第91話 意地の張り合い
「もっかいやろーよーもっかーい!」
「若菜は元気ね……」
二セット連取されて負けたってなれば、悔しくなるのは分かります。だけどあなたのその体力っていうか馬鹿力? はどこから来るんですか……。
「疲れました……」「私も……」
葉月と蕾。疲れきって、砂浜の上にだらんと寝転がってしまう。吹奏楽やってたとはいえ、葉月はあんまりスタミナないからなぁ。蕾はそれなりに運動神経あるんだけど、長くは持たないタイプのようで。
あの二人だけではなく、ほとんどのメンバーがそう。ビーチバレーでおつかれのご様子だ。
莉亜は干場さんと、コートの外で横並びで座って休んでるし、薫と槻さんは先に拠点のパラソルの下に退避して休んでる。
砂浜の上を走り、飛び回り。とにかく動き回ってたんだ。俺もあいつらほどではないものの、疲れてしまった。
「ちょっとは休みましょうか。疲れて動けない人ほとんどですから」
「ふみゅー……このモヤモヤはどこに晴らせばいいのかー。こうなったらみんなの水着とかあれとか色々こねくり回してでも……」
何を血迷ったのか、ついにセクハラ発言しだしちゃってるよ。指の動きがふにゃふにゃしてるし、もう完全にキャラブレッブレだよ。
まずいぞビーチバレーで疲れきってしまって止められる人がいねぇぞおい。
「ストップわかちー。セクハラしてたらつぼみんのお返し以上にヤバいの食らっちゃいますよ」
「蕾ちゃんのあれ以上の一撃……それはそれでゾクゾクするものがぁぁぁ……」
これがあの人の通常運転だと思いたくない。
でも幸い動ける人がいて良かった。すすっと戸水さんの背後から近寄った月見里さんが後ろから羽交い締めにして動きを封じてくれた。
これでセクハラ被害は回避された。なんて安心したのはほんの一瞬だけの事だった。
「ひゃうぅ?!」
「水着かっさらって辱めようとか、おっぱい揉みしだこうとか。変な企みしようしてんじゃないんすよねぇ?」
「わかったわかったやめるからやんないから! だから私の胸を揉むのは勘弁してー!」
「んー? 聞こえませんなぁ?」
ぜったいわざとだ。あんな近くで叫んでんだから聞こえてないはずないだろ。実際こっちには聞こえてんだし。
むしろ身体の感触を楽しんじゃってるんだよなあの人。胸から始まってお腹に、そして足へと月見里さんの手がしゅるりしゅるりと伸びていってる。
「わかちー、しおりんに嫌われちゃいますよー」
「その前に私があなたのことをぉぉぉ」
こちらへ被害が来ることはなくなったが、向こうは向こうで勝手に暴走ってかなんかエロいことになってますやん。
「お兄ちゃん……」
「ほっとけ。……むしろいい薬だ」
「戸水先輩にとって、だよね」
「……おう」
本心を言ってしまうなら、いい目の保養にはなりましたけどな。あぁいうのなかなかお目にかかれるもんじゃないんだし。
「まぁそっちはいいやー。それよりもおにーちゃーん。葉月疲れて動けないからおぶってー」
「あのなぁ。パラソル、目と鼻の先だぞ」
ビシッと向こうの、槻さんと薫のいるパラソルの方を指さす。それに気がついたのか薫が手を振ってたからかるーく返してやる。
てかそれはいいとして。パラソルまではさしづめ二十メートルもないだろう。最悪這ってでも行ける距離だろう。
「いくらなんでも歩けるだろ……。」
「いーやー。連れてってくれるまで葉月はお兄ちゃんのこと離さないのだー……」
「子供か……」
「子供だよーだ」
とうとう俺の右足にしがみついて駄々こねてきた。こうされると葉月はキリがなくなる。俺が折れて葉月の要求を受け入れるまではこうなる。
俺だって疲れてんだぞ。どうしたもんだが……って思ったら、今度は左足に何か。
「……蕾。お前までどうした?」
蕾のまで葉月と同じことしだした。そして若干顔を赤らめてこう言う。
「煌晴君……私も」
二人を担いでいけと言うんすかい?! てか蕾までどうした!? 普段は誰かに甘えたり頼ろうとするような奴じゃないってのに。何があったらこんなことになるってんだー。
「待て待て無理無理!」
「無理じゃないよー。どっちかおぶってー、どっちかはお姫様抱っこでー」
「俺の腰が死ぬわ!!」
だいたい40キロと見積ったとして。その二倍の重量を抱えられるわけないだろうが! ボディビルダーでも筋肉マッチョでもないんだ俺は! 普通の高校生だ!
「もちろん葉月は抱っこされるほうで」
「葉月さん……そっちは私が。おぶわれる方がいいんでしょう?」
「確かに最初はそう言ったけど、でも抱っこされたいじゃん! そこは葉月の特等席なんだよ!」
いつからお姫様抱っこは葉月の専売特許になったって言うんだ。いくらで買収した。いつそんな密約を交わした。お兄ちゃん一切知らないからな。
あと張り合わなくていい蕾。どこにそこまで譲れない要素があるって言うんだ。莉亜に勝負ふっかけられた時も思うけど、勝負に興味が無いのか負けず嫌いなのかがわからねぇ。
「仕方ないから運んでやる。ただし一人ずつだ。でないとお兄ちゃん再起不能になる」
「やったー! じゃあ葉月からで」
「私から……」
「もうジャンケンできめろぉぉぉぉぉ!」
これ以上意地の張り合いしとる場合違うだろうが。てかもう、お兄ちゃん休みたい。
「大変だねぇ煌晴。お茶飲む?」
「どうも。全くだ」
二人をパラソルの下まで運んだ後、薫から冷えたお茶をもらってようやく一休みできる。
薫の座ってる方とは反対の方向いてみれば、運んできた二人はぐっすりと寝ている。
「負けちゃったよ。でも楽しかった」
「そうだな。バレーボールなんて、中々できたもんじゃないしな」
「体育の選択であったりしないのかな? あったらやってみたいかも」
二学期の体育は選択みたいだが、何ができるのかはまだ分からない。もしバレーボールがあったのならば、薫同様にやってみたいという気持ちはある。
「それにしても……向こうは元気だねぇ」
「どこにそんだけの体力があるんだか」
海の方を眺めてみれば、ここにはいない四人がきゃっきゃと遊んでいる。さっきのビーチバレーで相当体力は使ったというのに、まだまだ元気そのものだ。
槻さんも一緒になって、向こうで遊んでる戸水さん達を眺めていた。
「ほんとにねぇ。まだやることたくさんあるのに、持つのかしら?」
「あの人らの場合、そんなの関係ないんじゃないですか」
「そうかもしれないわね」
海で遊んだ後、夜は別荘の庭でバーベキューすることになっているのだ。食べ物が絡んでくるのなれば、あの人らなら疲れなんて関係なしに飛びついてきそうだ。
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