第75話 掃除と断捨離
まだブーブー言ってる先輩は二人いるが、そんなことはお構い無しなのか聞く耳持たずなのか。槻さんの指示で作業は進められていく。まずやるべきことは。
「まずは不要なものとそうでないものとを選別するところからね」
「この棚の中、前よりさらにモノが増えてるような気がするんですけど……」
棚の引き戸を開けただけでも、かなりごちゃごちゃしてるのが伺える。
「私も偉そうに言える立場じゃないけど、みんなが色んなものを置いていくからどんどん溜まっていくのよ」
「上はともかく、下の方は整理もひったくれもないですねこれ」
上の方はファイルに綴じられた書類とか本が仕舞われていて、下の方は研究資料という名の雑貨やガラクタが押し込まれている。
「さーて上から見ていきましょうか」
「見たところ上はそんなに散らかってはいませんよね」
「それでも、もう要らなくなった書類が紛れてることもあるから」
槻さんが棚のファイルと本を取り出し、一つずつ確認していく。そこそこ量があったように見えたが、こちらの選別作業はすぐに終わる。
「なんか、意外に早く終わりましたね」
「しおりん几帳面っすから」
「湊は大雑把だからすぐに散らかすけどね」
「そうよねー」
「若菜もよ。さてとここからが問題ね」
「いっぱい出てくるよりあ姉」
「まだ奥の方にも色々あるわよこれ」
葉月と莉亜が中のモノを取り出しているが、出てきたもので小高い山ができている。
「此度もまた大量に。贄が溢れてきたではないか」
「今回は何が出てくるんでしょうね。ほとんど若菜の私物なのは予想がつくけどね」
「これ全部がですか?」
「全部……では無いかもしれないっすけど、七割くらいはわかちーなんじゃないすか?」
「七割は言いすぎよぉ。多分……五割くらい」
「「「それでも多い」」」
二年総勢での戸水さんでのツッコミが入る。たしかに半分でも多い。私物持ち込みすぎなのでは。
「量はともかく、早いこと仕分けませんか?」
棚の前にこんもり盛られた研究資料というかガラクタというか。
「これだけあると、仕分けるのも大変そうだけどねー」
「それにしても、どうやって入ってたんだろう」
薫と蕾は、このゴミ山を前にして空いた口が塞がらずにいる。
「まず確実にゴミだってものは分別してこっちの袋に。怪しいものについてはテーブルの上に置いといて」
「「はーい」」
「でもって残りはそっちに避けて、若菜に選別してもらうから」
適当に積み上げられたものだ。下手に引っ張り出して崩れようものなら大惨事だ。崩れないように、上から慎重に手に取り選別していく。
テニスボールに空のペットボトル。コードの絡まったイヤホンにボールペン……。必要なモノなのかガラクタなのか。俺には区別がつかん。
「なんか取り出す度に別のもんが出てくるような気がするんですけど」
「沢山あるよねー……ってお兄ちゃんそのペン見せて!」
「あぁこれか。ほれ」
さっき取りだした青いボールペンを葉月が見せてくれと言うので、葉月に手渡す。
「間違いない、これ前に無くしたやつだよ。見つかってよかったー!」
「そっか。良かったな」
「ありがとぉーお兄ちゃーん!!」
俺のおかげってもんではないと思うが。まぁ無くしたもんが見つかったならいいことか。
「だいぶ減ってきたよ」
「これ……ほんとに整理できんのか」
「戸水先輩、いつも色んなものを持ち込んでくるからね。あ、今度はハンカチが」
薫が手に取ったのは白いハンカチ。あの中に埋もれていたからか少し汚れてはいるが、なんだかお高そうな感じがする。
「あ、それ私の」
「そうでしたか。どうぞ」
「ふっはははは………よもやこんな所で再会しようとはな。これも我が導きによる天命と言うところか……」
まさぐっていけばゴミの他に、誰かの私物が掘り返されることもある。干場さんのハンカチの後には、俺が前になくした消しゴムが出てきたし。ほんとにどうなってるんだこの棚の中。
二十分ほどして、ガラクタの山の整理がひとまずは完了。
この後は、整理したモノをいるモノかそう出ないものかを選別しなければならない。
「さてと。棚の容量も有限。何でもかんでも取っておくって考えは無しよ若菜」
「えぇー」
「えぇーじゃないの。明らかにゴミだったものと、他人の私物を抜きにしても、これはいくらなんでも多すぎる」
こんもりあった山の六割くらいが残っている。ほとんどは戸水さんの私物なもんで、最終判断は本人に委ねることとなる。
それにしてもでてきたゴミの種類が色々ありすぎて。ティッシュの空き箱に使用済みの封筒。削りに削って超短くなった鉛筆に破れたうちわ。
ちなみにうちの部室にゴミ箱は置いていない。すぐにゴミが溜まるから置かないことにしたと月見里さんは言うが、どの道ゴミが別の場所に溜まっていることには変わらない。生ゴミとかお菓子の袋がないだけマシな方なんだろうか。
「こっちはいるやつで……これはもういいや。それでこれは……」
「それにしても、どんだけあるんすか」
「これで半分だからね。それにまた仕舞い直さないといけないのだから」
戸水さん自ら整理をつけていく。いるものの方にやたら仕分けているような感じだが。このあとまたすぐに溜まっていかないのだろうか。
「みんなは真似しちゃだめっすからね。後々困るのは自分ですから」
「そうですね。なんかこうしてみると、すごい置き勉してそうですし」
「まさしくっすよ。この前わかちーの玄関ロッカーちらっと見ましたけど、教科書いっぱいでした」
やっぱりか。そういやこの前莉亜のロッカー見たけどこっちも結構色々詰め込んであったし。漫画描く人ってみんなこうなの?
「男子は結構置き勉するって言いますけど、こうちんはどうなんすか」
「俺は折りたたみとか体育のシューズとか、最低限のものしか入れてませんので」
「そうそう。煌晴のロッカーってスッキリしてた」
「ふわぁーやっと終わったよー」
「それでもかなりあるけどね。全部とは言わないから、少しは持ち帰ったら?」
「そうするつもりだよー……」
そんなこんなで話してるうちに戸水さんの仕分けは終了。半分くらいは捨てることになり、残りは棚に戻されることになった。そのまま放り込んでるけど、またぐちゃぐちゃにならないように籠でも使って仕分けた方がいいのではと思う。
その後は部室のホコリを掃いて、床やテーブルをよく拭いて。それほど広くない部室で人数もいたので、棚の中身の仕分けの後は三十分で掃除が完了した。後は出たゴミを校内の指定の場所に持っていけば完了だ。
誰が持っていくかについてはじゃんけんで二人決め、干場さんと莉亜が持っていくことになった。
「それじゃあことも済んだことですしー」
「そうですなー。というわけでー」
「「今度こそ夏休みの計画立てよう!!」」
掃除が終わり、戸水さんと月見里さんは掃除を始めるよりもテンションが上がっていた。
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