茅蓮寺祭 準備編
第98話 終夏の憂鬱
早いもので九月になり、季節の暦で言えば秋を迎えたわけだ。
食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋。色々言うでは無いか。十一月には文化の日なんて祝日もあるくらいだ。秋は趣味や文化に触れられる穏やかな季節。というのが大衆のイメージではないだろうか。
しかしもう秋になった。そんな感じがほとんど湧かないのだ。九月といえど、暑いことには変わらない。気温が三十度を超える日もまだまだ多い。
しかしそれだけでは無い。むしろ今俺の思うことは、秋がどうこうという問題ではなく、夏が終わったことに対する嘆きなのだから。
九月二日。楽しかった夏休みも終わって、新学期が始まったというところ。昨日は始業式。そして今日から気持ち新たに授業を再開しよう。とは行かないわけで。始業式の後に俺らを待っているのは、誰もが望んでいない実力テスト。
全くなんで、休み明けにテストなんざ受けなきゃならないんだよ。タダでさえ長期休暇が終わるって言う時点で絶望感満載でしかないのに、それにさらに追い討ちどころかトドメでも刺してこようと言わんばかりにテストがやってくるのか。
結果がやばそうだから受けたくないんじゃない。そもそもそんなテストを受けたくすらないんだよ。
莉亜なんて夏休みが終わるよりもそっちの方で発狂してたから。さっきダラダラと憂鬱を語った俺が言えたことではないんだがもう小学生じゃねぇんだぞ。まぁ莉亜の場合は夏休み終わって欲しくないに、試験が嫌だとがヤバいくらいに化学反応してとんでもないことになったんだなと。
うちって一応、それなりにいい高校ではある。実力テストの結果はあんまり成績には影響しないよーとか言う先生とか先輩はいるんだけど、絶対嘘だ。少なかれ成績に加味されてるんだろうな。
「あ゛ぁぁ……」
「お疲れ様。なんかだるそうだねぇ煌晴」
今日最後の数学のテストが終わり、先生の話を少し聞いて放課後になる。
先生が教室から出ていった後、クラス内ではこれから何をしようかだの、夏休みにこんなことしてただの。一方で俺は机に突っ伏していた。もう疲れたんだもの。
そうしていたら、薫がやってきてだ。
「だるいとかじゃなくてさぁ。しんどい……もちょっと違ってて……。強いて言えば……」
「やる気が出ない?」
「あぁーそれかなー」
薫に的確に的をついてくれる。そうやる気が出ない。学生や社会人は月曜が嫌いって言うだろ? その超強化版だ。
「でも今日一日で終わって良かったよねー。先輩達は明日も試験があるんだって」
「あぁそっか。それで今日は部活がないんだもんな」
一年は国数英の三科目だけだから、実力テストは一日で終わるが、先輩たちはそれに加えて物理やら世界史やらのテストが加わってくる。
そういえば昨日、戸水さんと月見里さんが、部活グループのトークで愚痴と不満をこぼしまくってたっけ。洪水するくらいに。トーク内で槻さんに説教されてことが収まったわけだが。
「それで放課後も空いてるし、気分を少しでも晴らすためにも、どこか行かない?」
「そういうことなら俺は別に構わないけど。どこに行くんだ?」
「僕のお気に入りのカフェがあるんだけど、そこでゆっくりまったりとなんて……どうかな?」
「お茶か……」
高校生の男二人がカフェで優雅にか呑気にかは知らんが、お茶をするってのは絵になるのか。似合わんような気もする。でもそういうのも悪くは無いと思ってもみる。
気ままにゆっくりと過ごすというのも、たまにはいいのかもしれん。
「まぁ薫がそう言うなら」
「ありがと。あそーだ、宮岸さーん」
ふと何か思い出したように薫は、教室を出ようとしていた蕾に声をかけた。遠くにいるからなに言ってるのかは聞こえないけど、流れからして宮岸も放課後のティータイムに誘おうとしてるのか。
一分くらいして、薫が蕾を連れて戻ってきた。
「宮岸さんも来るって」
「二人の、邪魔でないのなら……」
「そんなこと思っちゃいないって」
「……ありがと」
ということで放課後はこの三人で遊びに行くことになったわけだ。
リュックに荷物をまとめていると、薫がさらにこんな提案を。
「そうだ。米林さんたちも誘おうか。特に葉月ちゃんだったら間違いなく食いついてきそうだし」
「俺がいるって知ったら、有無を言わずに駆けつけそうだけどな……っと失礼」
この流れなら残り二人の一年、莉亜と葉月も誘おうかということになった。部活がないからどっか行こうって流れだったし、名前が上がるのも必然か。
そんなことを思っていたら、スマホにメッセージが飛んできた。差出人は葉月であった。
アプリを開いてメッセージを確認してみる。そしたらこんな分言が。
【大桑葉月】りあねーと遊びに行ってきまーす
【大桑葉月】お兄ちゃんも行く?
どうやら向こうは先約があるそうだ。こちらに誘うのは無理そうだ。
「向こうは向こうで用事があるみたいだ。てことで三人で行こうか」
「そっか。わかったよ」
「あ、その前に」
一応既読はつけたんだし、何かしらの反応は示した方がいいだろう。
【大桑煌晴】はいよ。こっちはちょっと薫らと遊びに行ってくるわ
「こんでよしと……あ。も念の為うひとつ」
思い立ったことがあったんで、追加でさらにひとつメッセージを送った。
「お待たせ。それじゃあ案内よろしく」
「お任せあれ。駅の方になるんだけどいいかな?」
「問題ない。それじゃあよろしく」
「ところで、何て……送ってたの?随分と長い文だったように見えたけど」
蕾にそう聞かれたんで、一応全部は言わないようにして答える。
「ひとつは葉月に対する返信。もう一個は……」
「もういっこは?」
「……忠告だ」
俺の部屋にそう易々と入れるとは思うなよって。
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