第81話 キャラに似合った装いを?

「そんじゃあはづちーとりあちー、それでいいっすかね」

「はい! 素敵なの選んでくれてありがとうございます!」

「すごいです。見た目だけじゃなくて、お財布のことまで考えてるんですから」

「そうなのか?」


 詳しく聞いてみれば、デザインはもちろんのこと、高校生でも手の伸ばしやすい価格設定も考え込まれてるんだそうで。やりくり上手とはおそれいる。

 そんな俺と莉亜の会話を聞いていた月見里さんがさらに言うに、お高いものには手が届かないから、出来る限りでとことんこだわりたいんだとか。


「じゃあ測定も終わったみたいですし、今度はわかちーとつぼみんはですね」

「ねぇ湊ちゃん。あの後店員さんにオススメ選んでもらったから、そっちも試してみてもいいかな?」

「もちろんっすよ。どんなやつっすか」

「こっちの黒のヤツで……」


 向こうの方で戸水さんがわいわいと話しているが、蕾はそこから少し離れたところでモジモジしたままだった。


「どうかしたのか」

「あ……煌晴、君。店員さんのアピールというか、売り込みが凄かったから……」

「あぁ。服屋とかこういうとこの店員さんって、特にこっちから用がなくても話しかけてくるもんだからな」

「うん。そういうの……苦手だから」


 向こうとしては、とにかく一点でも売り込みたいという気持ちがあるのだろう。しかしあんまりにもグイグイ来られては困る時がある。自分一人でゆっくり見たいという気持ちもあるし、なんかあったらその時は自分で呼ぶから、それまではそっとしておいて欲しいというのが自分の意見だ。

 蕾の場合はグイグイ来るタイプが苦手だろうし、人見知りなところがあるから上手いこと断れないんだろうな。


「それよか水着はいいのか?」

「そこは、月見里先輩に聞くことにする。あの店員さんと似たタイプ……だけど、知ってる人だからまだ気が楽」

「そっか。それに月見里さんなら、無理に勧めてくることもないからな」

「つぼみーん。早くこっち来てくださいよー。どんなのご所望っすかー」


 ちょうど月見里さんが呼んでいる。ここから先は彼女に任せよう。


 葉月と莉亜が私服に着替え直す頃には。蕾と戸水さんの水着選びが終わっていた。これから二人も水着に着替え、感想を聞かなきゃならない。


「今度はどういうのを選んだんですか、月見里さん?」

「まーそれに関しては見てからのお楽しみってことで。こうして期待させておくもんすよ」

「待つ側としては気になるんですけどね」

「男の子ってなんか落ち着きないんすよねー。確かに女の子はあれこれやること時間掛かるけども。ちょっとは多めに見てもらいたいもんすよ」

「そういう経験があるんですか」

「仲のいい男の子って皆そんな感じなんすよ」


 月見里さんが続きを話そうとしたところで、試着室の方からこちらを呼ぶ声が聞こえてくる。


「湊ちゃーん。着替え終わったよー」

「あいあーい。つぼみんはどうすかー」

「あ……はい。大丈夫、です」


 試着室に入った二人の着替えが終わったようだ。早速お披露目……と行こうとする前に。


「ねぇ煌晴」

「なんだ莉亜……って」


 莉亜が呼ぶもんだからその方を向いてみれば、さっき戸水さんの持っていたスケッチブックを今度は彼女が持っていた。


「なんでお前がそれ持ってんだ」

「試着室出る時に渡されたのよ」


 さっきのみたく、また選択肢が書かれているんだけど。



☆才色兼備でカッコ可愛く、みんなに優しい頼れる部長から

 物静かなクラスメイトから



 戸水さん。あんたの方だけ属性盛り込みすぎじゃあないですか。さっきまでのとは明らかに情報量が段違いなんですが。

 あれか。自分をより高く上げて他を下げ、自分がめっちゃ可愛いみたいな感じにしてるそんなあれか。


「なんですそれ?」

「戸水さんの悪ふざけです。ほっといて貰えると」

「それは無いでしょー大桑くーん」


 なんか言ってるけど出来れば相手したくない。これ以上この人のノリについてこれる気力がなさそうなんで。


「下のはつぼみんとして……上わかちーっすよね。こんなんでしたっけ?」

「本人が勝手に盛ってるだけなので」


 さっきは選択肢なんぞに興味はないとは言ったが、今回ばかりは違う回答で即決だ。


「先に蕾のからで」

「だそうですー。戸水せんぱーい」

「らしいっすよーわかちー」

「なんでだよぉぉぉぉ‼」


 そしたらいきなりカーテン全開にして叫びだす戸水さん。クリーム色のホルターネックの水着だ。

 いきなり声上げて出てきたもんだから、近くに立っていた葉月がビクンとなってる。


「上選びたくなるもんじゃないの?!」

「そこに至るまでの自己評価で決まりますね」

「気になるキャラじゃないの?!」

「あんまり盛り込まれるとキャラが定まらなくなるじゃないすか」

「莉亜ちゃん的には?」 

「なんか……先輩のキャラじゃない気がします」

「……」


 三人でこうもはっきり言われれば、ドMの戸水さんといえど心にはかなり来たようで。一気に力が抜けてその場にうずくまってしまった。


「お兄ちゃん。どうするのこれ」

「葉月、しばらくそっとしといてやれ」

「しおりんならこういうっすよね。若菜にはいい薬よって」

「言いそうですね、槻先輩なら」


 そして仮に槻さんがいたら。という想像に納得する。あの後月見里さんが近寄って聞いてみたら、とりあえず店員さんチョイスの方も着てみるとの事で。



「あの……私は、どうしたら」

「あぁすまん。こっちで勝手に盛り上がっちゃいまして」

「盛り上がったというか、勝手に戸水さんが自滅しただけだと思いますけど……」


 それで場の流れ持ってかれてたから、蕾の方から切り出しにくかったわな。すまんかった。


「何が……」

「気にすんないつもの事だ。それよかどんなのなんだ」


 そしたらゆっくりとカーテンが開いて、中から蕾の姿が見える。彼女の髪の色に似たピンクの、ワンピースのような水着。


「露出はあまり多くない方がいいと言うので、こういうタイプにしてみました」

「これでも十分……恥ずかしいです」

「どうすかねこうちん」


 まず俺に振りますか。えぇと、なんと言えばいいのやら。


「蕾らしいくて、よく似合ってると思う」

「てかあんた……そんなにでかかったっけ」

「つぼみん着痩せするタイプですから」

「マジかよぉ……」


 少しづつではあるんだけど、莉亜にダメージが蓄積されていってる。

 男の俺にはわからんが、やっぱり周りと比べて大きさとかそういうの気になるんだろうか。

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