第129話 皇子と村娘の出会い
「さーてと。どうなるもんだかなー……」
「あ、高畑さん」
「おーおー来てくれたのかー。嬉しいねー」
関係者席の二列目。ちょうど俺の後ろの座席に座ったのは、演劇部の部長である高畑さんだ。
「君も来てくれるとはねぇー。演劇はいいもんだよー」
「いや、それはいいんですけど……なんであなたがここにいるんですか」
「だって私は部長であってこの演目の監督よ。この私が初めて総監督を務めた演目なんだから!」
「あーそうですかー」
自分が監督を務めた作品を鑑賞する。それはわかりますよ。でもわざわざ客になって、ここで見る必要はあるんでしょうか。ここでなくとも舞台裏で十分でしょうよ。
しかも当日のお仕事、副部長の蕪木さんに任せちゃってるし。
「こんな事言うのもあれですけど……後で蕪木さんに怒られません?」
「それなら心配ご無用! 昨日既に怒られたから!」
それ大丈夫じゃあないやつですから。というかこの人は何をどうすればこりるのやら。あの人も大変だろうなぁ。
「まぁともかく。総監督としてしっかりとここから見届けてもらおうかしら」
「おーおー。楽しみだねぇ」
お互い部長同士。これから始まる演目に心を躍らせているご様子。
そんな中、右隣に座っている蕾がそっと口寄せしてくる。
「あれ……何なの?」
「俺らには手の付けられないものだ。ほっとけ」
相手できるはずがありません。ついていけないんだもの。
そう思った頃。ブザーが鳴り、講堂の照明がゆっくりと落とされる。少しザワザワとしていた観客が、再び静まった。
「皆様、大変長らくお待たせしました。これより妙蓮寺祭、演劇部公演。『己を知りて気高くあれ』の公演を開始致します」
蕪木さんのアナウンスの後、舞台の幕がゆっくりと上がり、講堂上の通路から白い照明の光が差して来る。いよいよ開演だ。
演目の冒頭。メルトリア王国の王宮でのワンシーンから物語は始まる。
「……以上が先王からの遺言となります。ファルシウス第一皇子」
「……確かに、受け取った」
先王が寿命を全うして倒れ、次期王位の継承権は先王の息子にして長男である今作の主人公、ファルシウスが持っていた。
「しかしロザリア。自分ごときに王の務めが果たせるのだろうか」
「私めが仰っても気休めにもならないかもしれません。しかし貴方様には十分な素質があると思っております。どうぞ、自信を持って下さい」
「……ありがとう」
学問において歴代の王の中でも随一との評判の彼であったが、彼は自らに自信の持てない男であった。継承することこそ受け入れていたが、それでも割り切れないものが彼にはあったのだ。
数日後には民衆を集っての戴冠式が行われ、正式に王位を継承する……予定であった。
しかし次男であるアルガドが反乱を起こし、動乱が巻き起こる。
次第に王政が荒れ、それは国中へと広がっていく。やがてファルシウスはその身を狙われ、ついには国を追われる状況へと陥った。
「総力を上げて探し出せ! 絶対にメルトリアから逃がすな!」
「国の門を全て閉じるように伝えろ!」
逃げ道は塞がれ、ファルシウスの命にに危機が訪れようとしていた。
しかし僅かに残っていた信頼出来る王家関係者の協力のもと、密かに作られていた地下の脱出経路を利用することでファルシウスは難を逃れたのだ。
ここまでが冒頭のシーンである。
ちなみになんだが、俺が最初に演劇部向けに提出したシナリオっていうかプロットには、先程の展開についてまでは記載されていない。というかそこまでは考えていない。
演劇部に提出した後、向こうの方で展開のつなぎとして考えられたものだ。
脚本を作ったって言っても飛び飛びなもので、物語としてのつながりなんてもんはなかった。
路線があったとしたら、俺が作ったのは電車が止まる駅だけ。それを線路で繋ぎ、その上に電車を走らせたのが演劇部という感じだ。
何とか国外に逃れたかと思えば、すんなりと行かないのが道理というものなのか。すぐに追っ手が現れ、それから逃げられたのは良いが、自らを逃がす為と家臣が足止めしたが為に、ついにはファルシウス一人だけとなってしまったのだ。
「ロザリア……グランツ……アルシア……」
最後まで自分についてきてくれた家臣の名を一人ずつ口にしながら、力ない足取りで郊外のけもの道を歩くファルシウス。
淡い色の照明がより彼の悲痛さを表現している。後ろから声をかけてくる高畑さん曰く、この辺りは前半部分でも特に気合いの入ったところなんだとか。
「俺は……やはりダメなやつ……じゃあないか……」
追っ手から逃れるために一人走り続けていたファルシウスであったが、ついに体力の限界がやってくる。ついに地面に倒れ、気を失ってしまう。
「父上……」
ここで照明が消え暗転。視点はファルシウスからアルガドへと切り替わる。
ファルシウスがメルトリア王国から逃れた二日後のこと。王国ではアルガドの口からファルシウスが不慮の事故によって亡くなったと告げられる。戴冠前から評判の良かったファルシウスの死という宣言に国民は驚き、悲しむしか無かった。
そして先王の亡き今、自らが王位を継承すると宣言した。それは王国の動乱の始まりであった……。
そして再び照明が消え、場面が切り替わる。視点は再びファルシウスへと戻る。ここからはファルシウスが、助けられた農村での少女との出会いの場面である。
けもの道で倒れた彼は、偶然通りかかった近くの農村の少女に助けられ、介抱されているところだ。次第に照明が明るくなっていき、彼が今どのような場所にいるのかがはっきりとわかるようになる。
王宮とはまるで違う、ボロボロの木造の家。時折ギシッ……ギシッ……と気の軋む音が聞こえてくる。
彼は意識を取り戻し、介抱してくれた少女と初めて顔を合わせることとなったのだ。
「き、気が付きましたか?」
「……君が、助けてくれたのか?」
「は、はい……。山道で倒れているのを発見しまして、それでこの村まで運びました。あ、あの……私、は……カルラといいます」
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