第58話 お疲れ様でした!

 全ての片付けを終えた俺達九人は。


「さてと。それじゃあ改めまして、若菜からご挨拶頂きましょうか」

「ぱちぱちー。わかちーお願いしまーす」


 これから集まって戸水さんのご挨拶を聞くことになって。


「えーっとまずは。元々は私の個人の活動だったこのサークルの手伝いをしてくれて、どうもありがとう」

「そんな社交辞令みたいなお堅い挨拶しなくてもいいっすよわかちー」

「お偉い方の集まるパーティじゃないんだから。そんなに固くならなくてもいいのよ若菜」

「此度は余興。皆、無礼講といこうではないか」

「そ、そう? じゃあいつも通りのテンションで……コホン」


 普段とは違う振る舞いに対して野次を入れる二年組に言われてか、一回咳払いしてから仕切り直しする戸水さん。


「まずは皆お疲れ様! お陰様で大成功だったと私は思います!」

「ひゅーひゅー」

「初参加で不安なこと多かったけど、そんな心配なんか吹き飛ぶくらいに楽しめました!」


 本日の即売会は無事に終了。サークルでの参加はこの一日だけだ。これで一区切りとなる。


「そんなわけで……まずは皆さんお疲れ様! まぁ私、この後やらなきゃいけないこととかはあって、正直なとこそんなこと考えたくはないんだけどねー」

「それぶっちゃけちゃいますかわかちー……」

「だって考えたくないもん! 書かないといけない書類たくさんあるもん!」

「ま、まぁ気持ちはわかるわよ」


 本人曰く、イベント終わった後もやらなきゃ行けないことは多いらしい。詳しいことについては、俺らには全く分からんが。


「これ。僕達もなんか乗っかった方がいいですかね?」

「あ、完全に二年だけで盛り上がっちゃってた。ごめんごめん」


 薫がやっとこそ発言したのが、今ようやっと一年の発言となった。なんて言うか割り込んでいいものか悩ましがったもので。


「それじゃあこっからは先輩後輩も関係無しで。姫奈菊ちゃんの言う通りに無礼講と行きましょうよ!」

「おっしゃー!」

「それじゃあ皆さん、今日は一日お疲れ様! 乾杯!」

「「「「かんぱーい!!!!」」」」


 今日の即売会を終えた俺たち漫画研究部は、ファミレスにて打ち上げを開催していた。


「こういう時、SNSの投稿だと焼肉とか豪勢な食事の写真あげること多いっすけどねー」

「私ら流石に高校生だから、そこまでの懐の余裕はないけどねー」

「そうだよねー」

「この中で一番お財布ふくよかなあんたに言われてもねぇ……」


 干場さんからの冷静なツッコミが入る。確かにこの中に一人、名家のお嬢様が混じっているんですから。


「お金持ちだからって、なんでもホイホイ買うほど財布の紐が緩いわけじゃないのよ。誰かさんとは違って」

「ぐっ……。ど、どれもこれも我にとっては必要なものなのよ。無駄なんてものは存在しないのよ!」

「この前何買ってたの? 勧誘の時に付けてたマント?」

「あれは元から持っていたやつ。前買ったのは……」


 どうやら性格が、お金の管理にも現れているらしい。干場さんが大雑把なのかズボラなのかは知らんがな。


「まぁお金の管理はともかく。焼肉ってなると、豪華だから、やりきったーって感じがするじゃない」

「そうですよねー。そういうの見てると、なんだかヨダレ出て羨ましくなってきます」

「今日はいきなりだったから焼肉は難しかったけど、今度やる時の打ち上げは焼肉にしよっか!」

「はいはーい! 葉月さんせーい!」

「私も葉月ちゃんにさんせーい! そして煌晴もー!」

「反対とは言ってないが、勝手に俺の意見として扱うな」


 何かやったあとで美味いものが食えるのなら、反対する理由なんてないけどさぁ。その場のノリで勝手に俺の意見として取り上げるのは無しで。


「焼肉かぁ。探してみれば学生の財布にも優しいところはあるっすかねぇ」

「探してみましょうか。でも焼肉の話はこれくらいにしとこうか。今日は即売会の打ち上げなんすから」

「そうそう。思えば薫ちゃん、すごく注目されたのよねぇ」

「あっちこっちとカメラを向けられてね。ほんとに凄かった」


 今度は薫のコスプレの話になった。


「ちなみにですけど……槻さん」

「何かしら?」

「何も言われずに薫をすぐに男だと言い切った人、どれくらいいました?」

「……皆女の子だと思い込んでた」

「でしょうねー」


 今日客として来た篤人の友人だってそうだったし。こういうイベントって、女装してのコスプレ参加は珍しくないそうなんだけど、大抵そうだなってわかるものが多かったりもするらしい。

 相当な完成度だとバレなくもないそうなんだが、薫の場合は元からがやばいんでな。


「へへへー」

「薫はもうちょい……いやいい」

「言っとくと、最後までバラしてないよ。桐谷さんにも口を固くしておくように言っといたから」

「あーそうですよねー」

「どうか、しましたか大桑さん?」

「いえ何も」


 槻さんの知らないところで、一人の男が一度は絶望に叩き落とされたことについては、言わないことにしておこう。


「ならいいのだけど……あ、ジュース無くなってた」

「なら我が行って来ようではないか」

「姫奈菊はなんか変なブレンド作ってきそうだからダメ」

「じゃあ私が」

「湊は悪ノリしそうだからダメ。自分で行ってくる」

「あ。葉月も行きます」

「私も」



 槻さんと葉月、宮岸がドリンクバーに向かうために席を外した。

 話が少し落ち着いたところで、今日これまでの事とこうして今楽しく打ち上げをしていることについてを考えてみる。そんなところで戸水さんが話しかけてきた。


「今日は楽しかった? 大桑君?」

「えぇ。初めてのことで色々大変なことありましたけども、やってみると楽しいもんでした」

「そっか。なら良かった。こっそり莉亜ちゃんから聞いたけど、一緒に回ってて楽しかったって」

「……そうすか」


 俺自身あっちこっちに連れ回されて、ゆっくり楽しむ余裕もなかったんだけどな。

 でも莉亜が楽しかったというのなら、それでもいいか。


「またこういうこと、やるんですか?」

「機会があればね。この辺じゃそういうイベント少ないから、年内だと難しいかもしれないけど」

「その時はまた。ですか」

「えぇ。猫の手じゃなくて、皆の手を借りる!」

「堂々と宣言しちゃいますか」


 戸水さんのサークル参加による初めての即売会。漫画研究部一同で成功させた一大イベントであった。

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