第51話 驚きの完成度
コスプレをしているってのもそうなんだけど、驚くべきは他にもいろいろあった。
まずはその完成度。ネットで見るような精巧な作り込みがされている。
でもってこっちの方が驚きとして大きいわけなんだけど……。薫は女装かい。
それぞれがコスプレしているキャラなんだけど、今回の題材がSBMということもあり、二人ともそれに登場するキャラ。
干場さんは天使のウリエル。SBMのリリース当初から実装されているキャラで、今でも根強い人気を持つキャラだ。この前アプリ内で行われた人気投票では五位に入った。
対して薫の扮しているキャラは、北欧神話に登場する三姉妹の女神の一人であるスクルド。先月のイベント時に実装されたばかりのキャラで、見た目の幼さとそのギャップからくるバブみが人気を博している。
この二人のキャラは、どちらも今回の新刊に登場している。槻さんに聞いてみれば、二人にはこれで会場内を練り歩いての宣伝をしてもらうんだとか。
「前になんか頼まれたって言ってたのはコレだったのか」
「そうだよー。当日に皆を驚かせたいから内緒にしてくれって言われててねー」
「まぁそうだがお前は……ってやっぱいいやなんでもない」
薫に少しは抵抗は無いのかって聞こうと思ったけど。無駄だって直ぐに気づいた。
入学式の時に自分のことを可愛いかどうか聞いてくる奴だし、この前だってスーツのスカートをはくことになんの抵抗もなかったし。
そんな薫に今更女装に対する抵抗とか嫌味を聞いたところで無意味なんだから。
ひとまず今は薫にでは無く、槻さんに。色々聞きたいことがあるので聞くことに。
「それにしても槻さん。コスプレ衣装作るってなら、言ってくれても良かったんじゃないですか?」
「それも考えたんだけどね。でも若菜がサプライズって言うからそれに押されちゃって」
「もう少し面と向かってもよかったのでは。衣装作るのだって楽じゃないですし」
「それがそうでもないんだってー」
俺の問いに対して答えてくれるのは槻さんではなく薫であった。
「この服、槻先輩が作ってくれたんだよ。裁縫が得意でこの服の材料、家に余っていたものを色々と再利用して作ったんだって」
「それでこの完成度なのか……」
余り物といえど、槻さんの家であれば服飾の道具や材料については潤沢なんて言葉では足りないレベルで揃っているような気がする。なんせいくつもブティックを抱える家柄なんですから。
「色々再利用してるから、一から作るよりも費用も時間も抑えられてるの」
「お嬢様なのに、こういう所はやりくりするんすね」
「使えるものはとことん使う。それがうちの信条なのよ。節約って悪いことじゃないでしょう?」
お金持ちってお金の管理には厳しいみたいなことは聞いたことあるけど、どうやら本当みたいだな。
「衣装を作ろうってなった時、若菜が絶対似合うからって桐谷さんを推していたんだけど、こうして着せてみるとホントすごい似合ってるの。若菜の見立てってすごいのね」
「そうそう。ウィッグとかパッドとか、一切使ってないのよ」
「うわぁやべぇ」
女装をするというのに、服を着せるだけで成立してしまうのはこれ如何に。
しかも今回の衣装って普段着に比べれば露出が多いんだけど、それでもなお男がコスしてるとは思えん。
俺達は薫が男であるということを知っているけど、知らない奴が見たら元が男だって誰も思わないだろうな。
「すごいよねーりあ姉。このヒラヒラとか、髪飾りとか。ゲームのやつそっくり」
「ほんとだねー。あ゛ぁー。この前のピックアップで引けなかったの思い出した、つら……」
「知るかよ……」
「桐谷さん、怖いくらい似合ってる」
莉亜の愚痴はどうでもいいとしまして。一年皆で薫のコスプレを賞賛していた。
「おいおい……私は放置か。まぁ無理もない。このドレスから禍々しいがまでの力が溢れてくるのでな。近寄り難いと言うのであろう」
「え、あーごめんごめん。薫ちゃんの方に食い入っちゃっててすっかり忘れちゃってて」
「……そういうマジな反応されるとなんか辛いんだけど」
そこはその……ごめんなさい。薫がもう完全に女の子してるからそっちのインパクトが強くて。
「よく似合ってると思いますよ。かっこよくて」
「そ、そうであろう。我にふさわしいこのドレスを仕立てた詩織には感謝の言葉では到底足りぬな。そなたよ。欲するものがあるのならば我が叶えてしんぜようぞ」
「あ。そういうのはいいや。お気持ちだけ受け取っておきまーす」
「……釣れないなぁ」
対応がドライなのか。それともそこまでしなくたってお礼の言葉さえ貰えれば十分だと言うことなのか。槻さんの真意は果たしてどちらなのか。
そしたら今度は莉亜と葉月が干場さんの方に近づいて、干場さんのコスプレを吟味するように眺めてからテンションを上げて言う。
「干場先輩らしさが出てると思いますよ! ウリエルってかっこいいキャラですし!」
「そ、そうですよ。葉月もそう思います!」
「そこまで褒め讃えててくれなくても良いのだぞ。しかし悪いものでは無い。もっと盛大に我を讃えるといい!」
「よっ、干場先輩!」
「かっこいいです!」
気遣いなのかノリノリなのか。莉亜と葉月で干場さんを持ち上げていた。向こうは向こうで楽しそうだしいいか。
「干場さんって……単純?」
「俺にはわからん。向こうは楽しそうだしそっとしといてやろうや」
宮岸の考えることは、俺と似ているようだ。呆れって意味で。
「はいはーい。もうすぐイベント始まるから、みんなこっちこっちー」
気づけば一般入場開始の十分前。そろそろ、いつでも動ける用意をしなくてはならない。
「設営も終わったわね。それじゃあ皆、今日は一日頑張ろっかー!」
「おー!」
イベント開始に向けて気合いを入れたところでそれぞれ持ち場についた。
それから数分後。場内に放送が鳴り響く。
「まもなく一般入場を開始いたします。参加者一同、今しばらくお待ちください」
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