第46話 張り切っていきましょう
「面白いです!」
「これってこの前言ってたやつですよね」
戸水さんが来てからは話題の中心は持ってきたサンプルになった。
「製本するのは初めてだったけど、上手いことできてて良かったよ。直ぐにSNSにも何ページ分かはあげたんだけど、こっちの反応も上々でさぁー」
戸水さんは嬉しそうにスマホの画面を見せてくる。
今度のイベントで出す新刊のサンプルを公開しました! という内容の投稿で、一部抜粋されて紹介している。
『皆とても可愛らしいです!』
『ヴァルキリーがキャラ崩壊起こしてて草』
『地元から遠くて行けないのが残念です。委託してくれませんか?』
『絶対買いに行きます!』
等々。フォロワーからの反応はかなり良いようだ。
「良かったですね」
「ありがと。大桑君はまだ読んでないでしょ。ほらほら遠慮せずに」
「では……お言葉に甘えまして」
戸水さんと話をしているうちに他人達はサンプルを読み終えていたようなので、最後に読んでいた薫からそれを受け取ってゆっくりと椅子に座って読んでいくことに。
まずはSBMに登場するキャラたちによるコメディ漫画。
このゲームには主人公のサポート役としてカルラというキャラが居るんだが、その娘が色んなことを体験してみたいと言い出したことから今回の話は始まる。
同人誌お決まりのご都合主義によってカルラたちが色んな体験をするというものだ。
簡単に言ってしまえばパロディストーリー。この前俺たちが、槻さんの御屋敷でマフィアパロのネタ集めをしていた時のこともネタの一部として盛り込まれていた。
もう一冊はこれまでSNSにて公開していたイラストをまとめたもの。それらに加えてこの同人誌限定の書き下ろしイラストも何枚か掲載されているとの事。
二冊とも読み終えて、戸水さんにそれを渡して感想を述べる。
「面白かったです。キャラの特徴がしっかりとコミカルに表現されてて」
「そうでしょそうでしょう!」
皆から褒められて嬉しそうだ。いや、この人の表情を見れば嬉しいのは確実だ。
戸水さんはサンプルの同人誌をスクールバックにしまってから、今度はこう言った。
「あ、そうだ。ちょうどいいから当日のことに着いて色々話して置かないとね」
「も、もうですか? まだ十日あるのにですか」
「いやー私って結構忘れやすくてねー。早いうちに言っておかないとそのまま言わずじまいになっちゃいそうな気がしてねー」
「お、おう……」
「若菜っていつもそうだからねー……」
聞いてみればこの前、明日やろうって言っていた会議のことを完璧に忘れていたことがあったとかなかったとか。
槻さんがそういうってことは、おそらく事実なんだろうなぁ。
「それで連絡事項というのは?」
「当日の朝について。集合を現地にしようか駅にしようか考えてて」
「産業展示館でしたよねー。てか場所どこだったっけ?」
「私調べて見ますねー……。っとー、高速道路の向こう行ったところですね。学校からは結構遠いですね」
スマホで場所を調べていた莉亜が皆にその画面を見せてくれる。今度開催される即売会の会場となる展示館の近くには高速道路と球場がある。
「一応近くまで行けるバスは駅の東口から出てるのよ」
「近いって人は直接行ってもいいし、もし分からないとか遠いって人は、駅に集まってくれれば私が町居さんに頼んで拾ってあげようかと思ってるの」
「町居さんって、この前リムジン運転してくれた人、でしたよね」
「そうそう。私の御屋敷の専属ドライバーの一人なの」
さすがに名家の御屋敷ってなればメイドさんや執事以外にも、そういうお役職の人もいるもんなのか。そもそも名字が違う時点でお世話役の人か。
「なるべく大勢で固まって動いた方が、俺はいいと思います」
「私はどっちでもいいんじゃないっすか。近いなら直接行っても」
「僕は行き方がよく分からないので、助力をいただけるなら、お言葉に甘えたいです」
「色々分かれるわね」
これだけ人がいれば、意見も様々。
「それじゃあ基本は、八時に現地集合にしましょう」
「もし生き方が分からないって人がいたら、七時半までに駅の東口の駐車場に来てくれれば拾ってあげる」
「ありがとうございます槻先輩」
ひとまずは当日の集合のことについては決定した。それにしても八時に集合かぁ。時間に間に合うようにしないとな。
「こんなに早くに集まらないといけないんですか?」
「一般開場は十時からで、もっとあとになるんだけど、今回私たちはサークル参加。早くに来て色々と準備をしないといけないのよ」
「そういうのを見ていると、設営完了しました! ってのよくありますけど、朝の割と早い時間なんですよね戸水先輩」
「そうねー莉亜ちゃん。人数はいるけど、早め早めに行動しておきたいのよ。初参加ってのもあるからね」
「そういう事ですか」
その後、戸水さんから以前に一般客として即売会に参加した時のことを話してくれた。気合い入れて、開場の二時間も前に会場に着いたそうだが、そのくらいには参加サークルの面々がいそいそと準備をしていたんだと言う。
これで前日までにこちらでできることはほとんど片付いた。後は当日に向けて一致団結していこうと、サークル主の戸水さんからお声かけが入る。
「後は気合い入れるだけだね!」
「そうねー。後は寝坊しないようにねー」
「……それ今言いますかー詩織ー」
あっさりとしつつも鋭い槻さんの発言に、オロオロしだす戸水さん。最後の心配がまさかの寝坊とは、これ如何に。
「去年なんて何回遅刻したのかしらねー。一回、二回三回……」
「数えないで?! 指折りながら数えないで!」
「遅刻常習犯……」
「湊もやめて、お願い!?」
どうやらそっち方面でも相当な曲者だったようだ。
「大丈夫! 最近はスマホも含めてアラーム十五分ごとになるようにしてるから!」
「うわぁー、それってなかなか起きれない人がよくやるやつっすねー。それで結局起きられないのが……」
「ちゃんと起きてるから! 三回目くらいだけれども! でも寝坊はしてないから!」
起きれているならいいような気もするが、三回目ってことは、少なくとも三十分は延長で寝てるってことだよな。それを果たしてちゃんと起きていると言ってもいいのだろうか。
「汝が望むなら、我が魔力にて施しをしてやっても良いのだぞ?」
「あ、結構です」
「いけず!?」
その後はわちゃわちゃしたりドタバタしたり。何を目的とする訳でもなく騒いでいた。
「やっぱり先輩たち面白いよねー」
「そうだねーりあ姉」
「すごく、個性的」
「こういう先輩たちがいると、毎日の部活が楽しいよねー煌晴?」
「え、あ、あぁー……。そうかもな」
そんな面白おかしい先輩たちを、俺たち一年はほのぼの? とみているのだった。
こんな調子ではあるが、これがある意味いつもの漫画研究部だ。
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