第43話 学校周りの悩ましき事情
作業を初めておよそ三時間。
「それじゃあ今日はこんなところかな」
「おつかれっしたー」
本来は八時半スタートの予定ではあったんだけど、突然のSBM談義で開始が遅れて九時前からのスタートに。
SNS、会場での告知のためのポスター作成。それに伴っての同人誌の価格設定を今日はすることになり。区切りのいいところまで作業が進んだので、今日はここでお開きとなった。
自分らで物の値段をつけると言った経験。学校のフリーマーケットやバザーでもやったことないので、そこは他のサークルのものをいくつか取り上げて参考にした。
今回頒布する新刊二冊については、どちらも一冊五百円。さらに当日は戸水さんがスケッチブックの受付もするそうだ。料金設定はしないが、新刊購入者限定での対応になるそうだ。
ちなみに戸水さん曰く、即売会でのスケッチブック依頼におけるルールって、意外と闇が深いんだとか。
ポスターの作成については、皆で相談しながらレイアウトや配色を決めていく。シンプルでわかりやすく、見栄え良くを重視して。
今日はポスターの大まかな下書きまでを進め、完成品は近いうちに戸水さんが作成すると言う。
「今日はお疲れ様。さてと。この後どうしようかしら」
「それじゃあお昼行きましょうよ! お腹すきましたよー」
「あ、いいわね。どこ行こうかしら」
「そうっすねー……」
午前中の打ち合わせが終わった後は、部室でワイワイと雑談が始まる。
「ねぇ大桑さん」
「ん。どうした宮岸」
「朝の続き……」
「あぁそっか。えーっとガチャは引き終わって、どっから説明すりゃいいんだ」
俺は宮岸の朝のSBMの続きに付き合うことに。大体のシステムはチュートリアルでわかってるとは思うから、後は編成とか最初の進め方とかになるか。
宮岸にゲームの説明していると、向こうからは色んな話題が聞こえてくる。
これからお昼に行こう、その後は何をしよう、この前貸してもらった漫画が面白かったなど。何を話しているのか全てがわからなくなるくらいに話題がごちゃごちゃしている。
「ごめんね若菜。午後からは予定が入ってるの」
「我もこれから、崇高なる眷属達との会合に向かわねばならぬのでな」
「あらそうなの。残念」
槻さんと干場さんはここで退席となった。てか干場さんはこれから何をしに行くつもりなんだ。
言い回しが眷属といい会合と言い、何を持って何をせんとするのか意味不明である。都合がつかないというくらいしか俺には分からない。誰でもいいから翻訳してくれないかこれ。お駄賃恵むから。
「すみません私も。お母さんと買い物行かないと行けないので……」
「えーりあ姉帰っちゃうのー」
「わがまま言うなよ葉月。莉亜だって忙しいんだから」
「だってって何よ煌晴。ごめんねー葉月ちゃん」
この後の予定が合わない三人が部室から出ていったところで、雑談再開。
とりあえずは昼時なのでお昼を食べに行こうかという話になったんだが。
「せっかくだから何処か食べに行こうよ」
「そうですね。この近くでだと……」
薫が近くでお店はないかと提案する。しかし戸水さんと月見里さんの表情はどういうわけだか険しい。
「思うんことがあるんすけどね。うちの学校の周りって飲食店少なくないすか?」
「そうよねぇ。隠れた小さなお店……とかは探してみたらありそうだけどね」
「あの……そんなに少ないものなんですか?」
薫がそう聞くと、月見里さんは両腕を組んで悩ましそうに答える。
「それが少ないんすよねぇ。持ち帰りはともかくとして、中入って食べるようなとこってなると。大きいとこでウチから一番近いのって、チェーンの蕎麦屋っすよ」
「そ、蕎麦屋……」
「ファミレスとかファストフード店、学校の近くに一個くらいあってもいいと思うんすよねー。後は少し遠くになるけど、あっちの方に降りれば回転寿司とカレー屋ならあったわね」
「確かに僕がたまに使うバス停近くにありますけど、近いとは……言えませんよね」
妙蓮寺高校から見て、俺らの家とは反対方向にその蕎麦屋はあると言う。高校生が昼時に蕎麦屋によるというのは、あまり想像ができない。
「コンビニは二軒ありますけど、ちょっと遠いんすよねー。まぁそこまで言っちゃうと贅沢ってもんですけどね」
「でも湊ちゃんの気持ちはわかるわー。そういうのが地味に不便なのよねー」
「そうっすよねー。麓に下りるか、駅とか街の方行けばあることにはありますけど。そこまで行くのも楽じゃないんすよねー」
妙蓮寺高校は小高い丘の上、閑静な住宅街の中にその校舎が建てられている。
それ故に、駅や市街地の方からは少し離れた場所にある。自転車で十五分程でいける距離ではあるが、少々不便というのはまさしく戸水さんや月見里さんの言う通りだろう。
「どうしたもんだかなー……ってそうだ」
今ここにいる六人で、お昼をどうしようかと考えていたら、突然月見里さんが俺と葉月の方を見て。そして近づいてきて聞いてきた。
「こうちんにはづちー」
「な、なんでしょう?」
「りあちーから聞きましたけど、家ってここの近所なんすよね?」
「まぁそうっすね。産まれた頃から住んでた場所なんで」
「だったらなんか、隠れた名店とか知らないっすか?」
「名店ですかぁ……」
いきなりそんな事を聞かれると、果たしてどう答えたらいいもんだか。
確かに長いことここいらには住んでいるが、俺も葉月も高校一年の十五歳だ。
「さすがに高一なんで……。そういう情報には詳しくないっすね」
「葉月もです。それに住宅街なので、周りは家ばっかりっていうイメージしかないです」
「あちゃーそっすかー」
分からないものは分からない。思い当たる節もない。それでは答えようもないのだ。
「そしたら駅近くのファミレスにでも行きますか?」
「そうしましょうか。バス何分だったかしら」
「あー待ってください今調べるんで……ってマジすか、後九分で駅行くやつ来ますよ!」
「なら急ぎましょう」
そんなこんなで駅の近くのファミレスに行く事に決定。もうすぐ来るバスに乗り遅れないようにと、俺たちは急いで荷物をまとめて学校を出ていくのだった。
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