第82話 好みとイメージで選ぶべし?

 最後に月見里さんの水着を選ぶことになる。戸水さんや莉亜に色々言われながらも、まずは自分でこれだと選んでいたものにしたようだ。


「それにしても、湊ちゃんは深く悩む必要がなくて羨ましいわよ」

「いやいやー悩みますってー。どんなのデザインにしようとか、値段とか」

「そういうのじゃないのよ」

「じゃあなんです」


 月見里さんが聞き返すと、戸水さんはため息ひとつ吐いてからしおらしそうに答えるのだ。


「だって湊ちゃん背も高くてスタイルいいし。何着たって似合うじゃない」

「確かによく友達からも言われますけども」


 今この中にいる女子の中でなら、月見里さんが一番背が高い。今は水着を着ているぶん、それだけスタイルもすらっと見える。


「私なんて最近お腹周りが……」

「そんな悩むくらいには見えませんけど」

「そ、そうですよ。戸水先輩だってお綺麗ですよ」

「夏休みが始まるーってもんだから、最近イラスト描くのに気合い入りすぎちゃって。徹夜することがしょっちゅうだったから……」


 違いなんて俺には分からないけどな。てか男があんまり女子の身体をジロジロ見てると失礼だし。


「夜食が増えたんすねー。太るだけじゃなくて、肌荒れますよ」

「わかってるわよぉー。でも作業に熱が入ると時間のことなんて全く頭に入らなくなるのよー」

「わかりますわかります! それでふと時計とかスマホで時間確認したら、とんでもない時間になってるですよ!」

「そうなのそうなの! やっちまった私ー! ってなっちゃうのよ!」


 熱中して他のことに意識が向かなくなるのは分かりますけども。なんにしても夜更かしは良くないですからね。


「いやいや。気をつけてくださいよ」

「夜更かしは……身体に悪いですから」

「同じモノ描きの蕾ちゃんには共感してもらえないのかぁー……」

「あんたもこっちの住民だと思ったのになぁ……」


 勝手に引きずり込もうとするんじゃありませんよ。蕾はその辺の管理ができてるってことなんだから、悪い方に引きずり込んじゃあダメでしょう。


「それよかわかちー。この水着はどうなんすか」

「いいんじゃないかしら? てか何着ても似合うからどれを選んだらって感じなのよ」


 今試着しているのは、オレンジのホルターネックだ。他にも黄緑の三角ビキニとか白のフリルが付いた水着とか色々持ち込んでいたけど、選ぶのには時間がかかりそうだ。


「わかちー達的にはどれがいいと思いますかね」

「私は今着てるやつ?」

「葉月はそっちの緑のやつ。月見里先輩がすごくセクシーに見えます」

「私も葉月ちゃんと同意見で」

「そうすかそうすかー。つぼみんとこうちんはどれがいいと思いますかねー?」


 戸水さん、莉亜、葉月と来て次は俺らに質問が振られる。この流れで来るとは思ってたけど、どれも似合ってたから一つに選ぶのが難しい。


「どれがですか……。自分の中で一番気に入ったもの選べばいいと思いますけど」

「そういう回答は女の子困らせるんすよ。とにかく自分の中で一番気に入ったやつを選ぶとかでもいいんすから」

「選べないんだったら……。自分の彼女に着て貰うなら、どれを一番着て欲しいかを考えるのよ!」

「なんか……その……」


 要は自分の好みで選んじゃっても全然大丈夫だよ! ってことなんでしょうけども。でもこれまで彼女できた経験もないからなぁ……。

 莉亜と葉月は幼馴染と妹だから、そういうのとは違うし……。


「じゃあ蕾ちゃんに着て欲しいやつで考えたら?」

「どうしてそうなるんですか?!」

「だって最近から名前で呼び合うようになった仲じゃないの。そういうことなんじゃないの?」

「理由なら前に話したじゃないすか。それにまだそういうのじゃないんですって」


 蕾だってまだそんなに深い関係じゃない。

 なんて思ってたら、横にたってる蕾がクイクイって服の袖を引っ張ってきた。なんか言いたいことがあるみたいなんで、少し屈んで聞いてみれば。


「その……どうなのかなって」

「何が」

「煌晴君だったら、どの水着だったら……気に入ってくれるのかな……って」


 最近思うことがある。隙を突いてというか、いざってときの蕾はすごくグイグイ来るなぁって。元のオドオドした性格とはまるで違うとまでは行かなくとも、積極的になってるから。


「俺だったら……その白いのですかね」

「ほうほうなるほどなるほど……」

「変な意味とかではなく。そういうのもありかなーと思ったので」


 デザインのこととかはよくわかんないけども。

 内心言ってしまえば、戸水さんにあぁ言われて蕾に置き換えて考えてみた時に、それが一番似合うんじゃないかと思ったからであって。


「そーすかー。見事に意見割れちゃいましたかー」

「それだけ何着ても湊ちゃんが魅力てことなのよ。なんでだかなー、羨ましいなー」

「私にどうしろって言うんすか。オススメの化粧品でも紹介すればいいんすか……」

「素で勝ちたーい」


 そこはいくらなんでも無理難題な気がします。誰か友人を尋ねる前に病院を訪ねてください。


「だったらお兄ちゃんが言ってたみたいに自分の一番気に入ったものがいいんじゃないですか」

「そうっすかー。これでも何とか選んだ方なんすけど、迷いますねー」


 試着し直すということまではしなかったが、自分の身体に当ててみては鏡と俺たちとを交互ににらめっこすること十分弱。葉月と莉亜がいいと言った黄緑の三角ビキニに決定したようだ。


 その後は少し悩んでいた戸水さんと蕾の方も時間は掛かりつつも無事に決定した。思ったよりも時間がかかったので、横道にそれなくて本当に良かったと思っている。


 水着を選ぶ前に戸水さんが遅れてきたこと。カフェでまったり休憩していたこともあって時間も押していたので、水着選びが終わったらそのまま解散となった。

 いつ行くのかについては、また部室に集まって皆の予定を確認してから決めると言う。月見里さんはなるべく、できるだけ早く行きたいってはしゃいでいた。


 そういや帰りの電車を待っている間。莉亜が喉乾いたからって言って、近くのコンビニで牛乳買ってたけど……。効果あるのか知らないし、飲み過ぎには気をつけろよ。

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