第101話 開始早々殴り込み?

「はぁぁーやーっとテスト終わったぁー」

「お疲れ様です月見里先輩」

「はづちー達はいいっすよねー。昨日でテスト終わってー。部活ないからってどっか遊びに行ってたりしてたんすかー」


 部室にやってくると先に来ていた莉亜と葉月、それから月見里先輩が楽しそうに雑談していた。月見里さんはテストがようやく終わったことですっかり解放感に満ちているようだった。


「りあ姉の家に行って遊んでました! お兄ちゃんも誘おうと思ったけど先約が……」


 ドアを開けた音に反応して、葉月がこっちを振り向いた。


「あぁ、お兄ちゃん!」

「おう」


 手をぶんぶん振っているので、とりあえず葉月の隣の席に座る。毎度毎度、どうして俺がやってきたってだけでこうもテンションが高くなるのやら。


「そういえばお兄ちゃん、昨日は何してたの?」

「薫に誘われたから、カフェに行ってた」

「えー羨ましいよー。葉月達に内緒でー」

「内緒にはしてないだろ」


 でもまぁ。カフェに行ってたことは言ってなかったな。遊びに行くとしか言ってなかったし。


「もしかして蕾ちゃんも?」

「桐谷さんに誘われたので」

「駅の近くにあるケーキの美味しいお店なんだ。今度は葉月ちゃんたちも連れてってあげるよ」

「ホントですか! ありがとうございます!」


 カフェの話になると、葉月の向かいに座っていた月見里さんが食いついて来る。


「あぁそれってあれのことすか!」

「そうですそうです! 昨日はレモンの……」


 その後は薫と月見里さんによるスイーツトークが始まった。こういう話題、女子同士の話題な気もするんだけど……薫の場合、違和感が無さすぎて恐ろしい。

 話をしているうちに槻さんと干場さんもやってくる。二人もそのお店に行ったことがあるようで、薫達の会話に混じっていた。

 それから更に数分経って。それでも部活はまだ始まらない。何故ならば。


「そういえば戸水さん、今日は遅いですね」


 この部の部長である戸水さんがまだ来ていないのだ。

 事情がない限り、俺らが部室に来る頃にはいつも部室にいるんだけど。今日はまだ部室に姿を見せていない。何かあったのだろうか。


「欠席ですか? 槻さん何か聞いてませんか?」

「そういう連絡は聞いてないけど……」


 槻さんに事情を聞こうとしたら、いきなり部室のドアがガラッと開いた。その先にいるのは、話題に上がった戸水さんだ。


 なんなんだいきなり。珍しく最後に部室に入ってきた戸水さんは、部室に入ってくるやすぐにホワイトボードの方へと向かっていった。

 そして無言で赤のマーカーを掴むと右手の親指で親指でキャップを弾き、ボードがガタガタ言うくらいの勢いででかでかと文字を書いていく。

 弾いたキャップは左手に握られていたようで、ボードに描き終えるとキャップを締めてマーカーは机の上にドンっと置く。


 ボードいっぱいに書かれていたのは、宣戦布告の四文字。

 いやどういうことよ。二学期最初の部活の始まりがこれとは。突然の展開すぎて皆黙ってるよ。なんて言ったらいいのかわからず困惑状態だよ。

 今日やるのは軍法会議ですか作戦会議ですか。それともどこぞへの侵攻作戦でも計画してるってんですか。


「シャラァァッップ!!」


 誰かが口を開くよりも前に、戸水さんの口からこの一言である。

 いきなりの展開にみんな驚いているから、とっくに全員黙っているとは言わないでおく。今余計なこと言ったらもれなくマシンガントークの餌食だろう。

 それがわかっているのか。はたまた呆れなのか。二年の三人はやれやれって顔をしながらお互いのことを見ている。

 こちらも今は余計な抵抗はせずに戸水さんの文句だか演説だかに耳を傾けるとしよう。何か言おうとした葉月の口は左手で鼻まで覆えるように軽く抑えておく。


「時期は早いけども! 約二ヶ月先! 何があるか言ってみなさい、はい大桑君!」

「ゔぁっ?!」


 しばらくの沈黙の後、そしてようやく第二声を喋り出したかと思えば、いきなり質問振られる。二ヶ月後の校内行事について……思い当たるのは一個だけだ。


「っと……茅蓮寺祭、ですよね?」

「ザッツライ! そしてまだまだ早いこともあって、詳しいことなんか何も決まっちゃいなかった! でもついさっきだ! やることの一つが決まったわ!」

「……つまりは?」


 声の大きさもそうだけど。いちいち変なポージングとったり大袈裟な身振り手振りを加えたり。行動の一個一個が五月蝿い。背後に仰々しい効果音でも現れてそうだ。

 質問された俺が聞き返してみると、戸水さんはバンっとボードを叩いて宣言する。


「演劇部にカチコミじゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 これはやばい事になりそうな予感だ。頼むから逃げて演劇部。この人暴走させるととんでもないことになるから。


「若菜五月蝿い」

「あうぅ」


 戸水さんの後頭部にチョップを入れる槻さん。ホントお疲れ様です。

 チョップのおかげで暴走していた戸水さんがようやく落ち着きを取り戻した。そして今度は二年三人による査問会が始まる。


「物騒なこと言わないの。大桑さん達びっくりしちゃってるじゃないの」

「まーたわかちー暴走しちゃって。変なものでも食べましたか? もしくは勉強のし過ぎで頭イカれました?」

「貴殿の中に眠りし悪魔でも目覚めたのではないかと思ったわ」


 どうやら二年組にとってはしょっちゅうなことらしい。一年の俺らにはどうにもならないことではあるが。何していいかも分からないんですから。


「学校会議モノの騒動は起こさないでよ。それでいきなりどうしたのよ」

「そーっすよ。演劇部がわかちーに何をしたって言うんすか」

「かの者からの災厄を浴びたというか?」

「これについてを語るには、話を少し遡らなきゃならないのよ……」


 戸水さんの話曰く、事の発端を話せば即売会にまで遡るという。

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