第127話 気がつくの、遅すぎ?

 近いとこであんだけ悲鳴あげてりゃあ、同じ部活の葉月だったら気がつくでしょうよ。


「楽しみにしとけって言うもんだから何かと思えば……」

「驚いたでしょ?」

「いい意味でも悪い意味でも。ていうかこういうことに関してはワンパターンすぎんだよ葉月は」


 何かと理由というかそれっぽい感じで俺に近づいては、抱きついてきて俺の匂いを嗅いでいる。毎回毎回こんな感じで接近してくるもんで清々している。もういっその事理由もなくいきなり抱きついてきてくれた方がまだマシな気がする。


「全く暗がりだからって校内でまで何をしてやがるんだよ」

「こういう時だからじゃん。でないと抱きつけないもん」


 こんな葉月といえど、流石に他の生徒や先生が見ているところで俺に抱きついてくるようなことは無い。なんて思ったけど、一回だけあったような気がする。

 記憶が確かであれば、本入部の日だったか。まぁあの日にいたのは漫研の部員だけだったからノーカンに……できないだろうか。


「めっちゃ清々しくてお兄ちゃん逆に尊敬しちゃう」

「えへへー」

「皮肉……」

「そっとしといてやれ……蕾」


 勝手にえへえへしてる葉月はその場に置いておくとして。先に進ませてもらおう。後続のこともあるし、あんまりここで長いこと油売ってると迷惑になってしまうんでな。


「ありがとうございましたー」

「やっと……終わった……」


 出口にたどり着くまで、蕾はずっと手を繋ぎながら俺の後ろに隠れていた。最初の時ほどピッタリとではなかったものの、くっついていたってことには変わらない。



「どう、する? まだ時間……あるから」

「あぁ、そっか」


 時間を確認してみれば、まだ一時半よりも前。演劇部の方に行くよりも前に、もう一個くらいはどこかの出し物を回って行ってもいいだろう。てかそうしないときっと暇を持て余しそうだから。


「どっか行きたいところとかあるか?」

「行きたいところ……」

「思いつかなかったら、無理にひねり出そうとしなくてもいいからな。適当にぶらぶら回って、気になったところに入ればいいだけだろうし」


とか話していると、それに目を光らせていた生徒がこっちにやってきて。


「お。そこのお二人さーん。もしかして暇しちゃってますかぁー?」


 元気よく宣伝していく。俺らに話しかけてきたのは、大きな看板を持った女子生徒だ。看板には『一年九組・縁日』の文字が。


「暇といえば暇ですけど。どこ行くかで悩んでましたし」

「ならちょうどいい! でしたら是非ともうちのとこに足を運んで下さいよ! 二年八組の教室ではやってますからそれでは!」


 俺らの返事を待つことなく走り去ってしまい、近くの人にも同じように声をかけていた。


「あそこまで誘われてんだったら、行ってみるか」

「そう、だね」

「てかそんなに後ろに隠れなくたっていいだろう」


 いきなり話しかけられたとはいえ。びっくりしてしまうのはわかるけども、そこまでビクビクしなくたっていいでしょうに。さっきのお化け屋敷みたいなことにはならないんだから。


「」

「そ……そういえば、九組って」

「あー……。そういやそうだったな」


 九組といや、莉亜のクラスだったな。誰が何組とかなんて、あんまり考えたこともなかったからあんまし覚えちゃいなかったんだよな。



 同じ階の、さっきまでいた場所から俺らの喫茶店のある方とは反対の方向に歩いていけば、縁日の出し物をしている教室があった。


「らっしゃーい……ってあんたらかい」

「なんだ、来たら悪かったか」


 入ってすぐの射的のところ。立ち寄ってみれば、店番をしているのは法被を着た莉亜であった。


「一言も言ってないわよ。にしてもなんだ、見せつけてんのか。私に対するこじつけか」

「そ、そんなんじゃない……ってかずっと握ってたのか?!」

「逆になんであんたはそんなことにも気が付かないのよ……」


 莉亜が俺の左手の方を指さすんでそっちを見たら、俺の左手を蕾が右手で握っていた。お化け屋敷の中で握り始めてから、今の今までずっと握っていたってのか。

 無意識だったからか、それとも別の理由があったのか。


「あんたがそんなんじゃ、唯一の身寄りがさぞかし頼りなく思われるでしょうねー」

「蕾に変なこと吹き込ませんなや! てか待って! 理由があってな理由が!」

「ほーう理由ねぇ……」

「あれだよほら……ここ来る前に葉月のとこ行ってたんからそれで……」

「葉月ちゃんのとこねぇ……ひっひっひー……」


 葉月のクラスのお化け屋敷に行ったって聞いたら、莉亜がくすくすと笑い出す。


「あんたにも苦手なもんがあるとはねぇー」

「苦手なものは……苦手だもん」

「てかお前だって人のこと言えねぇだろ。小学校の合宿の時なぁ……」

「ストップそれ以上言うんじゃないわ煌晴」

「いやいや。お前だけ恥ずかしい思いしないってのも……」


 合宿の肝試しで。俺と同じ班だった莉亜は終始怯えっぱなしで俺にしがみついていた。ということを俺の口から話す前に、莉亜に強引に止められてしまう。


「冷やかして何もしないなら帰った帰った」

「悪かったって。てかそれはそっちからしたことだろうに」

「うっさい輪ゴムぶつけんぞ」

「もうぶつけてるし! しかも結構痛い!」


 割り箸鉄砲をこちらに向けてくる莉亜であった。そして何も言わずに一発俺に向かって発射。この鉄砲かなり出来がいいのか、輪ゴムが結構な速さで飛んできた。


「皆は人に向けて撃たないようにね!」

「お前が言うな!」


 後ろに並んでたお客にきゅぴーんとウインクして、左手でサムズアップまでして言う莉亜。

 これが悪いお手本ってやつなのか。俺からも言ってやりたいが、くれぐれも真似しないでくれよ。あれ結構痛かったからな。狙うなら向こうの景品を狙ってくだせぇ。

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