第40話 態度の変わる理由
先に生徒玄関に降りてから三分程で薫がやってきた。
わざわざ個人を呼び出して話をするくらいだからもうちょい掛かるかと思ったんだが、そうでもなかったようだ。
「おまたせー」
「おう。そいじゃあ帰るか」
その後は一年の五人で帰ることになった。
大通りの方に向かって歩きながら、さっきのことについてを聞くことに。
「にしても、戸水さんとは何の話してたんだ?」
「即売会のことについて。当日に先輩から頼み事をされたんだ」
「頼み事?」
「でも他のみんなには内緒にしてくれーって言われてるから、今はまだ言えないや」
しかし依頼人から口外禁止を言い渡されたようだ。当日までのお楽しみってことなんだろうが……ってかなんか右の方から殺気というか、おぞましいオーラが滲み出ているような気がする。
「あの人のことのことだから絶対ろくな事じゃない。てか絶対そうだよ……」
「おい。頼むから落ち着いてくれ」
傘を刀の居合切りみたいに構えてる宮岸がいまして。あの日以降から、彼女の戸水さんに対する好感度は下がりつつある。
原因は考えるまでもなく、あの日の銃撃事件だろう。
「桐谷さん。何か嫌なことあったら私に言って」
「え。あぁうん。でも宮岸さんが思ってるようなことじゃないから」
「それでもあの人は何しでかすか分からないから」
「あんたって見てて危なっかしいんだけど。普段ほとんど喋らないくせに、いきなりべらべら喋ることあるから少し怖い」
「あなたもやることは変わってると思うけど」
「言うわねぇあんたぁ……」
「怖いから、その居合の構えを解いてくれないか宮岸。怖くて横を歩けん」
それだけで殺意というか戦意がビリビリ伝わってくるんだよ。直視できないくらいに怖いんだよ。
前に警棒持ってきたことあったから、今度は何を持ち出してくるのでしょうか。ひとまずは、モデルガンを持ってこないで欲しいとだけは願いたい。そもそも武器を持ち込む時点で十分にアウトなんだが。
「莉亜も変な事言うな」
「はいはい」
「……ごめん」
「た、頼むから穏便にな」
「うん」
強情かと思ったんだが、俺が一言言ったらすぐに構えを解いてくれた。
大人しいのか、Sなのか。周りに対して敏感なのか。本当の宮岸がなんなのかが時々わからなくなる。
「女の子なんだから、俺としてはおしとやかであって欲しいんだが。槻さんみたいにさぁ」
「煌晴は、そういう女の子の方が好みだったりするの?」
「そういうのがタイプ……ってのとは違うんだけどな。まぁその、幼馴染がなぁ……」
後半は聞いてきた薫にだけ聞こえるように言った。莉亜や葉月に聞かれるとあれだし。
「ねぇ煌晴」
「なんだよ莉亜」
これから何かしでかしそうな宮岸を落ち着かせたところで、今度は葉月を挟んで左に居た莉亜が。
「宮岸さんっていつもはなんかつんつんしてるって言うか素っ気ないくせに、煌晴にだけはちょっとデレデレしてるっていうか、気を許しているって言うか」
「あー葉月もそれ思うー」
「……」
今度はなんだなんだ。
「蕾ちゃん! お兄ちゃんは葉月とりあ姉の物だから!」
「いつから俺はあんたらの所有物になった」
とうとう人ではなくモノ扱いか。もし俺が莉亜意外と付き合うことになったらあんたらどんな行動をとるおつもりですか。
「あれか。この前煌晴に押し倒されたからか!」
「あれはただの事故だし関係ないだろ!」
「あーそういえばあったねーそんなこと」
不可抗力……と言っていいのかはわからんが、それが理由ではないと思う。それならむしろ目を合わせることさえ叶わなくなるのだが。
「じゃあもしかしてだけど……初恋の相手がお兄ちゃんに似てた、とか?」
「……」
「宮岸?」
葉月の発言が図星だったのか、今度は顔が赤くなる。
表情はほとんど変わらないんだけど、今みたいに話ぶりがコロコロよくあるから、それでなんとなくでも喜怒哀楽くらいはわかるようになった。
「そういうのじゃ……お、お付き合いなんてしたことないし。大桑さんはいい人だから。少なくともあなたとは違って。でも……」
時々声が小さくなっている。葉月の言ったことが正解なのかどうかはわからんままだ。
てかサラッと毒吐いたな宮岸。でもってそれに敏感に反応する莉亜。
「私に対する宣戦布告と受け取っていいのかしらー……?」
お前がそうやって余計なことを言うからだ。わざわざ喧嘩売るような言い方するからだよ。
それもそうだし。本人には自覚がないんだろうけど、宮岸も時々挑発するような事言うから。
マジで頼むから。ホントに。仲良くしてくださいって。
「落ち着け二人とも。喧嘩なんてみっともないことすんな」
「私としてはあいつが気に入らない」
「米林さんは幼馴染として、大桑さんを労わるべき。苦労するというのも頷ける」
「私とあんたじゃねぇ……」
「言ってる側から勃発させんな」
俺もそうだし、薫も葉月も困ってるだろうが。
「はいはいやめやめ。これ以上俺らの手を
「二人とも、まずは落ち着こう?」
「ぐぬぬ……」
「……」
いつになったら本当の意味で終戦を迎えてくれるのか。先は長そうだ。
そんな心配事をしてるうちに大通りまで出てきた。ここから薫と宮岸は帰る方向が別になるので、ここでお別れだ。
「それじゃあ僕はこっちだから」
「おぉ。そういやさっきバス停通り過ぎちまったけど、そっちじゃないのか?」
「僕の家の近くまで行くバス、もう少し歩いて下の方まで降りないとないから」
「下の方までって、それなりに距離あるぞ」
「大丈夫だよ。大した距離じゃないから。それじゃあまた明日ね」
下まで降りてバスに乗って、降りた先からまた歩いて。高校から家が遠いと大変だなぁ。
俺はたまたま志望校が近くにあったからありがたいものか。
二人と別れ、いつもの三人になったところで改めてというか、やっとというか。
「ねぇ煌晴。煌晴ってなんか宮岸さんの肩持つこと多くない?」
「そんなことはないと思うけど」
「毎回衝突すると、大抵そうだし!」
「その原因がお前にある場合が多いんだろうが」
全てとは言わないが。衝突する七、八割くらいは莉亜の方だ。それに乗っかってしまう宮岸もどうかと俺は思う。
「葉月は莉亜が喧嘩するとこ見たくはないだろう?」
「うん。りあ姉、葉月には優しいもん」
「葉月ちゃんは可愛いんだもん。宮岸さんはなんてっかこの……なんか気に食わないのよ」
「少しずつでいいから理解していけよ。同じ漫画描きなんだからさ。これから戸水さんの手伝いをしていかんなんのだから、いがみ合っててもどうしようもないだろ」
「ならあんたがどうにかしてよー」
俺がどうしろって言うんだよ。宮岸を説得しろってか?
悪いが俺には、二人が衝突した時に仲介役になるくらいしかできないからな。
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