第47話 いよいよ当日!
日は流れ、いよいよ即売会当日の日がやってきた。
六月の下旬。梅雨の時期真っ盛りではあるが、今日の予報は一日中晴れ、降水確率はゼロパーセント。絶好のイベント日和である。
と言っても今回のイベントは室内で行われるものだから、あんまり関係ないような気もするが。
「お兄、ちゃー……ん」
「……」
「ねーむーいーよー」
「頼むから、せめてもうちょい起きててくれ」
現在時刻、朝の六時四十七分。今は家から近い、駅に向かうバスの通るバス停まで、葉月と莉亜の三人で向かっているところなんだが。葉月の目は非常に虚ろだ。
歩いていてはフラフラと。でもってさっきから俺の左腕にしがみついて、枕替わりにしながらウトウトと。
「頼むから。バスの中でならいくらでも寝てていいから。今は起きてくれ危ないから」
「うみゅうぅぅぅー……」
話を聞いてくれてるのかまるでわかったもんでは無いが、左腕にしがみついてはズルズル引きづられているままということは、聞こえていないと言っていいだろうな。
葉月のは小さい頃からどうにも朝が弱い。寝坊するという訳では無いのだが、六時半より前に起きようとすればこうなる。
学校行事なんかで早くに行かなきゃならない時、葉月を起こすのがどれだけ大変だったか。現に今日もそう。
当初は六時に起きるって言ってたけど、案の定起きてこなかったので、その十分後に部屋まで起こしに行って見れば、スマホのアラームがなっているのにも関わらず、見事にヨダレ垂らして爆睡していた。
しかしだからといって四の五の言ってもいられない。今朝は槻さんのご関係者のお世話になるので、約束の時間である七時半までには駅に向かわなければならない。
ということでまずは駅に向かうためにバス停まで歩き……。
「Zzz……」
「ってもう寝てるし。どうしたらこれで寝られるんだよ全く……」
「Zzz…………」
「朝からみっともねぇから、自分の足で歩け!」
「ふみぁぅぅ?!」
さすがに限界が来たので、クイッと左腕を前に動かしてやったら、それでびっくりしてようやく葉月が起きた。
「ふぇぇ……。お兄ちゃんがいじめるよぉ、りあねぇ……」
「煌晴……」
「うん。俺が悪いみたいになってるけどさ。俺だって大変なんだぞ」
寝ながら歩いてもらっても困る。そんなことでは事故にあってもおかしくないし。
てか寝ながら歩くってなんだよ。前にネットで見つけた歩ける寝袋を思い出しちまったじゃねぇか。とまぁそんなことはどうでもいい。着替えて家から出たんだから、いい加減に起きてもらわにゃ困る。
「葉月は眠いからーおにーちゃーん、おぶってー」
「駄々をこねるんじゃありませーん」
「ふぇぇ……」
また左腕にしがみついて来るもんだからブンブン振って引き剥がそうとはするが、今度はさっき以上に頑固だ。
「煌晴。流石にそろそろ折れてあげたら?」
「そんなこと言ってもなぁ。甘やかしすぎるのも良くないって言うし」
「すぅぅ……」
「……」
寝ているのか、それとも寝たフリで俺の匂いを嗅いでいるのか。もうわからん。せめて前者であってくれ。後者でないことを深く祈りたい。
甘やかしたくないというのもそうなんだけど、このままうだうだしててもバスに乗遅れてしまう。葉月を起こすのに思いのほか時間を使ってしまったから、あまり余裕が無い。
「はぁ……仕方ない」
冷静に考え直してみれば、このままズルズルと葉月を引っ張りながら歩くよりは担ぐなりしてやった方がましな気がしてきた。
「ほれ葉月。おぶってやるからわがまま言うな」
「ホント! お兄ちゃんありがと!」
こういってやったら、葉月が一気に覚醒した。これならもう普通に歩いてくれてもいいだろう。って言いたくなったが、そう言ったら今度はふて寝しそうだから言わないでおこう。
「バス停までな。駅に着いたらちゃんと歩けよ。衆人監視の前で妹をおんぶするのはさすがに恥ずかしいんでな」
「はーい」
「莉亜。スマンがそれまで、俺のリュック持ってくれ」
「はーい」
背負っていたリュックを莉亜に渡してから、腰を落とす。そしたら葉月がぴょいっと飛び移る。
こうして妹をおぶってやったのって随分と久しぶりな気がする。記憶が確かなら小学校の低学年くらいの時以来か。
あの時とは違って葉月も成長したから少々きつい。しかし成長したのはこっちも同じこと。これくらいでお兄ちゃんが音を上げてなるものですか。
「……大丈夫?」
「大したことない。さっさと行くぞ」
葉月……。だいぶ前にガッツリ見ちゃったのもあるから知ってるが、そっちもちゃんと成長したんだな。
ギリギリでバス停に着いたら、そこからはバスに乗って一気に駅まで。土曜日の早朝なので、普段は通りの激しい道でも空いていて、バスは閊えることなく進んでいく。
二十分ほどして駅に到着。時刻表の関係でギリギリになってしまったが、ここまで来ればもう少しだ。人通りの多いコンコース内をくぐり抜けて東口に出たら右へ。
「おーきたきた。こっちっすよー!」
「どうも、ギリギリになってすみません」
先に来ていた月見里さんが俺らを見つけると、ブンブンと右腕を振って合図を送ってくれる。
走って近くまで着てみると、薫と宮岸さんもいた。
「おはよう煌晴」
「おはようございます」
「そいじゃあこれで全員っすね」
「全員って……揃ってませんけども」
今ここにいるのは一年五人と月見里さん。戸水さんと槻さん、それから干場さんの姿は周囲に見当たらない。
「わかちーとしおりんは準備あるから先に向こう行ってるっすね。ひなちーは直接行った方が近いそうなんで、現地で合流っすね」
「そうですか。わかりました」
確認が済んだところで、一台の車が俺らの前で止まった。そして中から見覚えのある男性が現れた。
「おはようございます皆さん。これでお揃いでしょうか」
「はい。駅組はこれで全員っすね」
「かしこまりました」
以前にリムジンを運転していた町居さんと話をして、一同目の前の車に乗り込む。
それにしても今日は普通の車。この前乗せてもらったリムジンではなく、極々普通の青色のボックスカーだ。
「今日はあれじゃないんだな」
「行く場所が場所だから。リムジンだとすごく目立つんじゃないかな?」
「あー確かにそうかもな」
ふとした疑問が浮かんだが、薫に言われて納得がいった。
今日行くのは即売会。そんなとこにリムジンで現れようもんなら、騒ぎで済んでくれればいい方なのではと思う。
そんな疑問も解決したところで、会場に向け車が動き出した。
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