かなさがある。二学期が終われば、少しはそれも和らぐのだろうか。それとも……。



「早いもんだよなー。もうすぐ十二月なんてよー」

「そーだねー。時間経つのって早いよねー」


 そんな落ち着いた学校での日の昼休みのこと。クラスメイトの薫と篤人の三人で昼食を取っているところだ。


「ようやく試験も終わったからなー。気が楽だわー」

「そーだねー」


 飯を食いつつ、試験のこととか現状のこととかについてを語っている。期末試験が先週終わり、もうすぐ十二月。そして冬休みがやってくる。


「でも結果は不安だなー。数Aの最後ぜってーとちったわー」

「あれ難しかったよねー。僕としては古典のほうかなー」

「あ゛ーそれはもうあかんわ」

「諦めるのが早いよ篤人……」


 二人のそんな会話を、俺は時々相槌うちながら、あまり会話の脈には入らずに聞いていた。


「大桑はどうなんだよ。不安な科目とかはないのか?」

「俺か? 強いて言うなら俺も薫と同じで古典だな」


 でもって話が振られてきたら、こんな感じでササッと返事をする。

 篤人が弁当箱から白米をすくって口に入れて飲み込んでから、今度は別の話題を振ってくる。


「あ、そうだ。なぁ大桑。そういやずっと気になってることがあったんだけど」

「なんだよ」

「あのなぁ……」


 少し溜めを入れ、口の中に少し残っていたのであろうものを飲み込んでから篤人は言う。


「お前って……気があるんじゃないか、宮岸に」

「ん゛むぐぅ……?!」


 いきなりその名前が篤人の口から、しかもそんな形で出てくるもんだから、驚かないわけが無い。危うく口の中のもん、吹き出しそうになったじゃねぇか。咄嗟に左手で口抑えたから、事なきを得たが。

 まとまりが着いていなかったから、あんまり深くは考えないようにしていたのに。

 単なるクラスメイト。から始まり、同じ部活に入り、実は過去に面識があったとわかり。それからはごくわずかといえど昔を知るもの同士として過ごしてきた。

 しかし妙蓮寺祭以降というもの。なんというか、彼女のと接し方に迷いすら感じるようになってしまった。

 全く話ができないってわけじゃないんだけど、なんだか表現しがたいほどに変な感じがする。そんなあれが。


「ちょいちょいちょーい大桑。吐くのはやめろやーい」

「げっふぅぼぁあふ……。いきなりなんてこと言うんだお前は」

「いやだって。気になるんだし」

「今聞くか。今聞きます?!」


 一応ここ教室。でもって離れたとこには蕾もいるから。今彼女は俺らのように、クラスの友人と昼食を取っている。


「てかなして?!」

「いやさぁ……クラスの男子だと、お前と話してること多いしさぁ。そうかなーなんて」

「あ。僕も気になる」

「いや……おい」

「おぉ。てか桐谷、部活中だとどうなんだよ」

「宮岸さん、部活中でもクラスの時と変わらず大人しいよ」

「あの面々の中でもか……。そういや校内でも中々尖ってるのが集まっているとは聞いたことあるけども……」

「確かに先輩たちは、個性的な人達ばかりだよー」


 あんなメンバー。そうそう集まったもんではないと思う。むしろどうやったらあんなメンバーが集まるんだろうって、不思議に思うこともしばしば。


「なんかある意味で……パリピとか陽キャの集まり感もするんだよな。名前からは想像つかないけども」

「言いたいことは……まぁわかるよ」


 そういう部活って偏見になるけども、響きからして陰キャが集まってそうな感じがするもんな。

 でもそれとは打って変わって、集まってるのはほとんどが騒がしいのばかり。詳しいことは……話せば長くなりそうなので割愛させてもらおう。


「まぁ確かに俺が聞きたいのはそれでもあるが。それよりもそれ以上にだ。お二人のご関係についてだ」

「いやどう説明せいと」

「そのまんまの意味だよ。どこまで進展してんのかと」

「なんで付き合ってます、が前提の前ふりなんだよ」

「いいじゃん」

「いや良くない」


 勝手に決めんなし。まだちゃんと付き合ってるわけじゃないからな。てかなぜそう思うに至った。部活以外だと、全くとは言わんけどそんなに頻繁に話してるようなこともないんだけど。


「どうなんだよ桐谷」

「部活だとねぇ……」


 おーい。勝手に話進めないでくださーい。

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