第100話 これからの楽しみは?
さっきのやり取りについては話題に出さないこととして。俺ら三人は薫に案内されて入った喫茶店で一休みしていた。外が暑かったので、冷房の効いた店内はとても心地が良かった。
メニューを開く前に、薫のおすすめを聞いた。そしたら季節のケーキセットだと言うので、皆それを注文することにした。
「それにしてももう二学期かぁ。早いもんだね」
「色々ありすぎて、気がついたら夏が終わってたって感じだけどな」
入部してすぐから色々あったし、六月頃には即売会に参加したし。夏には部員達で海に花火にととことん遊びまくってた。
部活をしていれば、退屈するような日なんてなかった。そうなれば時間が経つのが早いなんて言うのも、今になればわかるようなきがしてくる。
「これからってなると……一番に思いつくのは茅蓮寺祭か」
「何するんだろうね。漫研だから、そういうことでなにかするのかな」
「そういえば先輩達から、ほとんど聞いてない」
文化祭とっても楽しいですよーって月見里さんがいつの日だったかに言ってたきりな気がする。言われてみれば確かに、こと細かい話についてまでは聞いたことがない。
「でも十月末だよな。考えるにも少し早いような」
「でもあの人のことだから、既に何かしら考えてそうだよね」
「それこそ夏休みから……」
「「うわぁーありそー」」
蕾の発言に、納得しかない俺と薫。あの人だったら文化祭というイベントを放っておく理由なんかないだろう。
うちの部は何かしらの大会やコンクール等に参加するようなことは無い。そういう意味では、文化祭のような校内イベントは貴重なアピールの機会でもあるのだ。
「去年何してたのかって、そういえば聞いてなかったよね」
「そうだな。明日にでも聞いてみればいいんじないか。あの人だったら喜んで話してくれそうだし」
「でも調べたら出てきそうだけど――「お待たせしました」」
そうこう話しているうちに、頼んでいたケーキセットがやってきた。店員さんの説明によれば、レモンを使ったチーズタルトだとのことだ。
「ごゆっくりどうぞー」
店員さんがテーブルから離れていったところで、ケーキの前にコーヒに手を伸ばした。今回は気分でホットにした。口元に運んでから香りを楽しみ軽く一口。酸味の少ない俺好みの味かもしれない。
「煌晴はブラックで飲めるんだ。羨ましいや」
「ダメなのか、ブラック?」
「僕は微糖が今の限界で……。ブラックで飲めるようになれたらなーとは思ってるんだけど」
そう言いながら薫は悲しそうに備え付けのスティックシュガーに手を伸ばすと、一本とって封を破り、コーヒーの中に。と言っても中身全部ではなく、その半分くらいを入れていた。
ティースプーンでクルクルかき混ぜてから、砂糖入りのコーヒーを飲む。
「うぅ……まだきついかも」
そういうと残りもコーヒーの中に。薫のブラックコーヒー克服はまだまだ時間が必要らしい。
「無理しなくても、自分の飲みやすいので飲めばいい」
「ありがとう宮岸さん……って宮岸さんもブラックなんだ」
「私も昔はダメだった。でもだんだん慣れた」
俺の右横の席でアイスコーヒーを飲む蕾。こちらも俺同様、何も加えずブラックで頂いている。
「コーヒーで思い出した。前に水着買いに行った時だったな。そんときに休憩にカフェ寄ったんだけど、ブラック派って言ったら蕾以外残り皆に驚かれた」
なんでそんなもん飲めるんだーとかって言われたんだよな。好みや文化の違いはあれど、好みをそこまで言われちゃあ少しは凹みますよ。
「先輩たち皆苦手なんだ」
「全員かどうかは知らねぇや。干場さんについては月見里さんが言ってたけど、槻さんはあの場にいなかったし聞いてもいねぇや」
「でもあの人だったら飲めるんじゃないかな。ティーカップ片手に優雅に楽しんでいる光景が浮かんでくるよ」
「確かに、いい絵になりそう」
お嬢様。というイメージが強いからか。飲めるんじゃないかもっていうのが俺らの勝手な考えだった。もしそうでないのでしたらごめんなさい。
コーヒーを飲んだあとは、いよいよケーキの方に。フォークで一口分に崩してから口に運んだ。
レモンの爽やかな酸味が口に広がり、cチーズのサッパリとした味がいいアクセントになっていた。チーズタルトというもんだから味の濃いものを想像していたが、それとは相反したしつこくない甘さと風味がたまらない。
ケーキとコーヒーを楽しんでいれば、夏休みが終わってしまったことの憂鬱なんて吹っ飛んでいきそうだった。このままずっとこんな時間を過ごしていたい―――
「そういえば、桐谷さん。何か……言おうとしてませんでしたか?」
「なにふぁ……あぁそうはほうは」
「口の中のもん、全部飲み込んでから言え」
はしたないから。そういやケーキの余韻に浸りまくってたら、さっきの話の内容すら忘れていたよ。実際みんなケーキに夢中でほぼ無言だったし。
「んぐっ……学校のホームページとかに、活動報告としてそういうのが出てきてないのかなーって思って」
「あぁなるほど」
学校のホームページって、ほとんど見ないし用もねぇんだよな。
とまぁそんなことはどうでもいいな。そう言われたもんなんで、早速実行に移すことにした。ズボンのポケットからスマホを取り出すと、検索サイトの検索ボックスにうちの高校の名前を入力する。
そしたら一番上に、茅蓮寺高校公式ホームページというタイトルがあったので、そこをタップしてやれば、すぐにホームページが立ち上がった。
「学校行事とか、活動報告に何かあったりしないのかな」
「探してるけど、どうやら今年度からのものしか出ていない」
「そっかぁー……」
これでは去年何をしていたのかを知ることはできない。そうなると明日先輩達に聞いてみるしかなさそうだな。
ということでそのことについては保留として。その後はどんな文化祭になるのか、中学は各々こんな感じだっただ等。文化祭についての話題で盛り上がりながら、チーズタルトとコーヒーを三人で楽しむことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます