第102話 結局何するの?

 俺たちが即売会に参加していた六月のこと。そのイベントに向こうの部長さんが一般客として訪れていたそうだ。

 そこで戸水さんがサークル主であるウォーターパレットのスペースに来た際に、そこに同じ高校に通ってる生徒がいるってことに気がついたらしい。


 その時はちょっとだけ話をして新刊を買っていっただけで、他は特に何も無かったそうなんだ。今回の発狂の理由についてを話せばついさっき、部室に来る前のことになるらしい。

 その時の一連の流れ、戸水さんの話によればこんな感じだそうで。


 いつもの通りに部室に向かおうとした道中で、一人の女子生徒に声をかけられた。彼女は演劇部の現部長。

 頼みがあるからと言うので戸水さんはそれに応じたところ、即売会のことから始まって、妙蓮寺祭のことについてを語られたんだとか。

 そして五分くらい向こうから一方的に語られたところで、ようやく出てきた本題。長々と一方的に語られたこともそうらしいが、戸水さんを悩ませているのは、その頼みだそうで。

 でもってその頼みと言うのが。


「演劇の……」

「シナリオを書いてくれ……?」

「そういうことよ……」


 茅蓮寺祭で披露する演劇のシナリオ制作を依頼されたんだとか。

 右拳を握ってプルプルと震わせながら、戸水さんはまた叫ぶ。


「まず私は絵描きであって、脚本家でも小説家でもないのよぉ! せめてそういうことは文芸部に頼めぇ!」

「まーそーっすねー。専門外っすからねー」

「同人誌を褒めてくれたのは嬉しかったけども!」


 描くのはイラストであって、文章を書いてるわけじゃないからな。てか褒められたことは素直に受けとるのね。


「でも引き受けたのよね、若菜」

「引き受けるなんて一言も言ってない! てか向こうが勝手に言って勝手に進めてるだけなんだから!」


 どうやら頼まれたと言うよりは、押し付けられたと捉えるのが自然らしい。


「ところでなんですけど。面識あったんですか? 向こうの部長さんと」

「全くって訳じゃないけど、特に仲いいとかそんなんじゃないわよ。クラスも別だし」

「じゃあなんで戸水先輩にそんな話が回って来たんすかね」


 俺と葉月の疑問に答えたのは槻さんであった。


「この部ができた時の若菜はいわゆる……異端児? だったから。同学年じゃそこそこの有名人なのよ」

「異端児……」


 漫研がないからってこの部を作ったのは戸水さんだ。部の設立まで東奔西走してた。設立の為に色んなことをしていたようで、当時は色んな噂が流れてたんだとか。詳しいことはもう本人も覚えてないらしいが。


「ということで今からカチコミに!」

「やめなさい」

「あひゃうっ」


 槻さんのチョップが今度は脳天に炸裂。いくら不満があろうが演劇部の方々にご迷惑かけるのはやめてください。もしかしたらまだあの人の独断かもしれませんし。


「というか、なんでそういうのをうちに頼むんですかね。自分らの出し物なんですから、自分らで考えればいいものを」

「そうですよ! お兄ちゃんの言う通り!」


 俺がそう言うと。月見里さんが演劇部についてを教えてくれる。


「演劇部って、結構変わり者が集まるって校内じゃ有名らしいっすよ。マジモンの芸達者? もいれば夢追い人……とか若菜の言うオタク君も結構いるそうで」

「変わり者ですかぁ」

「まー言ってしまうと、うちもそうですよねぇ。演劇部に比べるとひっそりしてますけども」


 うちの部も大概だと思う。それは月見里さんも同じ考えらしい。

 てか二年だけにしても。サークルを持ってる絵描き、名家のお嬢様、明るく活発なギャル、幾千の肩書きを持つ厨二病。十分に校内で目立つような人達ばかりだ。


「茅蓮寺祭ともなればいっそう活発になってなー。毎年凝ったことしてるんすから」

「去年は色んな部活に声を掛けて、うちの学校を舞台にした青春作品を作っていたわね」


 槻さんが言うに、高校に入学してやりたいことの見つからない主人公が、色んな部活を体験して行くというストーリーなんだとか。


「とにかくやることなすことが想像を超えたものばかりで。外の大会で優秀な賞をとったーってわけでもないんだけど、演劇部目当てにうちを志願する人も少なくないそうよ」

「そんなに有名な部活だったんすか」

「まぁ色んな意味でね」


 他にも武勇伝なり怪奇行動は多々あるらしいが、その辺りの話をしていたら非常に長くなりそうだとのことなので、またの機会にということに。一体。どれだけのネタがあるんだか。


「まぁ引き受ける引き受けないはともかくとして。そこはまず協議しましょう。一応こちらには断る権利もあるんだから」

「そーっすよー。漫研は漫研でやることがあるんすよねわかちー」

「そうね。とりあえず今は演劇部のビッ……クソ尼のことはいいとして」


 言葉を選んだつもりなんだろうが、汚い表現だってことには変わってませんよ戸水さん。


「まだ正式には決まってないけども、今年も顧問兼任の部活である文芸部との共同企画をすることになってるの」

「共同企画?」


 うちの文化祭では近隣のボランティアや商店からも参加がある。そのひとつに地域ボランティアによるフリーマーケットとバザーがあるのだ。

 文芸部が手伝いとして参加しているが、去年からは漫研もそれに参加しているんだそうで。

 今年も順当に開催されるとの事なので、その手伝いに参加するとの事。


「でもそれだけではなくてもうひとつ。今年はその中でもうひとつ企画を用意してるのよ」

「企画ですか?」

「それについては文芸部と話し合ってからになるんだけど……」


 その共同企画についてが戸水さんから話されようとしたところで、部室のドアをノックする音が割り込んできた。

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