第97話 漫研の夏は騒がしく
皆で海に行った日から数日経った日のこと。俺たちは久しぶりに部室に集まっていた。
「こっちはビーチバレーのやつでー。あ、それは姫奈菊ちゃんが埋まっていたやつで……」
「ほーほー、見返してみれば沢山あるっすねー」
「なんでそれ撮ってるのよ?! 撮ったの誰よ教えなさい!」
「いや意気揚々と魔力供給とか言って埋めてくれと頼んだのひなちーじゃないすか」
各々がスマホで撮った写真を共有しているところだった。
「しおりーん。この写真もらっていいすかー」
「もちろんいいわよー」
「あ。僕も貰っていいですか?」
元々集まる予定はなかったんだけど、槻さんが海外に住んでいる親戚を尋ねる為に、しばらく日本を離れることになると言う。なので戸水さんの提案で急遽、今日集まろうという話になったのだ。そのメッセージが送られてきたのが、昨日の夕方六時過ぎと言う。
「てか写真を共有するだけならわざわざ集まる必要もなかったのでは?」
「わかってないなー大桑君は。こうやって集まって、詩織の持ってきてくれたお菓子片手に思い出話に花を咲かせるのも楽しいじゃないのー。それとお昼になったら皆でお昼食べに行きましょう」
「そーっすよー。あ、美味しいっすねこのウエハース」
ボリボリとウエハースを齧りながら、ポチポチとスマホを操作している月見里さん。女の子らしからぬその振る舞いはどうかと思いますが。実際ってこんなもんなんですか?
「楽しかったっすよねー。バーベキューの後は花火やって、リビングでパジャマトークもしてまして」
「とんでもないカミングアウトしてくれた人もいたけどねー」
「「ねー」」
「……なんで私の方を見るの二人とも? 違うのよあれは、酔いが回って口が滑ったって言うか……」
戸水さんのことを哀れみの目で見る月見里さんと干場さん。
無論当たり前だが、俺らは高校生で未成年。当然酒なんか飲んじゃいない。飲んでたら大問題どころの話じゃあ済まされない。あくまでも比喩というか冗談だろう。
実際その日の夜。戸水さんだけテンションが別の方向でおかしかったんだよな。
莉亜曰く、どっかのアニメじゃカフェインで酔うキャラがいるそうだが。その基準でいくとあの夜の場合、戸水さんはサイダーの炭酸で酔ったことになるんだけど。
「手が付けられないくらいに騒がしかった」
「水鉄砲突きつけてましたもんねつぼみん。中身空でしたけども」
そんなこともあった。ただの威嚇で済んだだけいい方か。俺が言ったらすぐに収めてくれたし。
「先輩の別荘を水浸しにする訳には行かなかったので」
「なんでそういう考えはまともなのかが私は分からないのだけど」
「普段から煌晴君をいじり倒してるあなたに言われても」
「人をいたぶることに快感覚えてるあんたに言われたくはないわねぇ……」
おい。サラッと喧嘩始めようとしてんじゃねぇよあんたら。今は思い出話をしてるんだ。黒歴史さえ忘れようとしてる忘年会じゃねぇんだよ。
頼むから変な騒ぎを引き起こさないでくれ。マジで頼むから。莉亜は昔っから見ていておっとろしかったし、蕾は秘めたる攻撃性があるし。
「やめだやめだ。落ち着けお前ら。ここを決闘場にすんじゃねぇ」
「大丈夫よ。ケンカは表でやるのが鉄則でしょう?」
「そういう問題じゃねぇんだよ。その発想から捨てろあんたら」
この二人の場合、マジでやりかねないから心配だならねぇんだよ。これ以上俺の胃腸に負担かけないで。お願いします。
好戦的とまでは言わないが、過激すぎんだろうが。
「大変だねぇ煌晴」
「全くだ。なんでこうも落ち着きというか穏やかさがないんだって思うよ」
ウエハースを一枚貰って、シャクシャクと齧る。二人の面倒を見なきゃならんことを考えると、いつになったら心休める時が俺には来るって言うんですか。
「頼むから、あの振る舞いをどうにかしてはくれんものかと」
そう呟きながら、向かい側に座る槻さんの方をチラッと見る。
自分のスマホを操作しながら、右にフリックする度にっこりと笑っている。
あの時の写真を見ているんだろうが、その顔からはあの日がとても楽しかったということをより思い出させてくれる。
彼女みたいに、あの二人がお淑やかであってくれたらと密かに願ってもみる。
「楽しかったわね。一日中皆で遊べて」
「私も楽しかったわよ詩織。みんなもそうだよね!」
槻さんの口からぽつりと出た発言に、賛同する戸水さん。そしてそれに乗っかるように、自分も、私も、僕もと皆が声を上げる。
この部活のメンバーで遊びに行って、たくさんの思い出を作ることが出来た。それがとっても楽しかったんだから。
送られてきた写真を一枚一枚ゆっくりとフリックしながら眺めていけば、その時のことが鮮明に思い出される。そしてウエハースをもう一口――――
「お。葉月ちゃんどうしたのその写真」
「葉月のお兄ちゃんコレクション!」
「……?!」
齧って飲み込もうとした直前で
「うっひゃーいっぱいあるなー。何枚撮ったのよ?」
「覚えてる限りで……ざっと五十枚以上は」
「撮りすぎだろうが!! 累計か、それともまさかあの一日でか!」
「これは……この前の分かな。人様に見せられないような写真はないから安心して!」
「安心して。じゃなくて!」
やっぱりは葉月は葉月だった。平常運転だった。
夏休みになっても、漫画研究部に休みなどなく、むしろ活性化するのだった。それもまた悪くは無いんだが。
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