第42話 切なさと悲しみ?

「それで割り切っちゃうのは、どうかと思いますけど」

「時には踏ん切りをつけるのも大事なことなのよ。いちいち首を突っ込んでいたらキリがなくて」

「俺らが入部するまでの間に何があったんですか……」


 なんか、聞いたら野暮な気がするんだが。改めて考えてみれば、二年のメンバーのほとんどって、活発というか世話のかかりそうというか。


 戸水若菜とみずわかな。この漫画研究部を立ち上げた人物。行動力が高く、突然の思いつきで行動することもしばしば。

 これから言う事はできることなら言いたくないことではあるんだが、一応まとめとして言っておこう。

 ドMである。最近は、暴走しては宮岸にしばかれるまでが一連の流れだ。


 干場姫奈菊ほしばひなぎく。成績優秀で見た目も良く……なんだがそこから連想される完璧系とは裏腹に、とんでもないくらいの厨二病少女。

 大魔術士だの魔皇帝だの。肩書きがコロコロ変わるし、それ故の発言のせいで言ってることなどだいたい分からない。


 月見里湊やまなしみなと。おおらかでフレンドリーな性格。見た目や振る舞いがギャルっぽい。

 前述の二人に比べればまだ大人しい方ではあるが、ノリと勢いでガンガン行くことが多いので、放っておくと手がつけられなくなることもあるのは玉に瑕か。


 槻さんはよくこれまで、この三人のお相手ができたなぁと思う。本人が純粋なのもありそうだがな。


「色々あってねぇ。でもそんな日々は私がこれまで経験したことないようなことばかりだったから、むしろ楽しくて」

「振り回されて、そう思えるのが羨ましいです」


 俺にはそこまで思えるほどの心の余裕なんてないだろう。思うとしたら、「勘弁してくれ」か「またか」くらいだろうよ。


「此度もまた、騒がしきことになってるでは無いか……。我が下僕が粗相をしたな」

「いや、干場さんは今関係ないですよね」

「何にせよ、我の下僕のもたらした不届きだ。それとだ。我のことは魔公子ヒナギクと呼べ」

「せめて肩書きは固定してください」

「何者ではなく、何者にもなれる。それが我、ヒナギクというものだ」


 そう。こういう振る舞いだから話するだけでも疲れる。場合によっては莉亜の不始末をする以上に疲れる。

 これ以上この人の話に付き合ってたら、もうやることする前に俺がノックアウトしそう。


「ともあれ槻さん。このままズルズルやってても仕方ないですし、そろそろ始めましょうよ。全員揃いましたし」

「時間も少し過ぎちゃってるからね」


 槻さんは立ち上がると、戸水さんたちのいる方に向かって手を叩いた。


「若菜ー。皆ー。そろそろ部活はじめるよー」

「え、あ、そっかそっか。そういえばとっくに時間過ぎちゃってるや」

「いきなりSBMのリセマラ始めだすからですよ。それでどうだったんですか」

「三十三連で、フェス限三枚込みの星五が六枚。神引きってレベルを超えてるわね。うん……ヤバいわね」


 それは確かにヤバいですね。大体のソシャゲのガチャの最高レアリティの出現率が二、三パーセント程。

 SBMの星五排出率は三パーセント。今回はフェスで確率二倍なので六パーセント。三十三連で六枚なら中々の神引きだと思うよ。


「わかりました。ともかく部活始めましょう戸水さん。宮岸、続きは部活終わってからな」

「はいはーい。大桑君にそこまで言われちゃったらねぇ」

「わかってる。後で色々教えてくれると嬉しい」

「おう。今日の部活終わったらな」


 宮岸さんがガチャで神引きをしたところで。ようやく今日の活動を始められる。


「それで今日は何をするの若菜?」

「そうだなー……。頒布する同人誌は私が最終チェックをしているところだし、できることとしたらねー……」

「あのー、なら俺からいいですか?」

「何かしら?」

「こんなことを言ってしまうのはアレなんですけど、即売会についての詳しい知識がほとんどないので、良ければ説明を頂けると」


 漫画研究部に入っておいてこんなこと言ったらお終いなんだろうが、俺にはそういう知識はあまりない。

 莉亜の手伝いをすることはよくあるんだが、あくまで手伝いをするだけ。漫画やラノベを読むことはあるけど、莉亜ほどガッツリのめり込むものでもない。地元でもこういうイベントが開かれているということ自体を昨日初めて知りましたし。


「あ。一応、私もいいすかわかちー」

「そうね。売り子をする以上はある程度知っておく必要はありそうね」

「助かります」


 ということで。まずは即売会がどういうものかについてを戸水さんから説明してもらうことに。

 即売会というのは各サークルによって制作された、通称薄い本と呼ばれる同人誌の販売の他、CDやキーホルダーといったものも売られているんだとか。

 販売の他にも、イベントの中身によってはミニライブやコスプレ撮影なども行われるんだとか。


 即売会として有名なものであれば、数日で百万近い人が集うんだとか。

 今回俺たちが参加することになるものは、規模としてはそこまで大きくはないと言う。


 地方開催としてはそれなりに大きなイベントだとは言う。戸水さん曰く、地方だと即売会や原画展といったオタクイベントってほとんど開催されないんだとか。半年に一回あればという。


「ライブツアーとかも、こっちに来ることってほとんどないっすよねー。近くても京都だったり新潟だったり。行くのだけでも大変っすよー」

「まぁ湊ちゃんの言う通りね。ここいらで開催されてるってのだけでも結構貴重なことでね」

「ですよねー」


 これが、都会とは違う地方の悲しみである。行きたい、興味のあるイベントに中々行けないと言う。


「まぁ地方民の悲しみを語るのはこれくらいにして。改めての説明にはなったけど即売会ってのはこんな感じのイベントね」

「色々やってるんすね」

「ものによっては、SNSも栄えるからねぇ」


 基礎的なことを改めての教えてもらったところで。今日は告知内容についてを皆で考えることになった。

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